泣き喚いていたセルシアも数時間経てば何とか平常に戻っていた。
点滴も無事に終わった様なので彼は現在レグロスとネオンに場所を聞いて、VONOS DISEリーダーが供養されている墓に居る。
残された自分達はと言うとかなり気まずい空気だった。セルシアが抱えていた‘罪’。それは確かに許してはいけない‘窃盗’という大罪だけれど、
彼には…ううん。彼等にはそれをしなくてはならない理由が合った―――。
リネは先程から膝を抱えて俯いたまま一歩も動かない。レインはぶらぶらと廊下に飛び出していったがそれ以外皆沈黙だ。
数時間前に墓に向かったセルシアは未だに帰ってくる気配を見せないし……。
…様子を見に行かないといけないのは分かっているのだが、生憎誰も動きそうに無かった。……仕方ない。
「あたし、セルシアの様子見てくる」
そう言ってイヴが立ち上がり、部屋を後にした―――。


*NO,57...弔いの唄*


廊下を偶然通りかかったネオンに、リーダーの墓の場所を聞いた。
本部の裏側にある草原の、丘の上。そこに墓を作ったとネオンは言った。…じゃあセルシアもきっと其処に居る筈だ。
お礼を言って本部を飛び出す。辺りは既に暗くなっており、夜風が吹いていた。知らない間に夜になっていた様だ。
とにかく暗い道のりを歩き出す。入れ違いにならなければ良いんだが。
草原を歩き続け、やがて丘の上が見えてくる。墓石が見えた先に―――、



――居た。
夜風に白銀の髪をなびかせながら、彼は未だ墓の前で立ち竦んでいた。
静かに近づき、傍に立つとセルシアが漸く此方を振り向く。
「…イヴ」
声を上げた彼は暫く此方をじっと見ていたがその内再び墓に目線を戻してしまった。…言葉に行き詰る。
何て言ってあげれば良いんだろう。今のセルシアは平常そうだが言葉の一つでまた傷付いてしまうかもしれない。

「…リーダーは、俺の憧れだったんだ」
長い沈黙の果てに、セルシアが声を上げた。墓石を見つめたまま、淡々と言葉を続ける。
「リトが居なくなって、身寄りも何もない俺を何も言わず黙って引き取ってくれた。…何か悩んだ時も真っ先に相談に乗ってくれて。
…俺もああいう人になりたい。って思ってた」
彼はそう言って自嘲気味に笑った。
きっと後悔と懺悔が心の中を輪廻してるに違いない。憧れだった人の死。しかもそれを招いたのは自分。…後悔、しない訳が無い。
まして彼は一度自分の所為と思ったらずっと自分の所為だと思う性格だし、ますます落ち込んでいるんだろう。
それでもこうして無理に笑うのは、これ以上私達を心配させない為。…て所か。

「…全部が全部セルシアの所為じゃない。あたしだって狙われてたんだから、あたしの所為でもあるわよ」
「……ありがと」
言葉を返すとセルシアが少しだけ微笑む。
それから墓石に視線を戻す彼に釣られて自分も墓石に目をやった。
…墓石の上に沢山の花をリボンで結んだ、小さなブーケが置かれている。
きっとセルシアが草原の花を集めて此処に供えたのだろう。色とりどりの花が夜風に少しだけ揺れている。
セルシアはそれ以上何も言わなかった。俯いたままずっと墓石を見つめている。



「…戻るわよ。皆心配してるし」
夜も更けに近づいている。大分肌寒いし、そろそろ皆も心配するだろう。
セルシアに声を掛けると彼が振り返って小さく頷く。
踵を返し、セルシアと2人で夜の草原を歩き出した。


「……聞きたい事が有ったんだけど」
草原を歩く中、無言で歩くのも気まずいので会話を切り出してみた。
「何?」
セルシアが少しだけ微笑む。無理して笑わなくても良いのにと思いつつ言葉を返した。
「…赤のネメシスは、今もまだリトが持ってる?」

「――…」

セルシアの足が、止まる。
…やっぱり聞いちゃいけない事だったか。
でも聞かないと次には進めない。これからあたし達はネメシスの石を集め回らないといけないのだ。
だから赤のネメシス――リトとセルシアが盗んだあれ――にも、必ず接触しないといけない。
此処で聞くのはいくらなんでも無神経だとは思っていたけれど、2人きりの方がセルシアも何か話してくれるんじゃないか。そう思った。
…唯あたしが早く結論を知りたかったというのも在るけれど。

俯いたセルシアが、小さく。…本当に小さく呟く。



「…分からない……」


――分からない。
確かVONOS DISEに来る前リトにリネの兄かと問った時も同じ言葉を聞いた。
…何で10年前の話になると、セルシアもリトもリネもこんな曖昧な答えしか返して来ないんだろう?
事情が在るのは分かっているが、その事情が分からないと赤のネメシスの場所が分からない。
この広い世界で1つの宝石を探し回るなんて、到底無理だ。
だから情報を手に入れておきたかったんだけど…。


「…分からない、ってどういう事?」
答えてくれない事は薄々分かっていたが、一応聞いてみる。
セルシアの唇が、微かに動いた。微かに動いた唇が今にも消えそうな声で言葉を紡ぐ。

「それは俺が――――……」

その瞬間。強風が草原を駆け抜けた。
…しまった。今の風でセルシアの言葉を聞き逃した。今彼は何て言った??

