頭痛の走る体を無理矢理起こす。 次に目覚めた時、辺りは見覚えの有る部屋に転換されていた。 ――SAINT ARTS…。部屋の風景や窓の外から見える景色からして、間違いなく此処はリネの滞在するunionだった。 「――起きた?」 不意に声を掛けられ、慌てて振り返る。 其処には声を掛けた本人であるリネと――横には目を細めたままの姉が居た。 *NO,139...‘はじまり’と‘おわり’* 「…あれ、姉貴?」 最初の一声に溜息を吐いたライカが、立ち上がり軽く頭を殴った。 痛いと思った次の瞬間には彼女に頭を撫でられていた。 「無茶するなって、言った筈何だけどね」 「…えっと」 「――おかえり」 その言葉にはっと顔を上げる。彼女は優しく微笑んでいた。 ――もし帰ってこれたら、‘ただいま’って言わせてほしい。 そう言ったのは俺なのに、どうして忘れていたんだろう。苦笑して呟いた。 「ただいま」 同じ様に微笑んだライカがその場から離れ、まだ目を覚ましていないアシュリーとマロンの方へ歩いていった。 レインは既にベッドに座っている。大分前に起きたのだろう。セルシアも体を起こしては居ないモノの起きてはいるようだ。 イヴは一人、昏睡状態で未だ目を覚ます素振りすらない。――このまま永遠に目を覚まさない。心龍とロストはそう言ったけど、俺はそれを絶対に 認めない。 拳を握り締めると、少しだけ髪を掻き揚げたリネが言葉を呟く。 「キース達と戦闘をした後のあたし達を助けてくれたのも、ライカさんなの」 「…姉貴が?」 「彼女はあたし達を心配して、知り合いの龍に頼んでBLACK SHINE本部まで来てくれたのよ。――彼女は神官だから、龍に知り合いが居てもちっ とも驚かないわ」 ‘神官’はネメシスの石の語り部でもあり、心龍の世話をする者でも有る。確かに姉貴の知り合いに龍が居たとしても、驚く事では無い。 恐らく場所は心龍か誰かに聞いて、BLACK SHINE本部まで来てくれたのだろう。死ぬ予定だった俺達を心配して。 「彼女の回復魔術とあたし達の所持していた心具のお陰で、あたし達は一度死んだ命を吹返した。 ――夢喰いを封印する前に死ぬなっていう、心龍のお告げだったんでしょうね。 心具の中に少しだけ残されていたあたし自身の生命力があたし達の命を吹返す‘元’となって、そこから重症だったあたし達をライカさんが回復術 で救ってくれた」 「…お前等、一度は死んでるって事か?」 「そう言う事。…助かるような状況でも無かったしね」 …それがあの時4人が来てくれた真相、か。 ‘夢喰いを封印する前に死ぬなっていう心龍のお告げ’…。それは間違っていないのかもしれない。 そのお告げが心具の中にほんの少し残された彼女自身の生命力を彼女に返還するキッカケとなり、そこから命を吹返した彼女達に姉貴が回復術 を使った―――。 「あの後気絶したあたし達を助けてくれたのもライカさん。 ヘレンが死んだから、BLACK SHINE本部を支えていた術が少しずつ解けてたんでしょうね。 そうして空から落下した建物の中から、あたし達7人を探して近くに在る此処まで運んでくれた」 ――そうか。あの時感じた地響きはBLACK SHINEが落下したからなのか。 恐らくあの直後に気絶してしまったのは上から降ってきた天井か何かに激突してしまったからなのだろう。姉貴はそんな中から俺達7人を探して、 此処まで連れてきてくれた。改めて感謝を呟いた。 深呼吸し、体を起こす。 既にアシュリーとマロンも目を覚ましていた。…やはりイヴに目を覚ます気配は無い。 ――心龍は俺達が気絶する少し前に‘秘宝’と呟いたけど、秘宝って何の秘宝だ?肝心な事は分からず終いだ。…それとも姉貴なら知ってるのだ ろうか。 「なあ、姉貴」 「何よ」 「――‘秘宝’ってのに、心当たりねえか?」 振り返った彼女に質問を問い掛ける。 少しだけ俯き、考え事を始めた彼女がやがて閃いた顔をした。 「‘龍の秘宝’の事?」 …何か名前からして凄いモノな気がするが、恐らくそれだろう。 イヴを助ける方法として、心龍は確かにその名前を言った。その秘宝にどんな力が宿っているのかは知らないが、恐らくそれがイヴを助ける為の手 がかりになるのだ。詳細を聞こうとして――静かに扉が開いた。 「…良かった、起きてたんだね」 扉の前に立っているのはレグロスとネオンだった。この2人には毎回お世話になってばかりだ。深く頭を下げた。 「…イヴちゃんは、やっぱり起きてないのね」 「……」 イヴの事情は恐らく先に起きたレインかリネ――或いはライカが説明してくれたのだろう。小さく頷いた。 「…ねえリーダー。‘龍の秘宝’って何?」 