――リコリスとフェンネルが去ってから直ぐ。 気力の限界により気を失ってしまった。それはレインも一緒の様で彼もまたぐったりとした顔で目を閉じきっていた。 だからその後あの場所で何が合ったのかは分からない。 唯、目を覚ましたら――何処かの部屋の一室に居た。 *NO,54...残された思い* 「よーっすイヴっち。元気?」 目を覚まして直ぐ、声を掛けてきたのは近くの床で胡坐を掻いているレインだった。 彼はその場を立ち上がり、イヴの寝ていたベッドに座る。 「…此処、何処?」 体を起こしながらレインに問い掛けた。それから周りを確認する。 隣のベッドでまだセルシアが眠っていた。マロンは近くのソファーでアシュリーと座っている。レインは傍に居るけれど…見回した限りじゃロアとリネ の姿が無かった。 先程のイヴの問いにレインが答える。 「SAINT ARTS本部。…俺達、あの後SAINT ARTSに助けられたんだよ。 んで。リネっちとロアが今SAINT ARTSのリーダーに会いに行ってる」 …SAINT ARTS。 薄れ往く意識の中、VONOS DAIS本部で聞いた‘足音’はSAINT ARTSの物だったのだ。恐らくVONOS DISEの現状の速報でも聞いて助けに来てく れたのだろう。それともリネが事前にこうなる事を予想してリーダーに話を持ちかけてくれたのだろうか。 何にせよSAINT ARTSはリネが滞在しているunionだ。敵対する心配はまず無い。此処は安全だ。 安堵から溜息を吐いて、その場を起き上がる。 此方に気付いたマロンとアシュリーがソファーと立ち傍に寄ってきた。 「おはよう。イヴ。もう平気?」 「平気よ。2人も大丈夫?」 「…大丈夫」 所々に包帯やらガーゼが張ってあるが2人は其処まで重症では無さそうだ。唯問題なのは……。 「…セルシア、一度も起きてないの?」 「……うん」 ――やっぱりセルシアだ。 あの中で一番酷い傷を負っていたのは彼だし、出血量も半端無かった。 その所為か彼だけは腕に点滴が刺してある。顔色は大分良さそうだし呼吸も整っているから無事に回復はしたと思うんだけれど……。 何せあの傷で術を2、3回使うっていう無茶までしているのだ。起きるのは当分先だろう。 とりあえずリネとロアが帰ってくるまでは此処でゆっくりしているしかない。もう一度ベッドに腰を下ろしたところで――勢いよく扉が開く。 外から顔を覘かせたのは、同じく包帯を巻いているリネとロアの2人だった。 「ああイヴ。起きたの」 手に報告書の様な物を持ちながらリネが傍に寄ってくる。そしてセルシアの寝ているベッドの方に座った。 ロアもまた扉を閉めて傍に寄ってくる。 「此処がSAINT ARTS本部ってのは聞いてる?」 「聞いた。…助けてくれたのもSAINT ARTS何でしょ」 「其処まで分かってるなら話は早いわね」 リネはそう言って再び持っていた報告書に目線を落とした。 彼女の次の言葉を待ってる間。そういえばと思い慌てて首元を確認する。 ――やっぱり、無かった。‘ネメシスの石’が嵌められた母の形見で有るあのペンダント。 リコリスに取られてそのまま持ち去られてしまったんだ。という事はセルシアもあの腕輪を持っていかれたという事だ。 彼女はまだ報告書を捲って何かを探している。捜索の邪魔になるとは分かっていたがそれでもリネに問い掛けた。 「…リネ」 「何」 「…VONOS DISEリーダー。まだ供養して無いわよね?」 「……一応うちのリーダーが遺体を回収して、供養した。セルシアが起きたら言うつもりだったんだけどね」 …そうか。そこまでSAINT ARTSのリーダーがやってくれていたのか。後で会いに行ってお礼を言わないと。 そう思っていたところでリネの後ろが少し動いた。 それに気付いたリネが一旦報告書から目を逸らし、セルシアの方を見る。 「…リ、ネ……?」 「おはようセルシア。具合は平気?」 どうやら彼が起きたみたいだった。点滴が刺さっていない方の手で軽く瞼を擦って、ゆっくりと身体を起こす。 「あんたまだ動かない方が良いわよ。点滴まだ終わって無いから」 リネがそう言って再び報告書に目を落とした。彼女なりにセルシアを心配しているのだろう。 彼は先程の自分同様周りを見回して、それから問い掛ける。 「此処、SAINT ARTS本部…?」 場所を当てた所からするとどうやら来た事が在る様だ。 「その通り。