グリフォンを倒すのにあまり時間は掛かったように感じなかったのだが洞窟を出る頃にはすっかり夜明け前になっていた。 流石に1日ずっと歩いていたのでしんどい。VONOS DISEは目の前だが…休憩しないと身体が持ちそうに無かった。 それは全員が全員同じ様なので少しだけ休息と睡眠をとってからVONOS DISE本部に急ぐことにした。 ロアとレインが交代で見張りをしていてくれたので無事に寝過ごす事もなく、2時間程度睡眠を取ってからVONOS DISE本部に急ぐ。 本当はまだ疲れが残っているのだがこれ以上休んでいる暇は無い。既に日は昇り出している。 そうして夜明けのまだ少し肌寒い砂漠を歩き続け、何とかVONOS DISE本部前まで到着した。 *NO,52...暗紅の本部* そう、本当の問題は此処からだ。 VONOS DISE本部に何もなければ良い。そしてセルシアの身の安否が確認出来れば良い。それだけだ。 「…押すわよ?」 入り口のインターホンに手を伸ばした所で、振り返ってロア達に問い掛ける。彼らは一斉に頷いた。…くそう、結局はあたしが押せって事か。 少しどきどきしながらインターホンを押してみる。 ――静寂。 1分2分と待ってみたが中から人が出てくる気配は無かった。 「……出てこないな」 3分位したところでロアが呟き、マロンとアシュリーが小さく頷く。 それからもう少し待ってもう一度インターホンを鳴らしてみたがやっぱり人が出てくる気配は無かった。 「埒あかねーし、中覘いてみようぜ?」 傍にやってきたレインが暢気にVONOS DISE本部の扉に手を掛ける。 …って、本部の扉がそんな簡単に開いてる訳無いでしょ。と思わずレインに突っ込みを入れそうになったが――。 「……開いた」 レインが押したドアは簡単に開いてしまった。初めから鍵は掛かっていなかったのだ。 薄暗い内部にレインと2人で足を踏み入れてみる。 …真っ先に、鉄の臭いがした。 これ、絶対に血の臭いだ。 思わずレインと2人で顔を合わせてしまう。 「イヴっち、これってもしかして」 「……一足、遅かったみたいね…」 大きく舌打ちをする。…間に合わなかった。 VONOS DISE本部は恐ろしい程静まり返っている。 そして彼方此方の扉の隙間からは人の手と思われる物がぶら下がっていたり、血がこびりついたりしていた。 遅れてロア達も本部内に足を踏み入れる。――彼等もまた顰め面をした。 「ちょ、リネ!!」 そんな中でリネが廊下を走り出してしまった。セルシアが心配なのだろう。自分達も慌ててリネを追いかける。 本部に辿り着く前、彼女はVONOS DISEには来た事があるから内部の地形は分かると言っていた。 その所為か前を走るリネは廊下に分かれ道が合っても迷う事なく突き進んでいく。 リネを追い掛け走り続ける途中、人の中身っぽい臓物がこびり付いている見えた。 他にも心臓っぽい物とか腸っぽい物が彼方此方にへばり付いている。 一部血が固まっている様な場所もある事からすると…襲撃されたのは結構前の様だ。 …にしても、これだけ静かって事はもしかして全滅か……?? 嫌な予感が頭を走り抜ける。あんな所でBLACK SHINEが邪魔をして来なかったら間に合ったかもしれないのに…!!ノエル達を酷く恨んだ。 やがてリネが一つの大きな扉の前で止まる。…と言っても、その扉もまた血に染まっていた。 「此処は?」 やっとリネに追いついたところで、彼女に問い掛けてみる。彼女は小さな声で答えた。 「…リーダーの私室。だったと思う。前来た時はそうだった」 ――此処が、VONOS DISEリーダーの私室。 一瞬躊躇った。開けた瞬間セルシアの死体とか見えたらどうしよう。嫌な予感が堂々巡りする。 そしてそれはリネも一緒なのか、彼女もまたドアノブに手を掛けようとはしなかった。ずっと拳を握って震えている。 「まだセルシアが死んだって決まった訳じゃないでしょ」 そんな中一人だけ楽観的なレインがドアノブに手を掛ける。…その楽観さ、今だけは本気で尊敬した。 ドアノブに手を掛けた彼が、勢い良く扉を開ける。リネと2人で真っ先に部屋の中を覗き込んだ。 部屋を見回してみたが白銀の髪の彼の姿は、無い。だが代わりに男が倒れていた。 「リーダー!!」 リネがそう叫び、男の傍に駆け寄る。…あれがVONOS DISEリーダー……。 無残な姿の彼に、自分も無意識の内に駆け寄っていた。 「大丈夫ですか?!」 リネの傍に座り軽く肩を揺すると、男が少しだけ目を開いた。――まだ生きてる! それを見たマロンが素早く駆け寄り男に治癒術を使用する。祈る様にして生まれた光が男の傷をゆっくりと癒していった。 「何が合った?」 薄く目を開いた彼にロアが問い掛ける。ロアの問いに男はゆっくりと語りだした。 「……奇襲だ…。理由は分からんが…VONOS DISEは、壊滅状態に…陥っている……。…たった、2人の男女に、よって…」 「――それって」 思わずリネと顔を合わせてしまう。彼女は血相を変えて頷いた。 絶対に間違いない。リーダーの言う‘男女2人’ってのは――リネを襲った奴等だ。 「…俺はもう、助からない……。だから…一つだけ、お願いだ……」 助からない――。