エトナと結婚して、第一児であるリトを生んで、私の中でレイスという存在は薄れ始めていた。
偶にふと思い出すことは有るけど、前程の後悔は感じない。今は、これで良かったと思える。
エトナが居て、リトが居る。これ以上の幸せはきっとない。
きっとレイスと別れるのは運命だったんだ。そして運命は私をエトナと出会わせてくれた、だから。あの時残酷と感じた神様へ。

ありがとう。


――A-3【無慈悲なる世界】――


リトが7、8歳前後まで成長したある日だった。
私は、エトナとの正式な子を妊娠した。
勿論リトも大切な私達の子供だけど、事実上エトナと血の繋がりは無い。彼の父親はエトナでもありレイスでもあるのだ。
だから純粋なエトナとの子供はこの子が初めてになる。勿論、喜んだ。
「リトは今度からお兄さんになるのよ」
「おにいさん?」
不思議そうな顔をする子供に、優しく微笑む。
傍らに居たエトナがリトの頭を優しく撫でた。
「そう、お前はお兄さんだ。次の春ぐらいに、新しい家族が出来るんだよ」
そうなんだと、呟いたリトが嬉しそうな顔をした。
…改めて、リトの外見が私に似てくれたことが本当に幸いだと思う。
もし、レイスに似て銀髪の子だったら、この子が大きくなったときエトナは本当の両親じゃないと気付くに違いないだろう。
私もエトナも赤髪だから、銀髪の子なんて生まれる筈も無いのだ。


――そして、4月20日。
第二児の、女の子が誕生した。

「名前何にしようか」
生まれて間もない赤ちゃんを撫でながら、エトナが聞いてきた。
「今度はエトナが決めてよ」
リトという名前は私が付けたから、今度はエトナが考えてほしい。
そう伝えるとエトナは悩んだ顔を見せた。
すると傍らに、起きてきたリトがやってくる。夜遅くだからなるべく静かにしていたつもりだが…どうやら起こしてしまったみたいだ。
「おいで、リト」
眠そうに瞼を擦るリトを手招きし、エトナは少年の体を持ち上げた。
「ほら、お前の妹だよ。今日からリトはお兄さんだ」
「…うん!」
目の覚めたリトが嬉しそうに返事をするのをみて、また嬉しくなる。
エトナはリトに妹である赤ちゃんの頬を撫でさせてから、そっと地面にリトを下ろした。
「そうだ、リト。お前、この子の名前何が良いと思う?」
「んー」
小首を傾げてリトが考え出す。その姿が微笑ましくて、エトナを目を合わせて笑ってしまった。
「じゃあ、リネ!」
意外とすんなり出てきたみたいだが…どういう由来なのだろう。
「どうしてその名前が良いんだ?」
私の代わりにリトに問い掛けてくれたエトナを見、リトが無邪気に笑う。
「リトのリ!!」
…ネは何処から来たのだろうか。不思議だけど、その名前。私は気に入ったかも。
「リネ、か。良い名前じゃないか。…どう思う?カトレア」
「うん。それで良いと思う」
結局リネの「ネ」がどんな由来なのか分からなかったけど、リトと近い名前を付けたいと思っていたのは私もエトナも一緒だから、リトの案で統一す
る事にした。
第二児。長女の名前を、リネ・アーテルムと定めた。


ねえ、レイス。貴方は今幸せですか?
私は、幸せよ。
今なら貴方と別れた事が、エトナに出会えたことが…一つの運命だと思えるから。




※ ※ ※




「――殺人事件?」

「はい。場所はグローバルグレイスの…ああ、あの人の所です。
犯人は父親と母親を殺害し、逃走。犯行を目撃した人が居ないので犯人の特定はまだ出来ていません」

「…子供が2人居たそうだな?」

「みたいです。なんでも、その日は偶々2人で外に遊びに行ってたとか…。
…可哀想に。同時に両親を殺されてしまうなんて」

「犯人はとんだ鬼畜だな。
直ぐに捜査を開始する。それと…その2人の子供ってのを保護してくれ。犯人は子供も狙ってるかもしれない」

「了解です。リーダー」


――貧富の差が多少有るとはいえ、穏やかであるこの街に殺人事件が起きるのは何年ぶりだろうか。
union本部を飛び出し、直ぐ傍にある殺人現場へ立ち寄った。
部屋の中は杜撰な状態だ。
棚の物が落ちている辺り、恐らく犯人と被害者は争ったのだろう。
…被害者と犯人の繋がりは何だ?
無差別殺人、では無いだろう。捜査unionである俺のunionが近くに有るってのに、わざわざ見つかりやすい場所を狙う必要が無い。


「…どうして、君なんだろうな」

怨まれるような子では無かったのに。
俺のunionをレイスと一緒に抜けてからも、彼女とは何度か手紙のやりとりをしたが特別変化は無かった。結婚して、子供を生んで…。


…レイスと別れた事に、関係しているのか?


「…いや」

あまりその可能性は考えたくない。レイスが人殺し…。…は、合ってほしくない。
かつての仲間として。






※ ※ ※









「…ねえ、お母さんとお父さんは?」

「ごめんな…。リネ」


お前は、俺が守るから。
――俺は、母さんと父さんを殺した奴を、許さないから。

絶対に。










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