あたし達はSAINT ARTSに助けられたのよ」 リネは急がしそうなので変わりに答えた。その言葉にセルシアが軽く頷いて、額に手を当てる。 ……もしかして彼。リーダーが死んだ事を知らない? そう思うとちょっと胸が痛んだ。知らないならあたし達から伝えて上げないといけない。…VONOS DISEリーダーが既に死んでいる事。 それを察したのかレインが立ち上がり、セルシアの傍に寄る。 「自分のunionがどういう状況なのかは分かってるか?セルシア」 「……」 お前。それは幾らなんでも直球過ぎる質問だろ。軽くレインを睨んだ。 「…殆どの人間が殺されたのは、知ってる」 「リーダーがどうなってるかは?」 「……知、らない」 ああ、やっぱり知らないんだ。 ……言葉に詰まった。教えてあげないといけないのは分かっている。けれど――それは彼にとっては余りにも酷なんじゃ? 考えているとロアと目が合う。彼もまた答えに悩んでいる様だった。 此処はやっぱり、暫く教えておかないで彼が落ち着いてから教えた方が言いのだろうか。 一人ずつ意見を求めようと思ってマロンの方を見る。…彼女は軽く首を横に振った。マロンは今言うのを反対、か。 アシュリーの方を見たが彼女は否定も肯定もしなかった。目で訴えてるのを読み取る限りじゃ今言った方が良いって言ってる気がする。 レインはまだ悩んでるみたいだからリネの方を見る。 「……」 彼女は溜息を吐いて、セルシアの方を振り返った。…まさか言う気か? 「あのね。セルシア。辛いかもしれないけど聞いて」 …うん。リネは絶対に言う気だ。 「リネ、今はまだ言わない方が……」 それをマロンが止めた。今言う事を反対していたから止めるのは当たり前だが。 彼女の言葉にリネは軽く首を横に振る。 「どうせ何時かは知るのよ。知るんだったら早い方が良い」 「…リネ?」 セルシアが軽く小首を傾げた。唯あまり良くない話って事は気付いてるのか、顔色は暗い。 「VONOS DISE本部は多分あんた以外皆死んでる」 「……」 「…リーダーも、あたし達の目の前で息を引き取った」 「――っ?!」 セルシアの体が痙攣した。リネが辛そうに目を背ける。 「嘘……、だろ?」 「…嘘じゃない。遺体はうちのリーダーが供養した」 「………」 彼の体が凍り付いた。 それから、瞳から大粒の涙が零れる。…セルシアは俯いて、それきり泣き出してしまった。 きっと尊敬、憧れ、いろんな思いを抱いていたんだろうな…。 だからこそ悔やんでいるに違いない。リーダーを救えなかったこと。 まして今回リコリスとフェンネルはセルシアを狙ってVONOS DISEを襲撃した。もしかしたらセルシアは自分の所為だと思ってるのかもしれない。 何か言葉を掛けないといけないのは分かっていた。それでもどういう言葉を掛けて良いのか分からなかった。 それは皆一緒の様で、誰もが黙っている。沈黙の中でセルシアの泣き声だけが響いていた。 「…あたし達がもっと早くVONOS DISEに行っていれば良かった。……ごめん、セルシア…」 そんな中でリネが小さくセルシアに声を投げる。泣きながら、セルシアが首を横に振った。 「……俺の、所為だ…」 「…違う。セルシアの所為じゃない」 「俺がもっと早く…自分が狙われてる事に……気付いてればっ…!!」 其れきり彼は再び泣き出してしまう。 …違う。絶対にセルシアの所為じゃない。悪いのは全部BLACK SHINEだ。間違ってもセルシアの所為何かじゃない。 それを伝えたいけれど、上手く言葉に出来なかった。こういう時に口下手な自分が本気で呪わしく感じる。 ――静寂。 静まり返った部屋の中。報告書をベッドに置いたリネが彼の肩に手を置いて、その場を立ち上がった。 「…リネ?」 「全員起きたら報告して欲しい、ってリーダーが言ってたから…。…ちょっと報告してくる」 そう言って彼女は部屋を出て行ってしまった。 そして再び部屋には静寂と、彼の泣き声だけが残される。 何て言ってあげるのが彼にとって慰めになるのだろう。それとも此処はそっとしておいて上げるのが正解なのだろうか。 嗚咽を零し、ずっと下を向いて泣き続けるセルシアに、リネの代わりにマロンが背中を軽く摩る。 …BLACK SHINEだけは許してはいけない。 VONOS DISEを壊滅においやったリコリスとフェンネルを必ず倒して、ネメシスの石を奪い返さないと。 セルシアが泣いているのを見て、改めてそう思った――。 BACK MAIN NEXT |