「それって――?!」 身を乗り出すマロンに対しリネは相変わらず目を逸らし虚空を見つめている。俯きながらも彼女は言葉を続けた。 「あいつ等が言ってたのよ。――ネメシスの石を探してる、って。自分達でね。だから間違いないと思う」 そう言って小さく溜め息を吐いた彼女が、漸くマロンと目を合わせる。 お互い目を合わせたまま沈黙していると――家のドアが開く音が聞こえた。もしかしてイヴ達? 案の定そうだった。向こうの部屋からレインとイヴの争う声が聞こえる。鉱山の手伝いは無事に終わった様だ。 「…今の話、イヴ達にも話した方が良いよね」 「……でしょうね」 マロンの問いに対し、リネが素っ気無くも大きく頷いた。 *NO,48...hope and wish* 最初に部屋に顔を覗かせたのはイヴとロアだった。2人に遅れてアシュリーとレインが部屋にやってくる。 「リネ、傷はもう平気なの?」 「…マロンのお陰でね」 イヴの問いに彼女が素っ気無く頷く。痛む所は今の所無い様だ。 「で、何で本部に帰った筈のリネっちが此処に?」 彼女の安否を確認した所で早速レインが話を切り出した。 彼の言葉に大きな溜息を吐いたリネがベッドに凭れながら口を開く。 「さっきマロンには話したんだけど――…。ま、もう一度話した方が良いわよね」 リネの言葉にイヴがマロンの方を見た。視線に気づいた彼女がイヴの方を向いて少しだけ頷く。 自分達が帰ってくる少し前にリネは起きていたみたいだ。それで先にマロンには話したという事だろう。 「簡単に言うとね。――ネメシスの石を奪おうとしてる奴が居る。 あたしはそいつ等にイヴとセルシアの居場所を聞かれた。…ま、どっちも答えなかったらこの傷の有様だけどね」 そう言って彼女が軽くとぼけて見せるが、全然笑えない。 ――ネメシスの石を、狙っている奴が居る。 自分達がネメシスの石を持っている事は此処に居る6人とセルシア、そしてBLACK SHINEの奴等しか知らない筈だ。 てことは自分達を追っかけてリネに傷を負わせたのはBLACK SHINEの一員か何かに違いない。 「その話、もっと詳しく」 リネの傍にあった椅子に座って、彼女の方を見つめる。 ロア達も真剣に彼女の話を聞いていた。冗談を言う様な子じゃ無いのは皆分かっている。リネの言葉はきっと真実だ。 「……オッケー。初めからもっと詳しく話すわ」 眉間に皺を寄せつつも、リネが大きく頷く。 彼女は軽く深呼吸をしてから、再び重い口を開いた。 「数日前、あたしはクライステリア・第一神殿の調査をリーダーから依頼された。 ま、依頼されたからにはちゃんと調査しないといけないし、神殿の方に向かったの。――そして神殿の奥でそいつ等と出会った」 「それがリネを傷つけたって言う…ネメシスの石を探している奴等なのね?」 アシュリーの問いに彼女が小さく頷く。 長い話になると悟ったのか床にレインが座った。つられてアシュリーとロアも扉を閉めてなるべく彼女の傍で座る。 先程まで鉱山で肉体労働をしていたから正直疲れているのだが、これは疲れているとか何だとか言っている場合じゃない。自分達に確実に関わっ て来ている話なのだ。 「そいつ等の特徴は?」 改めて出たロアの問いにリネが彼の方を見て言葉を投げる。 「1人は水髪の男。もう1人は薄桃の髪の女」 ――水髪と薄桃の男女。色々記憶を遡ってみたが全然出会った覚えは無かった。それは他の4人も一緒の様で不思議な顔をしている。 だがこの男女二人組がBLACK SHINEに関わっている確率はかなり高い。寧ろBLACK SHINEの追手とも考えられる。 彼女は言葉を続けた。 「その2人組に聞かれたのよ。【自分達はネメシスの石を探している。だからイヴ・ローランドとセルシア・ティグトの場所を教えろ】って…ね」 「…名前までバレちゃってる訳?」 「見たいね。2人の事知ってるみたいだった」 レインがとぼけた感じで質問をしてきたが帰ってきた返答は重い物だった。 これは本当に洒落にならない。こっちが向こうを知らなくても、向こうはこっちを知っている訳だ。つまり向こうは今死に物狂いで自分達を探している …のか?? 悪寒が走って軽く身震いする。リネが軽く自分の頭を抑えて言葉を続けた。 「答えなかったらいきなり攻撃された。幸い抜け道みたいな物をあたしは知っていたから其処から逃げて、海岸沿いに此処まで来たわ。 でもcross*union本部に世話になるのは返って怖いし――それならイヴ達に会った方が良いって思ったの」 そうか。リネは森を通ってきたのではなく海岸沿いに此処まで来たから自分とは会わなかったのか。 多分リネが海岸沿いを歩いている頃、自分も依頼で隣町に薬を貰いに行く為森を歩いていた筈だ。出会わなかったのはその為だろう。 ――ぶっちゃけ自分も森でBLACK SHINEと遭遇したから、リネが海岸沿いに此処に来たのは正解だと思う。 