光り輝いたソレが、一瞬でヘレンからの攻撃を防いだ。
一瞬何が起こったのか理解できず、目を開ければ目の前で心具が輝いている。
今の攻撃からあたし達を守ってくれたのだろう。守ってくれたのは心具で間違いないんだろうけれど―――。

「――勝手に俺達の事殺すんじゃねえよ」

――目の前で光り輝く武器を持ち、立っているのは。
此処に来るまでの道で別れたレイン、リネ、セルシア、アシュリーの4人で間違いなかった。


*NO,136...約束*


「言ったじゃない。‘後から行く’って」
そう言って振り返り際に笑顔を見せるリネの手には、確かに七色に輝くナイフ――彼女の心具が握られている。
偽者、じゃない。心具を持ってるって事は本物で間違いって事だ。だけど――。
「――生きてたの?」
てっきりノエル達と戦って同士討ちになったとばかり思っていた。…あたしが決め付けていたんだろうか。
苦笑したセルシアが裁きのチャクラムを手の中で1回転させる。
「それは、後で答えるよ」
「…今はこっちを倒すのが、先でしょう?」
アシュリーの言葉は最もだ。話を聞くのはヘレンを、夢喰いを倒してからで十分だろう。
目の前に居るヘレンも又、あたし達と同じく驚きを隠せない顔をしている。――彼女もまたノエル達幹部の命を引き換えにして4人を殺めたと信じて
いたのだろう。ていうか、あたしもマロンもロアも、てっきりそうだとばかり思っていた。
「…生きてる筈が無いわ。あの4人をなぎ倒す力なんて、貴方達にある筈無い――」
「さあ。どうだろうな?」
惚ける様に肩を上下させたレインが弔いのランスを握り、切っ先をヘレンに向ける。
「それよりてめえ。――さっきの話、俺とセルシアにはっきりと聞かせやがれ」
…そこまで聞いていたみたいだ。10年前のグローバルグレイス。あの街を滅ぼしたのはセルシアでもリトでも無く…ヘレンだったという事。
一瞬だけ唇を吊り上げたへレンがレインに対し異質な笑みを浮かべた。妖艶を描く唇が彼等に冷淡な事実を突きつける。
「グローバルグレイスを滅ぼしたのは、私って事?」
「――初めから俺とノエルを騙してたって事か」
小さく呟かれたレインの声には、怒りや憎しみが見え隠れしている。それは何時か、セルシアに向けたモノと同じ物だ。
「信じてた方が悪いのよ」
「ふざけんな!!」
叫んだと同時、レインが指を振るい落とした。――ルナティックルディエ。闇の最高位魔術だ。リネより更に完全である刻印を持つレインにとってそ
れを唐突に打つのは容易いことだ。
肩を竦めたヘレンが唇から術を謳う。放たれた彼女の術はレインの攻撃を相殺させた。

「良いよ。全員相手してあげる。――貴方達全員、どうせ此処で死ぬ運命なんだから!!」
ヘレンが再び指を振るい下ろした。暗紅色の魔法陣から術が生み出され、此方に向かって牙を向く。
咄嗟に立ち上がり、マロンの手を引いてその場を駆けた。間一髪で攻撃を逃れ、決意の願いを込めた剣―新しいネメシス―を鞘から引き抜く。
封印出来るチャンスは、一度だけ。
あたし達の命も一つだし、ネメシスに備わった封印効果も1回だけなのだから、タイミングは慎重に吟味するべきだろう。
ヘレンの言う通り、あたし達は此処で死ぬ運命だ。だけど、此処で引く訳にはいかない。此処で引いたってあたし達は後に夢喰いに食われて死
ぬ。どの道‘死’という選択肢しか無いなら――少しでも最善な方を取るべきだ。それがあたし達7人の結論。だから、もう後悔したりしない。

