翌日。リネが立ち直った所で再びVONOS DISE本部に向けて歩き出した。 リネが元気になったのは本気で良かったと思っているが…昨夜のリトの言葉がまだ引っ掛かっている。 【判らない】ってどういう意味だ? 記憶喪失なのか、とぼけているのか。あるいはもっと別の何かなのか――。 そんな事を考えている内に洞窟の入り口にまで辿り着いた。 *NO,51...マファーラ洞窟* 「この洞窟を越えて砂漠を一直線に歩いたらVONOS DISE本部に到着よ」 先頭を歩くリネが地図を片手に洞窟の入り口を指差す。にしても本気でとんでもない量を歩いたな…心の中で小さく思った。 日が出る頃に歩き始めた筈なのに、洞窟に着いた現在は既に日が落ちている。 本来なら此処で休憩を取って明日洞窟に進むのが一番良いのだが…。正直リネがそれじゃあ納得しないという顔をしている。 マロンとアシュリーも進む気あるみたいだし、多数決したってこれは進むで一致しそうだな…。 「どうする?このまま進むの?」 それでも念の為聞いてみた。イヴの問いにリネとマロンが同時に大きく頷き、遅れてアシュリーが頷く。 「ま、セルシアの身が心配だしな」 3人に釣られてか何なのかロアがそう言って苦笑した。やっぱり多数決したって進むで一致だな。こりゃ。 唯一人レインが自分と同じ意見っぽそうだが2対4だからどの道無理。仕方なく進む事にした。 「ホントに進むのー?明日にしなーい??」 やっぱりレインは自分と同じ意見だった。入り口に踏み入れた所でレインが情けない声を上げる。 その声にリネが彼の背中を軽く叩いて拒否した。 「休むならVONOS DISE本部に着いてからにしなさいよ」 「…へいへい」 リネの言葉にしょうがなくと言った感じでレインも歩き出した。そんな彼を見てマロンと苦笑しながら、とりあえず洞窟の奥へ向けて歩き出す。 暫く歩いているとリネが隣に戻って来た。彼女は手書きっぽい地図を握っている。 「それ、地図?」 問い掛けるとリネが小さく頷いた。それから紙を開いて懐中電灯を当てる。…この洞窟の地図の様だ。 とりあえずこれさえあれば迷わないだろう。リネってつくづく準備良いなと思いつつ地図を受け取り道と照らし合わせながら歩き続ける。 この洞窟異常に分かれ道があるし、道案内の看板は立ってないからリネが地図を持ってる事に本気で感謝した。 「ところでこの洞窟、歩いて何時間位で出口なの?」 ふと気になった事をリネに問い掛けてみる。彼女は少し悩んだ顔をしてからぽつりと答えた。 「順調に行けば1時間か2時間くらい」 「…順調に行けば、ね?」 ノエルとキースが去り際に言っていた。‘自分達の目的は足止めだ’と。 つまり、此処でも何かしてくるに違いないのだ。何せ向こうは此方の足止めが目的なのだから。 ましてこの洞窟なんて絶好の足止めポイント。絶対に何かしてくるに決まってる。用心するに越した事は無いだろう。とりあえず慎重に歩く事にし た。 皆が慎重に洞窟内を歩く中、一人レインだけが彼方此方をぶらぶらしながら歩いている。…コイツって本当に緊張感の欠片も無いな。 リネに地図と懐中電灯を預けて、一番最後尾を歩いているレインの傍に寄った。 「あんたもうちょっと警戒心を持つとかそういう事は出来ないの?」 「何が?」 …駄目だコイツ。緊張感の欠片も無い。 ムカついたから殴ろうと拳を振り上げたところで――。 「ほらっ、来たぜ!」 「は?!え…ちょっと!!」 一瞬の内にレインに手を引っ張られ壁際に引っ張られた。 あまりにもいきなりだったのでびっくりしたが直ぐに異変に気づく。