数日間は討伐やら何やらの仕事を受け続け、登録所から仕事が回ってこなくなってもそこそこ依頼は確保する事が出来た。
地道な作業ではあるがこのまま続けていけば少しは有名なunionにでもなれるんじゃないだろうか。
そんな事を思いつつ次の依頼主から依頼内容を預かり、家を後にする。
「次の依頼は?」
此方を見ながら問いかけるロアに、依頼内容の紙を持ったイヴが答えた。
「隣町から薬を貰ってくる事。体弱くて隣町まで行けないんだって」


*NO,45...来訪者*


「超楽勝じゃねえか」
「…まあ、ね」
レインの言葉にそれとなくイヴが頷く。
――彼に関しては数日前から気まずいというか何というか…。とりあえず一線置いた微妙な関係になっていた。
武器屋に行って新しい槍を買っていた辺り、もう壊れた槍については気にしていない様だが…。逆にこっちが気になってしまう。
本当にあの槍についてはもう良いのだろうか。もし本当に大事なものだったなら……。

「やーね、イヴっち。何時までそんな暗い顔してんのよ」
そんなイヴの気を察してか何なのか。レインがそう言って無理に絡んできた。…時々コイツは妙に鋭い。
「…別に、そんな顔してないし」
言い返すとレインが苦笑気味に話し掛けてくる。
「数週間前に折れたアレだけどね。俺ホントにもう気にしてないし、放置で良いよ?」
「……」
図星だったので返答に困った。
だが黙り込んでいるのをまだ拗ねていると勘違いしたのか、レインが更に顔を引きつらせて続ける。
「イヴっちが元気無いと何か気持ち悪い」
「――死ね。この馬鹿レイン」
ムカついたから足の脛辺りを思いきり蹴った。
何日もこいつを心配していたあたしが馬鹿だったかもしれない。
少しは落ち込んでるのかと思ったらコイツ自身は全く元気だ。それこそ本当に意味が分からない位に。
多分今の言葉は自分を元気づける為だったんだろうが、元気づけるのと行き過ぎた冗談位は区別してほしい。
何時もの様に足を抱えながら廻りを飛び跳ねるレインは無視して、街の十字路で一旦イヴが足を止めた。

「とにかく――この程度の依頼ならあたし一人で行けるから、今の内に他の依頼探しといて」
「一人で大丈夫なの?」
イヴの言葉にアシュリーが不安気味に問いかけて来た。
その上からレインが更に嫌味を重ねてくる。
「会った時みたいに迷ったりしなーい??」
「…魔弾球でやられるのと、剣で刺されるの、どっちが良い?レイン」
「すいませんでした」
不気味に微笑み返すと、完全に怯えきったレインが後ずさりながら呟く。
そんな彼に溜息を吐きながら、一番頼りになるマロンの方を向いた。
「でも本当に平気なの?いくら隣町までって言っても何が有るか分からないし…」
「平気平気。たかが隣町に危険なモンスターが住んでるとも思えないし、いざとなったら逃げれば良いしね」
道に迷わなければだけど。…心の中で小さく付け足す。

そんな訳でマロン達を無理矢理説得させ、一人で森に向って歩き出した。
別に何か理由が合って誰も連れて来なかった訳じゃない。唯気分的に一人になりたい気分だったから一人で良いやと思っただけだ。
多分次の依頼はマロン達が探しておいてくれる筈だから…。とりあえず先にこっちの薬を届ける事から終わらせなくては。
森に足を踏み入れた時、少しだけ懐かしい物を感じながらイヴは森の中を歩き続けた。


* * *


「イヴっち、結局一人で行っちゃったねー」
彼女の姿が見えなくなった頃に、レインがぽつりと呟く声を上げる。
「ま、今は一人になりたいんだろ。特に難しい依頼じゃないし、ほっとけば帰ってくるって」
そんな彼にロアが言葉を続ける。…それは幾らなんでもアバウト過ぎなんじゃ??レインがそう思いつつアシュリー達の方を見ると、彼女達もどう
やらそう思っている様だった。

「でも本当に良いの?」
巧く話しを逸らしたアシュリーが、レインに向かって問いかける。
「何が?」
「――槍。大切な物だったんじゃないの?」
「あー…あれね。うん。結構大事だったけどー……」
そう言ってレインがやや困った顔をして視線から斜め上の虚空を見上げる。
やっぱり彼は少しでも気にしていた様だ。数日前に受けた依頼の中で折れてしまった槍の事。
そんな中でレインは苦笑気味な顔を浮かべたまま、言葉を続ける。
「ま、今の俺にはもう必要ねーものだったから」
「……?」
その言葉に少し不審を覚えた。今のレインには必要ない物??
問い掛けようとしたがそれ以上の質問は受け付けないと言わんばかりにレインがふらふらと街に向かって歩き出す。


