警戒する此方を見てリトが鼻で笑う。 「安心しろ。ノエルもキースも此処には居ない。俺だけだ」 「…へえ?何処にそんな証拠がある訳?」 「お前は俺以外の気配を感じるとでも?」 ――リトの言葉は真意だ。思わず唇をかみ締めた。 確かに目の前の男と自分以外、人影は見えないし気配も感じない。…信じていいのだろうか?? 色々考えて少し躊躇ったが――結局は剣を握るのを止めた。 *NO,46...奈落* 多分この男の言っている事は本当だ。あの見るからに戦闘狂っぽいキースがこんなに巧く気配を隠しきるとは考えられないし、ノエルだって物陰に 隠れて何時までもじっとしてる程優しくないと思う。 それにはじめから自分を袋叩きにするのならこんな回りくどいやり方をするより3人で一気に襲い掛かった方が効率が良いに決まっている。つまり この場にノエルとキースが居ないのは本当なのだ。悪魔で推測だけれど。 「で、何?聞きたい事って。あたし街で仲間が待ってるから早く帰らないと行けないんだけど」 腰に手を当ててリトに問い掛ける。すると少しだけ目を細めたリトが、言葉を投げてきた。 「一つだけで良い。答えてくれ」 一つ。その一つはどんな問いなのだろうか。 何故BLACK SHINEに盾つくのか?それとも何故cross*unionを脱退したか。とか?? 質問を待っていると、暫く沈黙していたリトが漸く口を開く。 「お前は何故、俺が―――」 ――その言葉を最後まで聞く前に、体に寒気が来た。 先程まで人の気配は無かったが、今ははっきりと感じる。殺気に混じった人の気配。この気配は恐らく――。 「…来たみたいよ?」 「……」 イヴの問いにリトは答える事なく、彼女の隣に歩み寄る。 目の前に現れた紫色のセミロングの女――ノエルが少しだけ眉間に皺を寄せながらも、笑った。 「何してるの?貴方達?」 ……何してる、って。もしかしてノエルはリトが自分に話を持ち掛けたことを知らないのか?? という事は今の問いは彼個人の質問で、独断で判断した事?? 何故キースやノエルには聞かなかったのだろう。あたし達じゃないと分からない事なのだろうか。ますます訳が分からなくなってきた。 とりあえずノエルはリトがどうして自分と話していたかがさっぱり分かっていないようだ。それだけは確信できる。 「さあね?」 とぼける様にノエルの言葉に返すと、彼女の口元から笑顔が消える。 「リト、何を話してた?」 「……特に何も」 「…あっそう」 諦めたのか何なのか。ノエルはそれきり不機嫌な顔をして何も聞かなくなった。 それから何かを思い出した様に此方をじっと見つめて来る。…やっぱりこのまま唯では返してもらえないのか?? 何時でも剣が抜ける様少しずつ剣に手を近づける。 剣の柄を丁度握った頃、此方に向かって妖魔の笑みを向けながらノエルが問い掛けてきた。 「貴方は此処で油売ってて良いの?」 「…は??」 その言葉の意味が分からなかった。 此処で油を売ってて良いのかって…。何で敵に心配をされなくては行けないんだ。さっぱり意味が分からない。 「ちょっと、それってどういう――…」 どういう意味か、深く追求する前にリトとノエルの姿は風の様に消えて行った。恐らく魔術の一種なのだろう。 …結局リトからの問いも、ノエルのあの謎の言葉も分からず終いだ。戦闘にならなかっただけ不幸中幸いと言えるか。 今度からは簡単な依頼だろうとちゃんとマロン達も連れて行こうと今改めて決意した。 そして――気づく。 ノエルの言葉の意味に。 「まさか――マロン達っ?!」 嫌な予感が一気に胸の中に溢れて来る。まさか4人に何か合ったのか…?だからノエルはあんな言葉を残したのだろうか。 とにかく急いで街に帰った方が良さそうだ。イヴは森の中を全速力で走り出した。 * * * 暫く街の中を走り続け、やがて漸く鉱山前まで辿り着いた。 鉱山は何時もの様に人で賑わっているが――何やら様子が可笑しい。 ロアが近くの工業関係の人間を捕まえて問い掛けた。 「何か合ったのか?」 「――鉱山内で土砂崩れが起きたんだ。最近多いらしくてね、本当困ったもんだよ」 そう言って男は鉱山の中へと消えていく。…やっぱりマロンとアシュリーが聞いた音は空耳では無かったのだ。 「何か相当ヤバい事になってるっぽいね」 レインが辺りを見回しながら呟く。…確かに、周りには担架で運ばれる人や怪我人が溢れていた。相当大きな土砂崩れだったのだろう。 これは自分達も手伝った方が良いんじゃないだろうか? 問いかけようとすると、既にマロンが動き始めていた。傷を負った人達の所を回って治癒術で傷を癒している。 「ロアが言葉を投げる前に行っちゃったわよ?彼女」 「…みたいだな。ま、俺達も手伝おうぜ」 とりあえず近くの人に手伝える事が無いか聞いてみる。レインとアシュリーも既に行動を始めていた。 恐らく此処まで大きな事故になっているのだから、今頃街全体に広がっているはずだ。 イヴも恐らく騒ぎを聞きつけて直ぐに此処へ来てくれるだろう。というかそう信じるしかない。 確かに少し横暴だったりする所はあるがいざとなった時は頭の切れる奴だし、まず大丈夫だろう。 とりあえず怪我人を運ぶのを手伝おうと思い踵を返した所で――。 「おわっ――?!」 急に背後から誰かにのしかかられた。というか、倒れて来た? 振り返り、倒れてくる体を支える。 ――其処で初めて気付いた。 「――リネ??」 倒れて来たのは間違いない、赤髪の短髪で――数週間前にセルシアと一緒に船で本部に帰った筈のリネだった。 見ると彼女も傷が酷い。だが鉱山の中に入っていた訳では無さそうだし――どういう事だろうか?? 「あんた達…まだ……無事、ね?」 掠れた声で彼女がそう問い掛けてくる。 ‘まだ’無事とはどういう意味なのだろうか??それを問い掛けようと思ったが今は傷の回復が先だろう。 彼女の体を抱き上げて、マロンの方まで連れて行った。 マロンが一瞬驚いた顔をする。 「リネっ?!」 「事情はまだ分からない。とりあえず傷が酷いから手当てしてやってくれないか??」 「…うん、分かった」 マロンはその言葉に頷き、彼女の体に回復術を当てる。 とりあえずマロンに任せておけばリネも安心な筈だ。 けれどどうして行き成り自分達の前に現れたのだろう?というか、セルシアとは一緒じゃないのか?? 辺りを見回したがセルシアらしい姿は見えない。という事は彼女は一人で此処まで来たのだろうか。 それにしたって謎だらけである。 鉱山に入っていた訳じゃないのに、何故彼女はあんなに傷ついていたのだろうか? 一番考えられる確率は‘誰かに襲われた’だが――誰に?? BLACK SHINEに追われて居るのは自分とイヴ、それからマロンとレインだけの筈だ。彼等の言う‘計画’の邪魔をしたのはクライステリア・第一神 殿に入った自分達4人しか居ない。いや…それともラグレライト洞窟でリネが攻撃しかたら向こうもリネの事を‘邪魔者’と判断したのか?? 唯モンスターとは考えにくいだろう。リネぐらいの大した魔術士だったら、モンスターぐらい楽に倒せる筈だ。 だとすると山賊か何か?? …いや。でも、リネが負けるとは思えない。第一山賊とかだったら彼女を人質にして更にお金を巻き上げようとか、そういう悪質な事をするんじゃな いだろうか。だとすると彼女の傷は一体?? 暫くはその場で呆然としていたが悩んでいても仕方が無い。とりあえず動かなくては。 リネの事は後で考えるとして、近くに居る怪我人を運ぶ作業を手伝う事にした――。 BACK MAIN NEXT |