何とか無事に洞窟を抜け、そこからはほぼ行き詰る事もなくメルシアの森に到達した。障害という障害がラグレライト洞窟だけだったのが幸いだ。 それにノエル達の姿もまだ見えていない。…今の内にさっさとグランドパレー諸島に渡ってしまおう。 森に着くとアシュリーが一旦足を止めた。此処からは彼女しか道が分からない。同じく足を止め彼女が進み出すのを待つ。 「…こっち。着いて来て」 暫くしてアシュリーが道を確信した様で森の北東を指差した。 *NO,90...再上陸* そのまま先頭を歩き出すアシュリーに続いて自分達もメルシアの森に足を踏み入れる。 相変わらず森は薄暗い。周りに覆い茂っている木々が太陽の日を遮っているのだ。 「相変わらず此処は暗いねー」 同じ事を思ってたらしくレインがぽつりと呟いた。少しだけ頷いたと同時。アシュリーが少し先の場所で足を止める。…もしかしてもう着いたのか? アシュリーの傍によって周りの景色を見た。 …周りは木々に覆われている。目の前には大木が有るが…転送装置の様な物は見当たらない。もしかして迷った? 問い掛け様としたらアシュリーが口を開く。 「…着いたわよ」 「……何処に転送装置が有るの?」 マロンが聞きたかったことを聞いてくれた。彼女の問いにアシュリーが踵を返し大木を指差す。 「これ」 「…そういう冗談、良くないよ?アシュリーちゃん??」 唇を引きつらせたレインが苦笑を浮かべて呟いた。 …でもレインの言葉には賛成だ。見たところ大木に入り口の様な物は無いし…これの何処が転送装置なのだろうか。 「冗談じゃない」 少しだけ頬を膨らませたアシュリーが大木に近付き指でそれに触れる。 だが彼女の指は大木に触れる事なく、何故か大木の中に吸い込まれてしまった。慌ててアシュリーの近くによって見る。その頃には既に彼女は大 木から指を引き抜いていた。 「森にそのままの形の転送装置が置いてあったら怪しいでしょう?」 「…カモフラージュって事、か?」 引きつった笑いを浮かべるセルシアがアシュリーに問い掛ける。彼女は首を縦に振った。…カモフラージュ、ね。成る程…確かにこんな薄暗い森に 人工的に作られた転送装置が置かれていたら怪しすぎる。 つまり…この大木を潜ればグランドパレー諸島まで行けるのか?何かちょっと不安なんだけど…。 「この木の中に入ればグランドパレーまで行けるの?」 「多分」 …多分って。自信の無い返事に思わず項垂れてしまう。 まあ此処で止まっていてもしょうがないだろう。恐る恐る大木に触れようと指を伸ばしていた。 大木が指に触れたと思った瞬間、指先が先ほどのアシュリーの様に幹の中に何故か吸い込まれる。驚いて反射的に指を引っこ抜いてしまった。 「…これ、ホントに大丈夫なのか?」 未だ後ろで固まっているロアとリネの内、ロアの方が声を掛ける。 「多分」 先程と同じく曖昧な返事を返してアシュリーが再び踵を返した。……本当に大丈夫なんでしょうね?! とは言えここからカスタラに行って船の手配をしてと手順を踏んでいてたら相当時間が掛かってしまう。転送装置の案に頷いたのは自分達だ。やっ ぱり此処は行くしかない。か…。 「そろそろ行くわよ?」 一人だけ平然とした顔のアシュリーが6人にそう告げてさっさと大木の中に足を踏み入れてしまった。まるで大木をすり抜けるように彼女の体が幹 に吸い込まれていく。――其処にはもう彼女の姿は無かった。 …アシュリーも行ったんだから行くしかないか。多分とか言ってたけど信じるしか無いだろう。 「止まっててもしょうがないし、行くわよ」 そう言って大木の前に立ってみるが――やっぱりちょっと無理。大木の前で硬直してしまった。 「イヴっち行かないのー?じゃあ俺が先に行くねっ」 親指を立てて笑ったレインがアシュリーと同じくさっさと大木に足を踏み入れる。…その度胸少しは分けて欲しいわ。 そうしてレインの姿も消えてしまった。…あの2人、無事にグランドパレーに到着したのだろうか。 cross*union本部に行く前リネから貰ったイアリングをどっちかに持っててもらえば良かったと今更後悔した。 その場を動けずに居ると溜息を吐いたリネが一歩前に踏み出す。 