その言葉に胸が痛んだ。 お世辞にも…この人は確かに助かりそうに無い。 とにかく出血が酷いのだ。マロンがずっと回復術を使っているが一向に血は収まらない。多分もう…。 「……副リーダーの…、セルシア、が…まだ、逃げている……。…奴等、は……セルシアを、探して……っ…」 ――セルシアが、まだ逃げている。 まだ彼は生きているんだ。今どんな状況か分からないが、とにかく彼は生きている。 男は一度吐血をすると、それでも言葉を続けた。 「だから…彼、を……助けてくれ……。きっと、何処かに……本部の、何処かに…隠れている、筈だ……」 そう言った男の手から――力が抜けた。 薄く開いていた瞳が完全に閉じ切られ、同時にマロンが回復術の使用を止める。 …静かにマロンが首を横に振った。全員が全員顔を逸らしてしまう。 もっと――もっと早く此処に来ていれば良かった!!本気で後悔した。まだ生きていたのに死なせてしまった……。 だが俯いている暇は無い。この人の最期の願いを、聞かないといけない。 本部内に居る筈のセルシアを、探すんだ。 「……行く、か?」 沈黙の中。最初に声をあげたのはレインだった。流石の彼も死を前にして完全に真面目になっている。 そうだ。行かないといけないんだ。セルシアを探さないと。 俯いて涙を零して居るリネとマロンの肩に軽く手を置いた。 「リーダーの最期の願い、覚えてるわよね?――セルシアを探すわよ」 「……う、ん…」 無理矢理涙を拭ったマロンがその場を立ち上がる。リネもまた涙を零しながらも立ち上がった。 救えなかった事は本気で後悔している。自分達がもっと早く来れば救えた筈だった。皆本気で後悔しているんだ。 ――だからこそ、リーダーの最期の願いを叶えて上げないといけない。それがきっとリーダーへの一番の‘弔い’――。 溢れて来そうな涙を無理矢理拭って、部屋を出る。 それに続いてレインとアシュリーが部屋を出てきた。無論2人の顔色も暗い。 遅れてロアがリネとマロンを支えながら部屋を出てくる。 「…後で、ちゃんと供養します」 リーダーの亡骸は、後で絶対に供養しよう。心にそう誓って廊下を走り出した。 走った方が、きっと涙が乾くから―――。 * * * ――それは全てを飲み込む‘破壊’への兆しだった。 もっと早く気付いて判断していれば良かった。本部がこんな状況に陥ったのは自分の所為だ。 自分が狙われている事にもっと早く気付いていれば…もっと早く本部から離れていれば……こんな事にはならなかった…!! 後から止め処ない悔しさと後悔が溢れて来る。拭いても拭いても涙が零れ落ちてきた。 そんな中で、相変わらずあの2人組は自分を探している。 本部の倉庫の中。嗚咽を必死に押し殺しながらずっと荷物に紛れて隠れていた。 だがそろそろ限界だ。向こうの此方を呼ぶ声は除々に近くなっている。 対して自分は――もう戦えない。 魔術増幅器であるイアリングは、破壊された。耳からは未だ攻撃が掠めた場所から血が溢れている。 戦輪は投げた所で向こうに没収された。正確に言えば向こうに攻撃したらその攻撃事受け止められてしまった――。 だからもう、自分は戦えない。 もう一つ言うなら血の量が酷い。何とか急所は外して来たが――貧血で頭痛がしてきた。 もう駄目だ。本気で終わりだ。背後からひしひしと死と言う悪魔が迫って来ている。はっきり言って意識も危うい。 そして呼び声は近付いて来る――。逃げ場所は、無い。 ――バンッ!! 大きな音を立て、倉庫の扉が開かれた。 相変わらず俺を呼ぶ声は止まらない。意識が朦朧としていて、もう何処から誰に呼ばれているのかも判断できない。 もう立ち上がれなかった。足が完全に痛みで感覚を無くしていた。 自分に残されているのは、きっと死だけ。 ゆっくりと瞳を閉じた――その時。 「セルシア!!」 その声は、やけに鮮明に聞こえた。 記憶の何処かで、その声を覚えている。聞き覚えのあるその声の主は――。 「…リ、ネ……?」 手を握って来たのは間違いなく幼馴染である彼女だった。 「大丈夫?助けに来たわよ」 遅れてイヴ達が顔を覘かせる。直ぐにマロンが駆け寄って来て回復術を使ってくれた。 ――どうして、此処に。 それだけの言葉が、声に成らない。言葉を紡ごうとするが唇が乾いてしまっている。最早声を出すことさえ困難だった。 「良かった……生きてて…」 リネが強く手を握ってくる。その手を握り返して上げたいが今はそれさえも無理だった。 唯、懇親の力を絞って必死に伝えれた、一言は。 「……に…げ…ろ………」 まだ居るんだよ。あの殺人鬼は。 この本部内に潜んでいる。――俺を探し続けて。 「…まだ内部に居るのね?セルシアと、VONOS DISEを襲った奴は」 アシュリーの言葉に力なく頷く。もう駄目かもしれない。かなり限界だ。 意識が飛びかけたその時。 一際大きな硝子の割れる音が聞こえた。同時に体が大きく痙攣する。――来た。絶対に来た!! 体が無意識の内に震えだしている。 そんな中で、イヴが剣の柄を握るのが見えた。 「やっと見つけた。――セルシア・ティグト。それと…イヴ・ローランド」 倉庫の窓から身を投げ入れ、微笑む女と無表情の男に――本気で体が震えた。 BACK MAIN NEXT |