この運命を、受け入れる。

「ウォーターグリンクス――!」
「――サンダーバード!!」
レインとリネが同時に指を振るい落とし、2人の術がヘレンに向かって牙を向く。
それを軽いステップでかわした彼女はまるで何事も無かった様に笑い、此方に同じく指をふるい落とした。
「――fear」
発動された魔術が術を打ったばかりのレインとリネに、襲い掛かる。
最高位魔術は発動直後、直ぐ動くのが難しいのだ。それは術式解呪烙印を所持する2人も一緒の筈だ。反動で動けない2人を狙っての攻撃なの
だろう。術が当たる寸での瞬間にマロンとアシュリーが合間に飛び込んでいって、防御術を発動させたのが幸いだ。心具の力で強化された術系は
前まで防ぎきれて居なかったヘレンの術を完璧に遮断した。
もしマロンとアシュリーがあの時2人の合間に飛び込んでくれなかったら、レインもリネも共倒れなんて展開だったのだろうな。
…此処まで全く戦闘をしてないあたし達に比べ、セルシアとアシュリー、勿論リネとレインもノエル達を相手にしてきてる。きっと相当の体力を使っ
ただろう。此処まで来る道のりも含めて。
だからあたし達3人より疲れてるのは当然だ。出来れば4人はサポートという形に収めておきたい。
「無理しないで!!」
剣を握り締め、ヘレンに向かって地面を蹴った。
刃の切っ先をふるい落とすが、寸でのところで避けられる。彼女は再び後ろに引き下がって指をふるい落とした。
次の術が来る。咄嗟に判断して身を右へ投げた。術の軌道は正面を向いていたから、幸い怪我も無く済み、直ぐにその場を立ち上がる。
…さっきヘレンは振り落とした心具の刃を避けただけだった。…って事は前みたいに武器を素手で受け止めたり出来ないって事だ。
夢喰いの力を手にしている彼女にとって、夢喰いの封印・対抗を目的にした武器―心具―は最大の弱点であるに違いない。
前より少しは有利に事が持っていける。大丈夫。あたし達は負けたりしない――!!
戦輪を投げたセルシアに便上し、再び剣を振るおうと前に出る。
やっぱり戦輪と、剣の刃の切っ先を受け止めず避けるだけのヘレンが一歩下がって此方に術を打ち込んで来た。
「――anger!」
軌道からして、あたしとセルシアだ。咄嗟に横に逃げたが微かに肩口を掠めた。掠めた、っていう傷で済んだのが不幸中の幸いなのだろう。
セルシアも其処まで酷い傷は負ってないみたいだ。頬に掠り傷が出来てるけど、それだけ。
術を撃ったばかりのヘレンにロアが後ろから双剣切りかかる。
一瞬ヘレンが刃を受け止めようとする素振りを見せたが直ぐに後ろに引き下がった。
…あたしの推測は間違って無いらしい。あの体で心具に触れたら、大打撃なのだろう。
それは彼女の体内で動いている夢喰いが心具に反応している証拠だ。
一度剣を握りなおすと――風の切れる音が直ぐ近くで聞こえた。
「無理してるのはどっちだよ…!」
セルシアの声の後、あたしの後ろを戦輪が掠めていく。
慌てて後ろを振り向くと、天井にへばりついていた筈の夢喰いが赤黒い泥の様な体を地面に崩し落としていた。
――多分、SAINT ARTSで聞いた地上に振ってる泥と一緒だ。人間を食らう泥。
アレに一回でも当たったら一溜りも無いのだろう。セルシアに感謝を思いながら、もう一度ヘレンに向かって走り出した。
「――flame!」
アシュリーが放った術がヘレンに向かって術を打ち込んだ。
それをかわしたヘレンに剣を振るい下ろす。
また寸での所でかわされてしまったが、死角から剣を振るい下ろしたロアの攻撃が、彼女の肩口を掠めた。
「っ――!!」
恐らく、あたしとアシュリーの対応に精一杯だったのだろう。引き下がったへレンが大きく舌打ちをする。
――夢喰いを体内に取り込むという事は、確かに彼女に莫大な力を与えている。だけど心具を持ってるあたし達にとっては逆効果だ。
彼女が夢喰いを体内に取り込んだ分だけ、心具の攻撃が効く様になっている。恐らく彼女としてもレイン、アシュリー、リネ、セルシアの4人はノエ
ル達が始末したと思っていた筈だから、この状況はとんだ‘誤算’という訳だ。
…あたし達3人だけじゃ確かにどうにもならなかったかもしれない。また前みたいに、ヘレンの野望を止めれずに終わったんだろう。落ちていく世界
を見るどころか、此処で確実に殺されていた。

だけど、4人は約束を守ってくれた。それだけは確かな‘約束’だったのだ。

此方に向けて反撃の術を打ち込んだヘレンが、リネとセルシアに向けて指を振るい落とす。
セルシアがリネを引っ張りその場を避け、術を打ったばかりの彼女にマロンが弓を打った。傍で時折落ちてくる赤い雫はレインが相殺している。
――二撃目。マロンの放った弓がヘレンの右手を貫通した。
「…今度はあたし達がカウント数える番みたいだけど?」
笑みを浮かべると歯軋りしたヘレンが同じ術を全体に打ち込んできた。術の振動で上から暗紅色の泥が落ちてくる。
「イヴ!!」
咄嗟に手を引かれる。レインが術を使ってヘレンの攻撃と上から振る赤泥を防いだ。
他の5人にも異常は無さそうだ。ロアはマロンが、アシュリーはリネとセルシアが守ったから、問題無い。
心具の力は魔術の力にも影響を与えている。それは屈折する事のない確かな力。――あたし達が‘命’を代償に得た力なのだ。