――火薬の様な臭いがした。 そして一歩遅れてそれに気付いたリネ達も、咄嗟に左右に散らばる。 直後。先程イヴやリネ達が居た場所に火花が走って行った。……今の、間違いなく攻撃だ。 やっぱりノエル達か?直ぐ様立ち上がり攻撃が来た方向を確認した。そこに居たのは――。 ――狼の様な身体に黒い翼を持った、まるでグリフォンの様なモンスターだった。 唯、普通のモンスターと違うのは…。 「…前足、気付いてるか?」 「気付いてる」 ロアの問いにイヴが大きく頷く。 ――グリフォンの前足に、まるで刺青の様に刻まれていたのは【BLACK SHINE】のシンボルマークだった。 このグリフォン。どう考えたってBLACK SHINEからの差し金だ。きっとノエルかキースがよこしたに違いない。やっぱり足止めしに来たか…! 言葉の通じない魔物に交渉してみようと思ったって時間の無駄だ。さっさと倒してこの洞窟を抜けなくては。 鞘から剣を抜き直ぐ様グリフォンに向けて切りかかった。しかし軽々と攻撃をかわされ、翼の羽ばたきで押し戻される。…やっぱりBLACK SHINEで 飼い馴らされていただけ合って強いか…。 後ろに引き下がった所で、直ぐ様ロアとレインが左右からグリフォンに武器を振り下ろす。 だが地面を蹴り上がりグリフォンが洞窟の天井まで高く飛んだ。振り下ろした武器は空振りに終わる。 「唸れ旋風、仇なす敵に風の猛威を――ウィンディア!!」 その直ぐ後でリネが腕を振るい下ろす。彼女の攻撃を視たレインが血相を変えて彼女に叫んだ。 「馬鹿!リネっち!!グリフォンは風の攻撃を吸収するって!!」 「…はぁ?!そういうの早く言いなさいよ!!馬鹿!!」 リネもまた血相を変えてレインに叫ぶ。 確かにグリフォンに風属性の術は全く聞いていなかった。寧ろ今のリネの攻撃を此方に弾き返して来る。自分とロア、それと後ろに居たアシュリー に向けてだったので何とかその場を避けてかわした。 そんな中でリネとレインは未だ言い争いを続けている。…駄目だありゃ。溜息を吐いて空高く飛んでいるグリフォンに魔弾球を投げた。 発動した魔術にグリフォンが一瞬隙を見せたところで、マロンがグリフォンの羽に向け勢い良く弓を射る。 直ぐにグリフォンが矢の攻撃から逃れようと別の場所に移動した為羽に当たる事は無かったが後ろ足には掠った。グリフォンが小さく呻き声を上 げ、下に下りてきたかと思うとマロンに向け前足の爪で攻撃をしてくる。 漸く我に返ったレインが慌ててマロンの前に出るとグリフォンの爪を槍で抑えた。初めからちゃんと動きなさいよと心の中で悪態を吐きつつ、漸く下 に下りてきたグリフォンに向けて今度は死角から剣を振るう。 無論直ぐにかわされてしまったが其処から更にロアが双剣で羽の先端を傷つけた。 「――earth」 其処から直ぐにアシュリーが腕を振るい下ろし、グリフォンに向け術を放つ。 完全に当たった訳では無いが確実に傷つけれた。…これなら行ける! だが向こうも無抵抗な訳じゃない。怒り狂ったグリフォンが此方に炎を吐き出して来る。 「我が力となりし物よ、大いなる壁を造り敵を阻め賜え。――ミスティックゴーデル!」 マロンが咄嗟に防御術で庇ってくれた。何時も彼女には助けられてばっかりだ。本気で後でお礼を言おうと思いつつグリフォンから一旦距離を置 く。 此方側には攻撃が利かないと感じたのかグリフォンは直ぐに狙いを別に定めた。 傍に居たロアに長く伸びた尾で攻撃をすると、槍を振り上げたばかりだったレインに前爪を突き出す。 ロアもレインも咄嗟に受身を取ったので軽症で済んだがロアの方は右肩が痛む様だった。