それは優しい夢だった。 *NO,141...Epilog* 何も無い空間には、既に少女の姿は無い。 でも直感で分かる。彼女はもっと遠い所へ行ったのだ。――それは生きているあたし達が届く筈の無い場所。天国に限りなく近い、楽園。 願わくば彼女が地獄に落ちていない事を願う。だってあの子は何も悪くないんだから。 何も無い空間は何処までも空虚で、そして何故か暖かだ。 何故あたしだけが此処に居るのか、あの後どうなってしまったのか。この白の空間では分かる余地も無い。 それでもきっと、何時か――。 静かに腰を下ろし、何も無い空間を見つめていた。 する事は無い。だが何故か退屈では無い。 あたしはどうなってしまったんだろう。この世界は何なのだろう。 同じ事ばかり考える末に――遠くの方で白の世界に不釣合いな、紅い光が見えた。それは一瞬だったけど、紛れも無く白以外の色だった。 ――こっちだよ。 そんな声が何処かから聞こえる。本来なら警戒するべき言葉だと思うが、何故か妙に安心する声だった。 その声に導かれるように、立ち上がりゆっくりと歩き出す。――紅く光った光の方向へ。 * * * SAINT ARTS本部に着くがジブリールの背中を飛び降り、本部の扉をけたましく開けた。 イヴ達が居るであろう部屋の前まで小走りに走り、扉の前に着いてもノックも無しに慌てて扉を開ける。 「――ロア、マロン…!」 最初に気付いたのは、いや、声を掛けたのはセルシアだった。扉を閉め、ベッドに屈服したままのイヴの傍に寄る。 当然と言えば当然だが、彼女に目覚める気配は無い。 「…ノエルは?」 問い掛けてきたのはレインだった。その質問に、マロンと一瞬顔を見合わせる。 「…グローバルグレイスに、残った。レインの傍には居られないって」 「……そう、か」 目を閉じたレインがそっぽを向いてしまう。…心配しているのか、それとも。 何れにせよ彼女が自分からレインに会う気は、きっと無い。もしレインが再び彼女に巡り逢いたいと思うなら、彼からノエルを探さないといけないの だ。だが今の怪我のレインではそれも当分先になってしまうだろう。その頃にはきっと、ノエルの足取りも掴めなくなってしまう。 …ノエルを連れて来なかった事を改めて後悔する。レインに何だか申し訳ない気持ちになった。 「…それで?秘宝は貰えたの?」 ――ライカの言葉に一瞬だけ忘れていた秘宝の事を思い出し、受け取った秘宝を皆に見せた。 それは赤々しい光をまるで内側から放っている様な…まさに心臓の様な光だった。 「貸して」 ライカが手を伸ばす。その手に秘宝を渡した。使い方が分かっていない俺達よりも、明らかにそう言う系に詳しそうな姉に任せたほうが此処は最善 だろう。万が一壊したりでもしたら、それこそ龍達になんて謝れば良いか分からなくなる。 そう思っているとライカが俺だけを手招きした。傍によると今さっき渡したばかりの秘宝を返される。 「祈れば良い。ロアが、願って居る事。その力がきっと秘宝の力を引き出す」 ――俺が願う事。 そんなの最初から一つだけだ。 お前だけが全部背負うなんて許さない。あの時―故郷ウィンドブレスに行く前―にも言ったのに、彼女もセルシア並に分からず屋だ。 いい加減目覚ませよ。 そんで、一発殴らせろ。 ――それから、お帰りって皆で言ってあげるから。 目を閉じた瞬間、瞼の裏に紅い光が見えた。 驚いて目を開けるが直ぐに又目を細める。瞼の裏に見えた紅い光は、秘宝からの輝きだった。 ――手の中に納まっていた秘宝がゆっくりと手の内を離れていく。 そうして赤の秘宝はまるで最初から無かったかのように空気の中に溶けていった。 何が起きたのか、理解できない。 光が収まってからも、呆然としたまま動けなかった。 既に手の中に龍の秘宝は無い。何処へ行ってしまったのだろう。転がったなんて事は無い筈なのに。 辺りを見回していると――変化に気付く。 「……ロア?」 彼女が最初に見たのが俺だったのだろう。 薄くだが開いたその瞳には、俺の姿が映っていた。 「――イヴ」 「…此処、どこ…?」 頭を抑えながら彼女は何事も無かったかの様にベッドから起き上がった。 その瞳が緋色に染まっていた事に少しだけ驚くが、直ぐに直感が働く。 ――心龍はイヴの中にも夢喰いが封じられてしまったと言った。つまり彼女の瞳が緋色に染まったのは、彼女の体内に夢喰いが居るという証なの だ。こればっかりは龍の秘宝の力でもどうにもならなかったんのだろう。 起き上がったイヴの傍に走ってきたマロンが飛びついた。 「良かったぁ…!!」 ――その言葉に何だか俺も安心した。瞳の問題とかそんな事どうでも良くなった。 イヴが目を覚ました。それだけで十分。 「ちょっと、どうしたのよ」 多分イヴは自分の身に何が起こっていたのか知らないのだろう。説明は後でしておかないと。 イヴの腰にしがみついたままのマロンを宥める彼女の頭を、そっと撫でる。 「…何よ」 「お帰り」 「……」 一瞬だけ驚いた顔をした彼女がそうして唇を吊り上げ、 「ただいま」 笑った。 * * * 「何処に行く気よ?――レグロス・ナイングロス」 静かに部屋を出たレグロスとネオンの2人を呼び止めたのは、同じタイミングで部屋を出たライカだった。 「あの子達は気付かなくても、あたしには分かる。――神官を、あんまり嘗めるんじゃないわよ」 「――何のことだ?」 それでも尚白を切る2人に、ライカが意地の悪い笑みを浮かべる。 「とぼけないで。分かってるって言ってるじゃない。 ――貴方達の名前を英語に直して、並び替える。そうすれば、ほら。出来上がるわ。貴方達の‘本当の’名前」 ――その言葉を聴いたレグロスが、同じ様に微笑んだ。 「やれやれ。幾つになっても君には叶いそうにない。流石はマッドラス家、か」 「初めから知っていたんでしょう。ヘレンがBLACK SHINEリーダーだって事も。彼女が歪んだ道に走ったのは自分達の所為だって事も。 ――だからイヴちゃん達に協力した。 そしてヘレンも又、貴方達2人の正体に気付いていた。 だからヘレンはVONOS DISEを滅ぼした時、情報が漏れてる可能性が有ったのにSAINT ARTSには手を掛けなかったのよ。…そうでしょう??」 彼女は一呼吸置き、言葉を続ける。 「心龍。…いいえ。リウスとロスト」 ――その言葉に彼等は振り返って笑った。 「それは内緒」
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