思った通り湿原の出口は近かった。
出口を抜けた直ぐの場所に地面の平坦な丁度良い場所が合ったので其処で野宿をする事になり、毛布を使って真っ先にリネを寝かせる。
顔色も大分良くなってるし、唯眠ってるだけのようだが…。起きたらとりあえず声掛けはしてみないとな。そう思いつつ焚き火の傍に座った。
「リネっち、まだ起きないの?」
近くに居たレインがイヴに問い掛ける。その問いに肯いた。
それからリネが寝ている方を見る。傍でアシュリーが彼女の看病をしていた。何時だったかアシュリーが熱を出した時、ずっと付きっきりで看病して
たのがリネだったから、そのお返し何だと思う。
とりあえずリネが回復するまでは此処でストップだ。早く彼女が回復してくれる事を願いつつ空を見上げた。


*NO,50...灯火*


「ホントに任せて良いのか?」
ロアの問いにイヴが焚き火の炎を見つめながら頷く。彼女の肯定の返事を見てから彼等は地面に寝転がって瞳を閉じた。
本来今日の見張り当番はロアだったのだが無理を言って変わって貰った。多分そろそろリネが起きる頃だと思うし…彼女からちゃんとした訳が聞
きたかった。何故あの場で座り込み泣き出してしまったのか。その理由を。
とは言ったものの。とりあえず寒い。砂漠の方の夜って冷えるからしょうがないか。そう思いつつ余っていたタオルケットを肩に掛ける。
とりあえず一晩はこうして起きてないといけないので暇だった。
皆を起こす訳にも行かないし、とりあえず剣の整備でもしておこうかと思って近くに置いた剣のホルターに手を伸ばした所で―――。
――影?
焚き火の炎がはっきりと人影を写していた。直ぐ様顔を上げる。目の前に立っていたのは―――。

「…何のつもり?」
「争うつもりは無いと前も言った筈だが」
BLACK SHINE幹部。リトだった。
争うつもりは無いとか言われたって、数時間前にノエル達と対峙したばかりなのであまり信用出来ない。ポケットに手を入れ魔弾球を手に持ちなが
ら彼を見上げた。
「じゃあ何の用?」
「――この前の問いの続きだ」
……ああ。成る程。
そういえばこの前こうしてリト1人と会話した時、リトは自分に何かを聞こうとしてたっけ。
結局あの時はノエルがやって来たから結果的に質問を聞く事が出来なかったのだが。
てことは今のリトには敵意が無いと判断して良いのか…?唯あまり油断は出来ないので魔弾球から手を離さず言葉を続ける。
「…答えられる範囲ならね。どうぞ?」
問い掛けるとリトが一瞬俯き、それから此方をじっと見つめて来る。
前も思ったが何を聞かれるんだろう。というか何故自分にだけ聞いて来るんだ??
船に乗ってた時ロアと少し会話をしたのだがどうやらリトと接触したのは自分だけみたいだった。

「……何故」

しばしの沈黙の中で漸くリトが口を開く。
だが問い掛けられた言葉は――想像とは全然違った言葉だった。


「お前は何故、俺がリネの兄だと思った?」

「…は?」

思わず間抜けな声が漏れる。だが向こうは至って真剣な顔だ。
…そうか。グランドパレー諸島でリトと対峙した時、お前がリネの兄なのかって問ったのは自分だけだった。
多分だけど、だから自分にしか聞いて来なかったんじゃないだろうか。
とは言っても…返答に困る。
リトがリネの兄だと思った理由……。
とりあえず一番の理由はリネ自身がそう言ったからだ。それとセルシアの証言も合ったから。そして何より。

「あんたとリネは結構外見とか似てると思ったから…ね。
リネ自身があんたの事を自分の兄に似てるって言ったからってのもあるけど」

とりあえず思った事を全て言ってみる。…リトが沈黙した。
今の回答、もしかして拙かったか??
つい魔弾球を強く握り締めてしまうが、リトから返ってきた言葉は「そうか」の一言だった。
彼はそのまま踵を返し、ふらりと闇の中に向けて歩き出す。

「ちょっと待って。あたしからも1つだけ質問」
「……」
イヴの言葉にリトの足が止まった。聞いてはくれるみたいだ。意を決してリトに問い掛ける。



「あんたは本当にリネの兄じゃないの?」

グランドパレー諸島で問い掛けた時はあっさりと否定されたが、もしそれがノエル達によって‘無理矢理’言わされていた物だったとしたら?
今ならノエルやキースも居ない。自分以外の全員は眠ってる訳だし、もしかしたら本当の事を言ってくれるんじゃ…。そう思ったから問ったのだ。
その言葉にリトが少し躊躇った顔を見せる。やっぱりノエルに‘違う’と言う事を強要されていたのか?でもそれならどうしてリネやセルシアの事を
攻撃したりなんか…。仮にも実の妹と親友だ。そんな簡単に攻撃出来る物だろうか??
迷った顔をしたリトが沈黙の果てに答える。

「判らない」

…判らない??
それってどういう意味だろう。問い掛けようとしたがその前にリトは何処かへ行ってしまった――。


確かにグランドパレーの時とは違う返答が帰ってきたが…判らないってどういう意味だ?
もしかして記憶が無いとか?それなら何か納得が出来る様な気がする。
でもそれならどうしてセルシアはあんなにリトの存在を拒絶してる??というか、まずは其処から問題だ。
何でセルシアはリトの存在をあれほど頑なに拒絶しているのだろう。親友でしょ?
一番妥当なのはリトが行方不明になる前にセルシアとリトが喧嘩したっていう考えだが…。セルシアが腹を割ってくれないと何も判らない。
やっぱり彼には無理を言って聞いてみるしか無いのだろうか。
少なくともリトの正体について知るにはセルシアが知っている最後に見たリトの姿の情報が無いといけないのだ。だから全てを理解する為には。
……聞いて、みるしかない。

