cross*union本部を後にしてからは、大人しく家に帰って体を休めた。
…自分でも驚く位眠る事が出来た。こういう日の前日って大抵眠る事が出来ないのが普通だと思うのに、あたしってどうにも自覚症状に欠けている
のだろうか。そんな事を思いつつ迎えた‘最期の朝’を噛み締め、家の外に出れば。
「おそよう、」
――既に6人共家の前で待っていた。
朝早くからアシュリーが5人をジブリールで迎えに行ったのだろう。あたしが一番遅かった訳ね。別に外で待ってなくてもマロンが居るんだから家の
中で待ってれば良かったのに。苦笑して皆の所に歩み寄った。


*NO,127...Dead Zone*


…6人共、ちゃんと決意は出来たみたいだ。それぞれが自信と決意に溢れた顔をしていた。
先頭をロアとレインが歩みだす前に――少しだけ静止を掛ける。
「あたしも、皆に言っておきたい事が有るの」
――ゲリオン・テリアで聞いた、彼等の‘決意’…。
あれ、あたしだけ何にも言ってなかった。そういうのってやっぱり無しだと思う。
それに気付いたロアとレインが足を止める。振り返る彼等の前で一呼吸おいて、唇を開いた。
「今までずっと同じところで立ち止まってた。自分と向き合うのを恐れて、誰かに縋っていた」

それが現れたのが、あのゲリオン・テリアだった。
あたしの闇はあたし自身。ライカから話を聞いた時から薄々気付いていたのに、あたしはあたし自身さえ見捨てていた。

「…無垢だった頃のあたしは、他なんて本当は如何でも良かったのよ。
此処まで来てやっと気付けた。あたし自身と向き合う事、誰かと向き合う事。全てを受け入れる‘決意’――」

見つからなかった答えが、見つかった気がした。
それはきっと此処に居る皆のお陰でもあるし、あたしを助けてくれたレグロスやネオンやライカ、そしてcross*unionリーダーも含まれてると思う。

「…みんな、本当にありがとう」

微笑むと、6人も笑顔で返してくれた。



――アシュリー曰く、ジブリールは近林で待機しているらしい。彼女の案内で森の中を歩く事数分。其処には確かにジブリールの姿が有った。

「――BLACK SHINE本部で良いんだな?」

「ええ。お願い」

…ジブリールがBLACK SHINE本部に行けば、もう本当に引き返す事が出来ない。そんなのあたしも皆も分かってる。
だから行くんだ。もう引き下がらないって決めたから。
――鞘に刺した心具の剣が、一瞬だけ光輝いた気がした。

ジブリールの指示で背中に飛び乗り、7人全員が飛び乗った所で龍は静かに空へと上昇を始める。
――先程まで地面に居た筈なのに、もう地面から離れていた。
下を見てると堕ちる様な感覚に襲われるので、真っ直ぐに前だけを見つめてみる。
…空は相変わらず紅いままだ。どうか、この紅い空が今日で消え去りますように。

そうして辿り着いたBLACK SHINE本部の入り口でジブリールの背中から飛び降りる。
此処からBLACK SHINE本部に行くのは二度目だ。地図も有るし、前みたいに迷ったりはしない。今度は真っ先にヘレンと―夢喰いの所に行く。

「恐らく夢喰いは最上階に居る。…気をつけて往け」
…最上階。本部の建物を見上げたが、最上階は紅に覆われて見る事が出来なかった。
あそこに行く為にはどうすれば良いのだろう。地図を見る前にまずレインに問い掛ける。
「道なら俺が分かる。…着いて来いよ」
レインがそう行ってBLACK SHINE本部の入り口を開けた。
――ジブリールが見守る中、本部内へ足を踏み入れる。

やはり無音だ。薄暗い廊下には照明も無ければ人影も無い。
歩き出すレインに着いて行こうとして――不意に部屋の奥で火花の様な物が散るのが見えた。
即座に脳が危険信号を訴える。…今の、絶対に術だった。
「伏せろ!!」
判断するより早く、叫んだのはレインだった。
咄嗟にレインと身を屈め、他の5人は左右に身を投げる。
――攻撃してきたのは、誰だ?!
立ち上がり、火花が散った方を睨む。途端部屋の照明が灯り、そして奥への扉の前に立っているのは――。