レインは足から血出てるけど、2人は大丈夫だろうか。 最も…回復はマロンしか出来ないので彼女に任せるしかない。彼女にアイコンタクトで回復をお願いするとマロンは頷いてとりあえず一番近くに居 たレインに回復術を当てた。 「ロアはとりあえず下がってて!!」 右肩がやられたんじゃ、右手で剣を振るうのは辛いだろう。彼の戦闘スタイルは双剣だから片手剣じゃ戦えないと思うし…今は下がってもらうのが 正しいに決まってる。 此方に向かって突進して来るグリフォンの攻撃を間一髪の所でかわし、グリフォンに向けもう一度魔弾球を投げつける。 流石にもう怯みはしないが目晦まし位にはなる筈だ。 「振り上げよ、聖光なる炎――。ファイヤーボルト!!」 その隙にリネがもう一度腕を振るい下ろした。赤い魔方陣から生まれた火の粉がグリフォンに向かって放たれる。 今の攻撃は効いたみたいだ。グリフォンがもがき苦しむ声を上げた。 「――Insanity」 そして極めつけにアシュリーが術を叩き込む。 だがグリフォンは天井に高く飛ぶとアシュリーの術をかわした。そして全員に向けて巨大な火の粉を放って来る。…逃げ場が無い!! 咄嗟にロアが手を引っ張ってくれ、安全な場所まで連れて来てくれた。唯リネが軽く肩側を火傷したっぽい。彼女は肩を抑えつつグリフォンから距 離を取っている。 「あたしは後で良いから、先にロアの回復して!!」 今のは多分マロンへの言葉なのだろう。確かにリネなら両手が使えなくても一応術は使う事が出来る。唯ロアは右肩が使えないと戦闘に参戦出 来ないのだ。優先するのはロアだろう。リネの言葉に頷いたマロンが此方に向かって駆けて来た。 とりあえず今まともに動けるのは自分とアシュリーとレインだけか…。幸い3人共別々の方向に居るので、3箇所から同時にグリフォンを攻撃する 事が可能だ。唯まずは空高く飛んでいるグリフォンを下に下ろさないと。 踵を返して、もう一度ロアとマロンの方に戻った。それから不思議そうな顔をしているロアから拳銃を借りて、グリフォンに向かって打ち込む。 ――流石に、素人が撃つのは駄目だった。グリフォンには掠りもせず逆に向こうを威嚇してしまったっぽい。此方に向かって風の攻撃を送り出して 来るグリフォンからもう少し距離を置いて攻撃を何とかかわした。 「イヴっち!貸して!!」 レインが手を伸ばしてくる。貸して、って銃の事よね。絶対。 自分が撃ってもグリフォンを刺激してしまうだけなので大人しくレインに向け拳銃を投げ渡す。それを器用に受け取ったレインがグリフォンに向けて 2、3発発砲した。 …って、すごっ。 レインの撃った銃弾は完璧にグリフォンに当たっていた。もしかしてレインてどんな武器でも使える万能型っぽい? 性格は馬鹿以外の何者でも無いがこういう時役に立つのが悔しいと思いつつ、下に下りてきたグリフォンに向かって地面を蹴った。 精一杯の力を込めてグリフォンに剣を振り下ろす。 手ごたえ、合った。 何処に当たったかは判らないが確実に当たった。グリフォンが呻き声をあげて此方を睨んでくる。次の攻撃が来るか…? 身構えたと同時、アシュリーが腕を振るい下ろすのが見えた。此処絶対邪魔よね。グリフォンから距離を置いてレインの傍に引き下がる。 「――Destruction!」 放った魔術がグリフォンに向かって真っ直ぐに伸びた。 先程自分が振るった剣の攻撃の打ち所が悪かったのか、攻撃をかわすのに失敗したグリフォンは大人しくアシュリーの術の餌食となる。 懇親の力を込めて此方に火の粉を振るってきたがマロンが防御術で庇ってくれた。