「止まっててもしょうがないって言ったのは何処のどいつよ。あたしは行くわよ」 軽くこっちを睨んでから彼女が大木に触れる。…が、直ぐに指を離してしまった。やっぱり成れない感覚は怖いよな。 唯リネはそれでめげる事なく…いや、諦めたのか? とりあえず傍に居たセルシアを無理矢理突き飛ばして先に行かせてから自分も大木に足を踏み入れた。 …リネ、それかなり酷いぞ。セルシアだってまだ心の準備が出来てなかっただろうに。 というかそれ以前に、今のは完全に‘毒見’感覚だ。酷すぎるにも程がある。流石リネ。セルシアに対してはホントに情の欠片も無いな。喧嘩から 仲直りした直後の頃は完璧にデレだった筈なのに、少し時間が立てば直ぐにツンに戻っている。セルシアは苦労人だなと再認識してしまった。 既に4人は大木向こう――恐らくグランドパレーだ。4人既に行ってしまった訳だし、行くしか無いよな…。 「…先行ってよ」 「お前なぁ…」 残ったマロンとロアの内、ロアの方を先に行かせようと前に進ませる。 苦笑したロアが一歩前に出て――警戒しながらも大木の中に入って行った。 …ホントに5人ともグランドパレーに辿り着いてるんでしょうね?? 別にアシュリーの事を疑っている訳じゃないが、彼女が曖昧な返事をするもんだから逆に不安になって来る。 此方を見たマロンが少しだけ微笑んで声を上げた。 「…行こ?」 「…まあ、結果的に行かないといけない訳だしね」 5人に全部任せる訳にも行かないし、さっさと行こう。うん。 漸く覚悟を決めマロンと2人で大木に足を踏み入れた。 ――体が宙に浮く様な不思議な感覚を一瞬感じ、それを悟った瞬間急に重力に引っ張られる様に地面に落ちる様な感覚に襲われる。 思わずぎゅっと目を閉じていると――やがて視界が拓けた。 「おうイヴっち、マロンちゃん。ちょっと遅かったね」 真っ先にレインの声が聞こえて目を開ける。 ――其処には一度見た事のある光景…。まさしく‘グランドパレー諸島’の景色が広がっていた。 はじめから疑っていた訳ではないがやっぱりアシュリーの言葉は正確だった。あの大木は‘転送装置’なのだ。…こうして無事にグランドパレー諸 島に着けたのだからまずそう思うしかない。 「アシュリー、リネ。全員揃ったぞ?」 後ろに広がる海岸の先で水に足を付けて遊んでいたアシュリーとリネにセルシアが声を掛けた。 どうやら2人はあたし達が来るまで足だけ水浴びをしていたみたいだ。確かに此処ら辺の海は凄く綺麗だし、水浴びぐらいしたくなる気持ちも分か る。一度此処は調べたからこの辺は安全って分かってるし。 「何?もう全員来たの?」 言葉に気付いたリネが少しだけ不満そうな顔をしながらも浜辺に上がり靴を履いた。アシュリーも同じように水から足を上げ靴を履いてから此方に やって来る。 「じゃあ行くわよ。この先に里が有るから」 彼女はそう言って諸島内の森を歩き出す。彼女に続いてマロンの隣を歩いた。 相変わらず不思議な木や見かけない花が咲いている。それらを眺めながら道を進み続けるとやがて里が見えてきた。 ――ウルフドール族の里‘ヴィオノーラ’…。来るのはこれで2度目だ。 あの時…アシュリーがBLACK SHINEに狙われてる事を知って…ヘケトーにノエル達を任せてこの島を飛び出してしまったけど、ヘケトー自身は大 丈夫だろうか。彼女曰く心配無いみたいだが…。 里の入り口に着いた所でアシュリーが門番と軽く話しをする。一度此処に来ているので門番もあたし達に見覚えが有るらしく直ぐに通してくれた。 彼女は真っ直ぐに神殿へ向かい、同じく門番と話をして扉を開けさせる。振り返り中を指差すので続いて神殿の中に入った。 暫く神殿の中を歩いていると奥の扉が前触れなく突然開く。 「アシュリー様!!」 「…久しぶり。元気にしてた?」 奥から出てきたのはヘケトーだった。アシュリーが軽く笑顔で返し、それから簡単に今までの経緯を話す。 BLACK SHINEの目的。そしてあたし達はBLACK SHINEの野望を阻止する為に、本部に向かわないといけないという事。 そしてその本部に向かう為には‘空を飛ぶ方法’が必要な事と…フェンネルがマロンに掛けた術。