「とりあえずイヴっちが戻ってくるまで、大人しく依頼探しでもしよーぜ」
「……」
その言葉にアシュリーが小さくため息を吐き、それからゆっくりと歩き出す。それをマロンとロアも追いかけた。
「巧い事話逸らされたな」
無表情でレインの背中を見つめるアシュリーに、苦笑を浮かべたロアが問い掛ける。
彼女はその言葉に黒髪を靡かせながらぽつりと呟いた。
「…言いたくない事を追求する気は無いけどね」
「……あいつって時々意味わかんない所あるよな」
「ミステリアス何じゃない?」
「……あれが?」
思わずレインの方を指差してしまう。そして指差した事により自分の事を話されているのだと気づいたレインが振り向きながら苦笑した。
「その内話すって。とりあえず今は説明すると長くなるから、今度な」
そう言って再びレインが前を向いて歩き出す。
どうやら何時か説明をしてくれる気はあるようだ。――何時になるかは微妙な所だが。

そんな中レインの少し後ろを歩いていたマロンが、一瞬足を止める。
それから完全に歩みを止めて――辺りを見回した。

「どうした?マロン」
ロアが問い掛けると、彼女は少しだけ眉間に皺を寄せながら答える。
「今――何かが崩れる音が聞こえた」
「…崩れる音?」
その言葉にアシュリーが2人の傍に近寄った。
「それ、私も聞こえた」
…アシュリーにも聞こえていたという事は空耳じゃないのかもしれない。
レインもその場に近寄ってきて、辺りを見回し始める。

「この辺りで洞窟とか鉱山とか無い?」
そんな中アシュリーの問いに、ロアとマロンが顔を見合わせ少し頭をひねる。
2人は暫く街の中を想像していたが、数秒経った頃に同時にあっ!声を上げた。
「街の奥に、一つ鉱山が在る!」
「割と大きかったと思う――」
「……そう」
その言葉を聞いたアシュリーが、一瞬レインと目を合わせ――それから2人同時に走り出す。
一歩出遅れロアとマロンも2人を追いかけ走り出した。…ていうか2人共足速くないか??
マロンを気にしながら2人を追い掛け走り続ける。
時々道を聞かれ右か左か、又は前の道かを聞かれ、頭を捻りながら的確に答える。走っている間は方向を示す言葉以外は特に発しなかった。
森の入り口から鉱山の方まではほぼ反対方向だ。
もしマロンとアシュリーの聞いた‘崩れるような音’が本当なら――鉱山が崩れたのか??
でもアシュリーはウルフドール族だからともかく…マロンにも聞こえるのだろうか??
マロンや自分みたいな人間が聞こえる位大きな崩れるような音だったのなら…相当大きな土砂崩れになる。
……何でイヴが居ない時に限ってこんな事になるんだか。
早く戻って来い、と心の中で小さく呟いた。


* * *


――無事に隣町の調合師から指定された薬を受け取る事が出来、調合師にお礼を言いながら街を出た。
とりあえずこの薬を依頼人に渡せば依頼は終了だ。何か本当に呆気ない依頼だったな。そんな事を思いながら着た道を同じように引き返す。
ロア達、ちゃんと次の任務探してるでしょうね。
途中そんな事が心配になったがまあ彼等なら探し出してくれるだろう。
レインとロアだけを取り残していくんじゃ心配だけど、アシュリーとマロンも居たのだから間違っても話が変な方向には進んでいない筈。
ポケットに入れた薬を何度も確認しながらそんな事を考え続ける。
やがて森の中心部分に差し掛かったところで――。

「……」

――気配を感じた。
モンスター?……違う。もっと人に近い気配。でも殺気はない。…此方に攻撃を仕掛けてくる気は無いのだろうか??
本当なら無視しておいた方が良いのだが――どうしても視線が気になるので一度後ろを振り返った。
もちろん其処には誰も居ない。大抵は何処かの茂みから此方の様子を伺っているのだ。それが獣なのか山賊なのかは分からないが。
「其処に居るのは分かってるんだし、出てきたらどう?」
とりあえず挑発してみる。モンスターなら直ぐに飛び出てくると思うのだが――。飛び出してくる気配は無かった。寧ろ気配が消えた??
一体何だったのだろうか。溜め息を吐いて踵を返すと―――。



「…あんた」

「……」

踵を返すと、先程まで居なかった筈の人影が合った。
リネと同じ――赤色の髪をした無表情な男。
BLACK SHINE幹部。――リト・アーテルム!

警戒が爆発して、剣に手を掛けた。
「何の用?それとも、あたしが一人な所を狙って集団リンチ??」
リトが居るならきっと何処かにノエルかキースも居る。周りを警戒しつつ男に問い掛ける。
だが目の前の男以外、気配は伺えなかった。しかも男の口からは意外な言葉が飛び出す。
「今日はお前と争いに来たのではない。――聞きたい事が在るだけだ」
「…聞きたい、事?」
少しだけ剣を持つ手を緩めた。だがまだ油断は出来ない。もしかしたら今この瞬間も、ノエルやキースが自分を狙っているのかもしれない。
返答次第では殺されるという事か??

何にせよ警戒を解く訳には行かないのだ。
暫くはその場を蛇睨み状態で動く事が出来なかった―――。










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