部屋に足を踏み入れたレグロスに、リネが問い掛ける。 少しだけ首をかしげたレグロスが、やがて口を開いた。 「――‘全ての願いを叶える’…って言われてるけど、実物を見た訳じゃないから分からないな。 どうしてそれを?」 「心龍が言ったんだ。イヴを助けるにはそれしかないって」 「……確かに。イヴちゃんを助けるのはそれしかないのかも…」 ネオンが同調し、唇を噛み締める。 やっぱり手立てはそれしかないようだ。それなら、探すしかない。どれだけの時間を掛けたとしても。 「それが何処に有るのかは?」 問い掛けるが、レグロスが首を横に振る。 「何せ‘秘宝’だからね。…流石に何処に有るかまでは把握できてないんだ。ごめん」 …何でもかんでもSAINT ARTSに頼ってはいけないと思っていたが、やっぱり2人でも場所は分からないようだ。 念の為姉貴の方を見たが彼女も首を横に振った。 横目にアシュリーを見る。体を起こした彼女も静かに首を横に振る。 …誰も知らない、か。 それでも探すしかない。ベッドから起きて地面に足を付けた。 「――探すのか?」 「…当たり前だろ」 レインの問いに肯定の返事を返す。 例え情報が無かったとしても、必ず探し出す。 俺達の痛みも、苦しみも、全て引き継いでくれた彼女の為に。 決心し、一歩踏み出したところで再び扉が開く。 ――驚いて足を止めてしまった。扉が再び開いた事にも驚いたが、何より目の前に立っているのは…。 「あたしが知ってるわよ。――‘龍の秘宝’の在り処」 「――お前、生きてたのか」 壁に凭れる様にして立っているのは間違いなくノエル・ライラだった。 問いに答えること無く部屋に足を踏み入れた彼女が俺の目の前で脚を止める。 「――龍の秘宝はグローバルグレイスに有る。 あの場所には隠された神殿が有って、そこには今も何頭かの龍が住んでいるの」 ――グローバルグレイスに、龍の聖地が? 耳を疑うような言葉だったが妙に納得の往く言葉でも有る。 ヘレンがグローバルグレイスを滅ぼしたのは案外…龍の生活を守る為だったのかもしれない。 その場所から人間を追い払う為、街を壊した。同時にレインとノエルという手駒を増やす為。 「…なんで俺達に協力するような事するんだよ」 教えてくれたことには感謝してる。当ても無く探しているようじゃあ何十年掛かるか分からない。 けれど彼女が教えてくれた理由が分からない。そして此処に居る理由も。 問いに対し一瞬だけ目線をずらしたノエルが――静かにレインを見た。 「――元恋人への好、って所かしらね」 その瞳は酷く優しいモノだった。 レインが唇を噛み締め、俯くように顔を背ける。 …レインはまだノエルの事好いてるって言ってたもんな。そして多分、ノエルもレインの事――。 「行くんだったら案内してあげる。一度ヘレンと行った事が有るから、場所は分かってるわ」 ――多分。彼女は信じても大丈夫だ。 元恋人への好…。それも間違っていないだろう。ノエルはレインと心が擦れ違ってしまったけど、それでも彼女も又、何処かできっとレインの事を好 いていたんだ。だから彼女はどっちかと言えば、‘俺達に協力する’と言うより‘レインに協力する’という感じなのだろう。 「俺は行く。…皆は?」 振り返り、5人の顔を覗くように確認した。 マロンがベッドから飛び降りて傍に寄ってくる。彼女は行くみたいだが4人はその場から動く気配が無い。 「行きたいのは山々なんだけどね…」 そう呟いたのはリネだった。彼女は右腕を捲り、服の内に隠れていた痛々しい傷を見せてくる。 「この調子だから、多分無理。…今は座ってるのが精一杯」 …恐らくキースと戦った時に負った傷なのだろう。幾ら姉貴の治療が有ったとは言え、姉貴も4人近く治療しているのだから、治癒術の効果は重症 から回復する程度のモノだった筈だ。そんな体でヘレンと戦ったのだから、体の限界が来ても可笑しくない。 「俺達も一緒。…一騎打ちした時の傷が、今になって痛んでる。行きたいけど…足引っ張るだけだと思うから、無理。かな」 セルシアが苦笑した。彼も又服の内に隠れていてよく見えないが、恐らくリネ同様酷い傷を負っているのだろう。レインとアシュリーも一緒だ。 俺とマロンはヘレンとしか戦ってないから、まだ頭痛がする物の動くことは出来る。負担の大きかった4人に比べ痛みも大分マシな方だろう。 それなら、俺とマロンが行くしかない。イヴを救う為に。 「…話は終わった?じゃあ行くわよ」 ノエルはそう行ってさっさと部屋を出て行ってしまった。それを追いかけ俺とマロンも部屋を飛び出す。 既に廊下を歩き始めているノエルを、慌てて追いかけた。 BACK MAIN NEXT |