アシュリーは簡単に話をまとめ、要約してヘケト ーに話してくれた。 それを聞いていたヘケトーが暫く考え込んだ顔をして、やがて顔を上げる。 「話が長くなります。奥で話しましょう」 そう言って彼は奥の扉を指差した。頷いて案内された奥の部屋に足を踏み入れる。以前来た事のある応接間だ。 近くの椅子に腰掛ける。隣にマロンが座って、向かい側にアシュリーとヘケトーが座った。 少しだけ深呼吸したヘケトーが、やがて唇を開く。 「…まず、マロンさんに施された‘Sear’という術式…。あれは本来術を施した本人にしか解呪出来ない様になっています」 …やっぱりアシュリーの言う通り、か。思っていたより相当厄介な術を掛けられてしまったみたいだ。事を甘く見すぎていた。 少しだけ俯いているマロンを励まそうと肩に手を置いたところで、ヘケトーが言葉を続ける。 「ですが本人以外の人間が解呪出来る方法は有ります」 「――本当っ?!」 思わず席を立ち上がってしまった。微笑んでヘケトーが頷く。それから足元に置いてあったやや古びた本を拾い上げページを開いて見せてきた。 …どうやら回復術系統の説明みたいだ。あたし達が使っている言葉とほぼ同じ様な言葉で書かれているから読めない事はない。 と言っても回復術の使えないあたしが読んだって仕方ないので、レインとリネの方に回した。本を受け取ったリネがそれを読み、横目でレインが眺 めている。…その本に載っている回復術に、マロンに掛けられた術式を解く方法が書かれているのだろうjか。 暫く待っていると説明を読み終えたリネとレインが本から目をそらす。 「確かに…この回復術ならマロンを治せるかもしれないわね」 リネの言葉に胸を撫で下ろした。…のも束の間で、レインが直ぐに言葉を続ける。 「唯…相当難しい術だな。解読にはちょっと時間が掛かるかも知れねえ」 …今、回復術を使えるのはレインだけ。そのレインが当分時間が掛かると言っているのだから、マロンが術を使える様になるのはまだまだ先か…。 手立てが見つからないよりはマシだが、肩を落とすしか無かった。 「安心しろって。この位3日で解読してやるよ」 そんなイヴの気を察したのか何なのか、レインがそう言って笑う。…信頼ないけどまあ任せるしかない。小さく頷いた。 「この本は借りてて良いの?」 「良いわよ。レインが持ってて」 リネの問いにアシュリーが頷く。彼女が良いと言ってるのなら大丈夫だろう。頷いたレインがその場で回復術の詳細についてを少し読み出した。 …少し見た限り相当難しそうな内容だけど、本当に3日で解読できるのか? とりあえずマロンの件については一段落ついた。次の問題は…。 「…それと、‘空を飛ぶ方法’ですが……」 ――そう。‘空を飛ぶ方法’。だ。 空を飛べない限りBLACK SHINE本部には近づけない。如何にかして方法を探さないといけないのだ。 少しだけ目を伏せていたヘケトーがやがて口を開いた。 「単刀直入に言えば、有ります」 …単刀直入。何か引っかかる言い方だ。つまり何か有るんだろう。唯飛ぶ方法が有る事には安心した。 「この神殿の更に奥に‘クライステリア・ホーリー神殿’というのが有ります。その奥に空を飛ぶ方法が有るのですが…」 「…何か曰くが有る?」 「……早く言ってしまえばそうですね」 …まあそんな事だろうとは思ってた。簡単に空を飛ぶ方法が手に入る訳ないし。 「とにかく神殿に行けば良いのね?」 「……はい。そうです」 それなら話は早い。言って確かめたほうが絶対に速そうだし、さっさとその‘クライステリア・ホーリー神殿’に行って【空を飛ぶ方法】という物を回収 して来よう。そしたらいよいよ――BLACK SHINE本部に乗り込みだ。 席を立ち上がると皆も釣られて席を立つ。 「案内して。クライステリア・ホーリー神殿に」 「……行くのですか?」 「行くわよ」 行かないといけない。何が何でも空を飛ぶ方法だけは手に入れないといけないから。 その言葉に頷いたヘケトーが席を立ち応接間の更に奥の扉を指差す。 「此方です。…着いてきて下さい」 ヘケトーが先頭を歩き出したので、彼の後ろに着いて歩き出した。 BACK MAIN NEXT |