「それで、俺達に会いに来た、と」 「まあ。そうなるわね」 ロアの言葉に彼女が頷く。…リネの経緯は大体分かった。つまり危険を知らせる為に此処まで来てくれたのだ。 「ありがと、リネ」 「……何よ、いきなり」 お礼を言うと彼女が少しだけ頬を赤らめ此方を見る。 そんな姿にくすりと笑って――気づいた。 ちょっと待て。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ リネはさっき、‘自分達はネメシスの石を探している。だからイヴ・ローランドとセルシア・ティグトの居場所を教えろ。と聞かれた’。…そう言った。 ――自分は此処に居る。安全も確保されている。 じゃあ、セルシアは? 「それ――セルシアには伝えたの?!」 慌ててリネに聞くと彼女も血相を変えて首を横に振る。――マズい。それってつまり……。 「リネっちの方に来て、俺達の方に来てない。って事は――セルシアの方に行ったって事か?」 眉間に皺を寄せたレインが簡潔に事を述べる。 そう。狙われているのは自分だけじゃない。セルシアもだ。 彼は今もネメシスの石が嵌め込まれた腕輪を付けている筈だ。 そして彼の現在の居場所――VONOS DISE本部も向こうが此方の情報を知っているなら特定しやすい。 尚且つ自分とセルシアを探しているのに自分の方にはまだ来ていないって事は――――。 リネを襲った奴等は、きっとセルシアに会いに行ったんだ。彼からネメシスの石を‘奪う’為に。 「リネ!VONOS DISE本部の場所って分かる?!」 「…海を越えた先にある砂漠地帯に在る」 リネが顔を真っ青にしながら答える。 駄目だこれ。本当に洒落にならない。セルシアが危険な状態になってる確率は高い。 「セルシアに会いに行くわよ――!」 立ち上がり、慌てて部屋を飛び出した。リビングに掛けてある鞄を拾って家の外を飛び出す。 そしてイヴが出て行って直ぐリネがベッドから飛び降りてイヴの後に続いて走り出した。 「ちょ…おまっ……!」 そんな2人に慌ててロア達も立ち上がり少し遅れて2人の後を追う。 ――今から家を出て全速力で船の停留所に行ったら、一番近い船の出港には間に合う筈だ。 それに乗ってVONOS DISE本部まで行く。あまりにも急な旅の再開だがセルシアが危険なのだ。行くしかない。 「どの船に乗ればいい?!」 直ぐ後ろを走るリネに問い掛けると、彼女は先の方にある停留所を見回して――突き当たりの船を指差した。 「多分、あれ!!」 確かに突き当たりの船はこの前リネとセルシアが帰る時に使っていた船だ。あれで間違いないだろう。 少し遅れてロア達が全速力で追いかけてくるのが見える。 彼らには悪いけれど先に突き当たりの船にリネと辿り着き、出港寸前の船に飛び乗った。 「おま…話が急過ぎるだろ!」 遅れて船に乗ったロアが息を切らしながらイヴに言葉を投げる。 次いでアシュリーが船に乗り、最後にレインとマロンが飛び乗って船は出港した。 ――ぎりぎり間に合った。溜息を吐いて船に座る。 「しょうがない…でしょ…。この船逃したら…二時間は待たないと…いけないんだから……」 息も絶え絶えにロアに反抗する。 二時間も待っている程悠長な話では無いのだ。 此処からVONOS DISEまで何日掛かるのかさっぱりだが、とにかく彼の無事を確認しなくてはいけない。 リネもセルシアが気になるのか、ずっと海を見ながら溜息を吐いている。――彼女とセルシアは幼馴染。ずっと一緒に居た仲だからこそ気になるの だろう。 セルシアが簡単にやられる奴じゃないって事はちゃんと分かっているけれど、相手が2人なら話は別。 しかも高位な術使いであるリネにあそこまで酷い傷を負わせた奴等だ。 そしてネメシスの石をもし彼が差し出さないようなら――殺す事だって考えれるのだ。 とにかく相手を見ているのもリネだけだし、VONOS DISEの場所を知っているのもリネだけ。今は彼女に頼るしかない。 リネの方を軽く見るが、彼女は相変わらず海と空を見上げていた。 「でも向こうに着くまでかなり時間あるよ?」 そんな中でマロンが声を上げる。 …確かに一番出港の早い船に乗ったは良い物の、向こうの大陸に着くまでは1時間以上掛かる。 色々考えた結果とりあえず一度寝ておこうという事になり皆が皆客室に歩き出した。 「リネ」 唯一向に動かない彼女に、イヴが声を掛ける。 「…さっきまで寝てたから、あたしは良い。勝手に寝てなさいよ」 彼女は此方を振り向きもせずそう言った。 自分の不注意でこうなったと思っているのか、セルシアの事まで考えきれていなかった事を悔やみきっているのか、彼女の声は軽く涙声が掛かっ ている。…暫くはそっとしておいてあげた方が良いだろう。軽く頭を撫でて客室に向かった。 BACK MAIN NEXT |