「切りがねえ。イヴ、決着着けるぞ」
手を引いたままのレインがそう吐き捨てた。
――決着を付ける。それはつまり‘封印を使う’という意味だ。けれどこれは一度きり、失敗は許されないし、迂闊に使うべきではないんじゃ…?
小首を傾げるとレインが唇を吊り上げた。
「お前にしか出来ねえ。――管理者の後継者である、お前にしか、な」
「…最期の確認よ。本当に使って良いのね?」
これはあたし達の命を代償にする魔術。生き残れる確率は皆無に等しい。
勿論それ以外に選べる選択肢は無いと分かっているのだが、それでも聞かないといけない気がした。これはあたしの命だけの問題じゃない。
「何度同じ事言わせるんだよ。――俺達は後悔しない。その為に此処まで来たんだろ?」
…最もだ。苦笑して一歩後ろに下がった。
目を閉じれば、心具の呼び声がする。

――詠唱を詠え。全てを終わらせる為に。
共鳴する7つの声。それはあたし達を動かす決意の力。
それがあたしにしか出来ない事なら、あたしがやるしかない。
あたしへの攻撃は前に立つレインやロア達がカバーしてくれる。上から降り注ぐ夢喰いの体も、レインが魔術の結界を張ったままにしてくれている
から、気に留める必要すらない。
目を伏せた。同時に聴こえる詠唱を、口ずさむ。

「金色に輝く宿り木の魂は、煌めく聖水の加護を受け‘救い’の神具を産み落とす」
詠唱に気付いたへレンが此方に大技を打ってきた。比例して夢喰いから赤の泥が降りかかる。
けれどそれが床に落ちるより前に此方に術を放ったリネがそれを相殺させた。ヘレンからの攻撃はロアとセルシアが心具を使って防ぎきる。

「深淵に咲く荒野の祈りは、償いと懺悔の意思を決し‘裁き’の神具を産み落とす」
――あたしが選んだ道は世界にとっては最善の道だったのだろう。
唯、それがあたし達7人の最善の選択肢だったのかは、正直未だ首を傾げてしまう。

「混沌に還る沈黙の詩は、世界の慈悲なる希望を持ち‘願い’の神具を産み落とす」
‘何度も言わせるな、俺達はその為に此処まで来た’。
レインはそう言ったけど、皆。本当の本当にそれで良いの?

「絶望を平伏させる七色の宴は、望みと希望の天秤を握り‘弔い’の神具を産み落とす」
世界を救うことはあたし達が消えるという選択肢だ。
だからあたしはやっぱり怖い。
たとえ皆が覚悟出来ていたんだとしても、それは確かな恐怖。

「言霊を紡ぐ永遠の光は、汝と我等を優しく包む世界の光となり‘信愛’の神具を産み落とす」
でもそれは、自分が消えるという恐怖じゃなくて。

「夕闇を飲み込む王者の力は、真成る罪人に制裁を与える‘導き’の神具を産み落とす」
そう。大切な仲間を自らの手で殺めるような、そんな感覚――。


詠唱は後一つだけど、それを紡ぐという事は引き返せない所まで踏み込むって事で。
躊躇がちに薄目を開けると、気が付いたらロアが居た。
「迷うなって言っただろ」
「…迷うわよ。あたしだけの問題じゃないし」
苦笑して返すと頭を撫でる様に手を置かれた。振り払う前に手を置いた張本人が微笑する。
「大丈夫。お前なら」
…何処にそんな確信が有るのよ。
心で悪態を吐いたものの、それが一番掛けて欲しかった言葉なのかもしれない。自然と頬に涙が伝った。
それを無理矢理拭って、彼の手を下ろす。
返す言葉が浮かばないから、とりあえず笑っといた。それからもう一度目を閉じて、詠う。

「そして世界は今歌い賜らん。
救い、裁き、願い、弔い、信愛、導き、全てを受け継いだ新たな神具は此処に生まれ、そして」

そして。

「私達7人の身体と心を捧げる事により、全ての醜悪を封じ世界に色が戻る」

それが、心龍との約束。


――詠唱が完成したと同時に、6人の手元から心具が自然と離れていった。というより、持ち主の前で浮かび上がる様に浮いた。
勿論あたしも一緒だ。目の前には心龍から貰った剣――心具が浮かび上がっている。
後戻りは出来ない。
後悔はしたくない。
だからあたしは、この詩を結合させる。



「――シャイニング・ドライヴ」



言霊と同時に光が弾け、空を覆う赤の泥に降りかかる様にそれは飛んで行った。










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*補足(※言い訳)*
+レイン達が何で此処に居るのかとか、お前等死んだんじゃなかったの?wwっていう疑問は3,4話ぐらい後に説明します。今は内緒。
+ネメシスの名前(例:裁きのチャクラム・親愛のロッドetc...)は固有名詞です(多分)。