彼女とロアの方を見ると既に回復は終わったらしくロアが立ち 上がっている。 マロンは慌ててリネの方に駆け出していた。だが彼女は未だに詠唱を続けている。 …そういえばリネはさっきからずっと詠唱を続けているみたいだけれど、何か大きな技なのか? 足元に浮かんだ水の様な澄んだ色をした魔法陣は何時にもまして輝きが大きい。――やっぱり大きな技か。 グリフォンの留めはリネに任せよう。とりあえずそれまでグリフォンをリネに近づけさせないようにしなくては。 「もう動ける?」 ロアに問い掛けると彼は笑顔で大きく頷いた。よし、行ける。 お互いでアイコンタクトを送りつつ今まさに飛び立とうとしているグリフォンに切り掛かる。 自分の攻撃は空振りした。すかさずグリフォンが牙を向けてきたがレインが上手く槍の柄の部分で牙を押さえつけてくれる。 そしてその後ろからロアがグリフォンに切り掛かった。羽を落とす為に根元を狙って双剣が振るい下ろされる。 ――キィン!! と、まるで金属がぶつかり合う様な音が聞こえた。何だ今の音?!音が聞こえたロアの方を見る。彼が苦い顔をしていた。 …もしかして羽の付け根は金属の様に硬かったりする? 少しだけ笑ったように見えたグリフォンが、全体に風を巻き起こしてきた。遠くに居たリネとアシュリーはマロンが術で庇った様で無傷だが近距離に 居た自分とレインとロアには大打撃だ。無残に地面に倒れこむ。直ぐに立ち上がったが身体が痛んだ。くそう、後ちょっとで倒せそうなのに!! そんな中リネの詠唱を詠う声が止まる。――もしかして、完成した?! 「清水よ、清き舞姫と誓いの結印を。――傍に居る奴は離れなさい!!」 リネが確かにそう宣告した。完成したんだ!咄嗟にその場を離れた。 それと同時、既に弱っているグリフォンに向けてリネが腕を振るい下ろす。 「――アクエス!!」 彼女の叫ぶ声が洞窟内に木霊した。 足元に浮かんだ魔法陣が彼女に共鳴する様に激しく光だし、そしてグリフォンに向かって大量の水が襲い掛かる!! リネの術――アクエスは確かにグリフォンを勢い良く飲み込んだ。 最初はもがき苦しんでいたグリフォンが、除々に動かなくなっていく。 押し寄せた水が消える頃にはグリフォンは力なく洞窟内に倒れた。…倒した、か? 念の為剣を持ってグリフォンに近づいたが動く気配が全く無い。…倒したみたいだ。 「リネ、今の術ってラグレライト洞窟でも使ったやつよね」 剣を鞘にしまって、マロンから治療を受けている彼女に声を掛けた。 「そうだけど…何?」 「前より威力上がってた。やっぱりリネって凄いのね」 「……別に」 照れているのか何なのか、それきりリネは黙り込んでしまう。傍に居たロアと2人で思わず笑ってしまった。 そんな中やがて先程のイヴ同様グリフォンの身体を調べていたアシュリーとレインが此方にやって来る。 「前足に刻まれてたシンボルマーク…やっぱりBLACK SHINEの物だった……」 「あのグリフォン、やっぱりBLACK SHINEの差し金っぽいな」 そうか。2人はシンボルマークを調べていてくれたのか。そういえばあのグリフォン、BLACK SHINEの差し金だったっけ。 2人の言葉を聴いて改めて思い出す。でも、それにしては手ごたえが浅かったような……? 「…悪魔でも‘足止め’って事、ね……」 足止めってだけで此方の命を奪う気は無いのか。本気で意味の判らない集団だ。 何にせよこれ以上時間をロスする訳には行かない。 リネの治療も済んだみたいなので立ち上がり、洞窟の出口に向かって歩き出した―――。 BACK MAIN NEXT |