「…最後の最後まで、邪魔して来るって事ね」
「あの人を、ヘレン様を‘護る’。…それが俺達の‘任務’だからな」
仁王立ちして扉を塞いでいるのは、フェンネルだった。
…確実にノエル達幹部やフェンネル、リコリスは邪魔して来ると思ったけど、まさかこのタイミング何て。
早くヘレンの所に辿り着かないといけないけど、戦闘は避けれないか…。
唇を噛み締め、剣を抜こうとした瞬間――。それを止めたのは意外にもアシュリーだった。

「私が彼を食い止める」
「…アシュリー?」
「先に行って。大丈夫だから」
…硬直したまま、動けない。
此処まで来てアシュリーは何を言い出すんだ。第一彼女独りを此処に置いて置く事何て―――。
何かを言おうとした瞬間、セルシアに肩を叩かれる。
「行こう」
「…は?」
「――ウルフドール族と対立出来るのは、ウルフドール族だけ。…俺はそう思う」

そう言ってセルシアは歩き出してしまった。釣られてレインも前を歩き出す。
何て白状な。ていうか、まさかセルシアがその考えに賛成するとは思わなかった。誰よりも他人が傷つく事を嫌っていたのに、此処に来てどういう
心境変化を起こしてしまったのだろうか。呆然としているとリネに引っ張られる。
「行くわよ。あたし達は行かないといけない場所が有るでしょ。…アシュリーなら大丈夫って、あたし達が一番知ってるじゃない」
「そりゃ、そうだけど…」
振り返り、もう一度彼女の方を見た。一人立ち止まったままの彼女は優しく微笑み、そしてフェンネルに目線を落とす。
――セルシアとレインは既にフェンネルの横を通り過ぎていた。
フェンネルもまた、あたし達を止めるつもりは無いらしい。恐らくまだ先にリコリスやノエル達が待っているからだろう。

結局あたしもリネに押され、ホールにフェンネルとアシュリーだけを残して先に進む形をなってしまった。



* * *

それは、イヴが出てくる前に6人で決めた事だった。
彼女の家の前で、彼女が出てくるのを待ってる間、色々と話し合った。
「――きっとノエル達幹部はあたし達の事邪魔して来るでしょうね。当たり前だけど」
そう呟いたリネの言葉に真っ先に答えたのがレインだ。彼は紅い空を見上げながら呟いた。
「俺達が死守すればいい。――護らなければいけない‘キング’の為に」
…それは私も思っていた。そして、此処にいる6人の全員が感じている事だったのかもしれない。

心具を持っているからとは言え、夢喰いと対等に戦える自信なんて無い。
きっとヘレンと対立出来るのは――イヴだけだ。
それもまた、誰もが気付いていた。気付いてないのは精々本人だけだ。

だから、決めた。彼女と合流する前に。6人で。
彼女が一番嫌うであろう‘命の優先順位’を付けた。

そして護らなければ成らない彼女の為に、もしノエル達が道を邪魔するのなら――私たちが食い止めると、決めた。



だからこういう状況になる。
――セルシアが行動してくれて、良かったと思う。マロン達も十分心配そうな顔をしていたけれど、きっとこれで良かったの。
それに彼が言っていた‘ウルフドールと対立出来るのはウルフドールだけ’というのも嘘ではない。
だから私達は命の優先順位と言うより、出てきた相手によって対立する人を決めた。
私はフェンネル。リネはキース。セルシアはリコリス。レインはノエル。

マロンとロアは、最後にイヴを支えて欲しいから、4人でカバーする事にした。
だから、これで良い。…これで良かった。


「…みすみす死ぬ為に残るなんてな」

「死ぬ為じゃない。…彼女を生かす為にこうしたの」

フェンネルの問いに対し凛とした言葉を返す。…眉間に皺を寄せた男が尚も言葉を投げてきた。

「何故お前は敵対する?ヘレン様がしている事は、俺達ウルフドールの為に起こした事だ」


…目を伏せる。
ヘレンがウルフドール族の為に動いてるのは、気付いてた。
だけど、だからと言ってBLACK SHINEに加担する事は出来ない。だって。


「貴方達のやり方が間違ってるから、よ」

間違った‘再生’が全てを救うなんて、私は想定思えないから。


溜息を吐いたフェンネルが指先を此方に向ける。

「残念だな。あの人はお前だけは救ってやっても…。そう考えていたのに」

「間違った‘再生’に従おうとは思わないもの。こっちからお断りだわ」

苦笑し――その場を走り出す。
フェンネルが指を振り落とした。そうして再びホールに火花が飛ぶ。
…男の放った術が、此方に向けて放たれた。










BACK  MAIN  NEXT