「今、何て言った?」
「……別に。何も言ってない」
直ぐに問い掛けるがセルシアはそう言って少し儚げに笑う。
聞き逃した事を本気で後悔した。聞き逃した言葉はきっと、赤のネメシスの情報だったに違いない。…いや。リトの話だったのか?
何にせよアレは聞き逃してはいけない情報だったのだ。先程吹いた強風を本気で恨んだ。

セルシアが再びその場を歩き出す。その横を、唯黙って歩いた。



* * *


――イヴが部屋を出て早数分。
レインはイヴと入れ違いぐらいで部屋に帰ってきたのだが、未だイヴとセルシアは帰ってくる気配を見せない。
溜息を吐いたリネがその場を立ち上がり、ベッドに腰掛けた。

「これからどうすんの?」
ずっと黙っていても意味が無いと判断したのだろう。リネの声に漸く不穏だった空気が薄れる。
「…どうするって。ネメシスの石の回収だろ」
床で胡坐を掻いて座っていたレインがそう言って苦笑した。
彼もまたその場を立ち上がり、近くの壁にもたれて座る。同じ体制で居るのに疲れてきたのだろう。
「緑のネメシスがミツルギ神殿にあるんだよね?まずは神殿から行くべきじゃないのかな」
釣られてマロンも意見する。…何か考え込んでいたリネが彼女の言葉に小さく頷いた。
「それはそう何だけど……」
「…何か引っかかる?」
アシュリーの言葉にリネが頷く。彼女は額に手を置いて言葉を続けた。
「ねえ、本気でネメシスの石集めるの?――BLACK SHINEとの正面対決は逃れれないわよ?」
「やるしかないだろ。これは俺達の責任でも在るんだし」
リネの言葉に真っ先に反論すると、彼女が此方を睨んで来る。
ベッドを立ち上がり、ロアの傍まで来て彼女はその場に座った。
「あのね。BLACK SHINEの力量の差はもう分かってるでしょ?あたし達ずっと負けっぱなしなのよ。勝てると思う??
あっちが本気で戦いを挑んできたら、きっと死ぬわよ。あたし達」
何時にも無く真剣な目でリネが訴えてくる。
そんな彼女の傍に来たレインが、軽く彼女の頭を叩いた。…って凄い勇気だなそれ。軽くとはいえリネを殴ったらお返しがきっと痛いぞ??
「何すんのよ!」
振り返ったリネが怒りを剥き出しにしてレインを睨む。
腕組をした彼が苦笑気味に彼女に言った。
「どーせ俺達はもう向こうにマークされてるんだ。ネメシスの石集めようが集めまいが正面対決は逃れれねえよ。
…というかリネっち。――本当はこれ以上知りたくないだけなんじゃない?セルシアとリトの‘過去’」
「………」
レインの言葉にリネがそっぽを向いて俯いた。…まさか図星か??
彼女は俯いたまま何も言わない。――どうやら図星だった様だ。
知りたくないのは、何となく分かる。
今日になって明かされた10年前の過去。それは彼女にとってもセルシアにとっても、辛い思い出でしか無いのだろう。
ましてリネはあの頃何も知らなかったのだ。それを今になって明かされる。――辛い、だろうな。
そして彼女は頭が切れるから、薄らと気付いているのだろう。


これ以上2人の仲に深入りすれば、「知らなければ良かった」と思う様な事実が出てくる事。






だからリネはセルシアが全てを話し終えた時、リトのその後を聞かなかったに違いない。
推測だから断定は出来ないが、きっとそうだと確信はしている。
現にリネは俯いたまま何も言わなくなってしまった。唯じっと床を見つめている。

そんな中で。


「ただいま。ってかどういう空気?これ」
扉が開き、イヴとセルシアが顔を覗かせた。草原からやっと帰ってきたみたいだ。
部屋に入ったイヴが近くのベッドに腰を下ろす。セルシアも傍の床で腰を下ろした。

「これからどうするかって話してた」
「どうするもこうするもネメシスの石集めるに決まってんでしょ。明日ミツルギ神殿に行く。それだけよ」
イヴはそう言ってベッドに横になってしまった。疲れているのか何なのか。何にせよこの状況で寝るって相当度胸有るな。

「考えたって仕方ないでしょ。今あたし達が出来る事すれば良いじゃない」
そんなロアの意図を読んだのか何なのか。イヴがそう言って顔を上げた。
…今、出来る事。
確かに今自分達が出来るのは緑のネメシスを回収する事だ。その為にはいち早くクライステリア・ミツルギ神殿に向かわないといけない。
レインの言う通りどの道BLACK SHINEとの正面対決は逃れられないのだ。
あの時。――クライステリア・第一神殿に入った時から、それはもう運命付けられていた筈だ。

じゃあもう突き進むしかないじゃないか。

納得したのかしてないのか分からないがリネもその場を立ち上がり、端のベッドに腰を下ろす。
イヴの方を覗き込むが彼女は既に眠りに落ちている様だった―――。










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