でもそんな簡単に教えてくれるだろうか?
セルシアはリトの事を心の傷にしてるみたいだった。…だからカスタラでリトの話をした時だって部屋を出て行ってしまったんだと思う。
そこら辺の事を考えると事情を話したって素直に教えてくれるかが怪しい。
そして彼にそれを喋らせるのは彼の心の傷を抉ってるのと一緒なんじゃ…?
――でも聞かないと何も進まないし、何も見えてこない。

「…ああもう!!あたしはどうすれば良いのよ!!」
とりあえず声に出してやるせなさを叫んだ。どういう方法が最善なのか、さっぱり分からない。
一番良いのはセルシアから言い出してくれる事なんだけれど……。その可能性は0に等しいだろう。

深々とした溜息をついたその時――皆が寝てる方から微かな物音が聞こえた。
もしかしてと思い、リネの寝ている方を覗き込む。
…案の定。彼女が目を覚ましたみたいだった。まだ寝ぼけているのか目は虚ろだ。

「おはよう。大丈夫?」
隣で寝ているマロンを起こさない様なるべく声のボリュームを下げてリネに問い掛ける。
「……イヴ?」
彼女がゆっくりと体を起こした。…大丈夫。リネはもう冷静に戻ってる。
「傷、痛まない?平気??」
「…ん。……ありがと…」
「お礼を言うなら明日、治療してくれたマロンと看病してくれたアシュリーに言いなさいよ。あたしは何もやってない」
とりあえず普通に会話は出来ているが、何処と無く元気が無い。
とりあえず焚き火の近くの置いておいたコップにお茶を注いでリネに渡してあげた。喉渇いてると思うし、何か飲んだ方が気持ちも落ち着くだろう。
コップを受け取ったリネが一口お茶を飲み込む。それから少しだけ溜息を吐いた。
さて。彼女が大分目を覚ましてきたみたいだし――そろそろ問い掛けても大丈夫、だろうか。
「…どうしてあんな事言ったの?あたし達は誰もリネが足手まとい何て思ってないわよ」
「……」
その言葉にリネは俯いたまま何も答えない。…やっぱりまだ何か落ち込んでいるのだろうか。
質問をもう少し変えた方が良かっただろうか。遠まわしな言い方を考えていると――。

「…昔ね、同じような事が合った気がする」
リネが静かに口を開いた。考えるのを止めて、彼女の言葉を真剣に受け止める。
「誰かがあたしを庇ってくれて、その誰かは酷い傷を負った…。……遠い昔に、そんな事が合った気がするの。悪魔でも気がする、だけど。
……それをマロンが庇ってくれた時たまたま思い出しちゃった。それだけ」

…誰かが庇ってくれて、その誰かは酷い傷を負う。
もしそれが彼女の過去に本当に合った事なら、確かにかなりのトラウマになっているだろう。
ましてあんな状況で思い出してしまったら、自身に劣等感を感じてしまうのも何となく分かる気がする。
彼女はずっと下を向いて俯いている。思い出したくない記憶の一部を掘り返してしまった様だ。
「……大丈夫よ。あたし達は誰も傷ついてないし、傷つけさせない。…ね?」
ずっと俯いている彼女の頭を撫でながら優しく微笑む。
リネは俯いたまま何も言わなかった。…ううん。泣いてるのか?
手に持ったコップに彼女の頬から雫が落ちる。落ちた雫がコップの水面を微かに揺らした。

「あんたもセルシアも馬鹿みたいに強がりなんだから……、偶には甘えなさい。
そしたらきっと、そんな不安どっかに言っちゃうわよ」
「……っ…」
小さく嗚咽を漏らした彼女が、それきり顔を伏せて泣き出してしまった。
零れ掛けていたコップを彼女の手から貰って地面に置いてから、彼女の頭を撫でる。
大丈夫。今日泣いた分だけ、明日のリネは強くなれる筈だから。
そう信じてリネが泣いている傍でじっと彼女の頭を撫で続けた。




* * *



「正面ゲートの方は多分全滅です。内部も殆ど壊滅状態って聞きました」

「これ以上被害を出す訳には行かない。向こうの狙いは何か分からないが…動いてくれるよな?」

敬愛すべき男の言葉に、彼は確かに肯いて見せる。
そして目の前の男に向けて深々と頭を下げた。

「了解です、リーダー。…俺が何とかします」
「有難う。頼りにしてるよ。――セルシア」
リーダーの言葉に頭を上げた彼――セルシアが少しだけ微笑んで、戦輪を手に持つ。そして彼はリーダーの私室を飛び出した。


はっきり言って最初は内部で何が起きてるのかさっぱり分からなかった。
最初に聞いた情報は、正面ゲートの見張りが何者かに殺された事。
そして次に聞いた情報は正面ゲートの見張りを殺した殺人鬼は、今もこのVONOS DISE本部内を徘徊しているらしいという事だった。
向こうの狙いは何なのかさっぱり分からない。唯の頭の可笑しい殺人狂なのか、BLACK SHINEの差し金なのか、それとも意図的に起こしているの
か…。何にせよこれはリーダーの命令だ。これ以上の被害は出してはいけない。副リーダーである自分が指示をして被害を止める必要が有る。

それに相手は2人だ。そう、たった2人だけ。
大丈夫。いける。2人程度だったら取り押さえるくらいは出来る。
そう思い軽く本部の廊下を見回したところで――。



「――お前が、セルシア・ティグト…だな?」

声が聞こえたと同時。
瞬きをする間も無く――視界は真紅に染められた。










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