初めての任務は半分以上レインの手柄となってしまったので、次は彼に任せきりを止めなくては。
翌日。イヴ達はそんな事を考えながら登録所に再びやってきた。――沢山の依頼が書かれている紙を受付から受け取り、再び依頼に目を通して
いく。もう書き写し系は止めよう。どうせなら戦う方が良い。
そう思っているとある依頼が目に入った。
遠くのunionから協力要請の依頼で、近隣の森に居る大型モンスター数体の討伐を手伝うという物。…コレならいけるかも。
「次の依頼、これで良い?」
後ろに居る彼等に問い掛けると4人が4人賛成の声を上げた。


*NO,44...深淵の闇*


依頼詳細用紙に判子を押してもらい、登録所を飛び出す。そして早速モンスターを討伐するべく森に向かって歩き出した。
他のunionからの協力要請の場合は連絡は任意で良いのだ。そして報酬は登録所から支払われるという事になっている。
依頼人に会うという手間の省ける、ある意味楽な仕事だ。
「大型モンスター数体の討伐なら楽勝だな」
街を歩く中でロアが話し掛けて来る。その言葉にイヴが笑顔で返した。
「そうー?何か疲れそうじゃん」
だがロアの隣を歩くレインが面倒そうに呟く。
ならお前は一生文書の書き写しでもしてろ。心の中で悪態を吐きながらレインを睨んだ。
「イヴっち、目が怖い怖い」
「口は災いの元って知ってる??レイン」
彼女はにっこりと、先程とは違った影のある笑顔で微笑んで拳でレインの腹辺りを殴る。突き出した拳はあっさりと溝に入ったのでレインが痛そうに
その場を飛び跳ねた。
そんな彼をマロンが苦笑で見つめている。アシュリーの方は相変わらず無表情だ。
レインについては構っても鬱陶しいだけなので無視して歩き続けた。
ロアが苦笑気味に話し掛けて来る。
「ほっといて良いのか?」
「良いわよ。あんなバカ、ムカつくだけだし」
澄ました顔で回答すると、余計にロアが苦笑する。

そんなやりとりを続けている内に、やがて森へと辿り着いた。
木漏れ日を感じながら森の中へ慎重に歩き出す。
依頼詳細用紙に書いてあったのだが、相手はかなりすばしっこい上に長い爪と鋭い牙で攻撃してくるらしい。
というかなりやっかいな敵らしいので最大の注意が必要だ。行き成り集団で奇襲とかされたら笑い話じゃ済まされない。
ふと耳を済ませると右から物音が聞こえ、思わず剣を構えた。
そんなイヴにつられてロアとレインが一歩遅れ武器を構える。
――だが唯単に風で草木が揺れただけらしく、特に何かが出てくる気配は無い。
「…驚かせんなよ、イヴ」
「ちょっと勘違いしただけよ」
安堵の顔で双剣を鞘に戻すロアに、イヴが膨れ面で答える。
だがレインだけは槍を下ろさなかった。そしてアシュリーも何処か身構えているように見える。
「アシュリー?」
「…静かに」
マロンが彼女を呼ぶが、応答は静寂を促す言葉だった。
とりあえず無言になって、もう一度耳を澄ませてみる。

――その瞬間、何かが目の前の草木から飛び出してきた。
その前にレインが飛び出し、槍で‘何か’を押さえつける。

「ほらっ、来たぜ!!」
槍に食いついてきた何かを地面に叩きつけながら、レインが苦笑した。
彼が今地面にたたきつけた物を確認する。――其処には少し大きな狼の様なモンスターが体を痙攣させていた。
これが依頼に合った数体のモンスターの一匹だろうか??
ふとそんな疑問が過ぎったが既にアシュリーやロアに同じ様な狼に似たモンスターが飛び掛っている事からして依頼のモンスターはこれで間違い
ないと確信する。
こちらに再び走ってくる狼に向け、ポケットから出した魔弾球を投げ付けた。一瞬向こうの動きが止まった隙に剣を振るい胴体を切りつける。
とりあえずマロンの傍で闘う事にした。彼女は後衛型だから守る人間が必要だ。
マロンが詠唱している間に、彼女に飛びかかろうとする狼を剣で薙ぎ払う。…だが向こうは思ったよりもすばやく攻撃が外れてしまう事も合った。

「そっちは平気か??」
遠くから双剣を振るいながらロアが問い掛けてくる。肯定の返事を叫びながら再度剣を振り下ろした。
2匹か3匹はもう倒したと思うのだが、それでもモンスターは増え続ける。…これ、群れって言うか寧ろ大量発生?!
そんな中でマロンが此方に視線を送ってくる。詠唱が完成したのだろう。咄嗟にその場を離れた。
「断罪を断ちし赤の女王――。レソビューション」
言霊を紡いだと同時に、敵に向かって光の槍が降り注ぐ。
3,4匹はまとめて死んだ筈だ。心の中でマロンにお礼を呟きながら、別の狼の群れに切りかかった。
無論向こうだって無反応な訳じゃない。早足で此方へ牙を向けてくる。
爪の攻撃を剣で防ぎ、その横からやってきたロアが双剣で敵を切り裂いた。狼は後ろに倒れこみ、体を痙攣させている。
だが安心してはしていられない。直ぐに別の方向から別の狼が襲い掛かってくる。
レインが前に立ちそれをアッパーで蹴り飛ばした。上手く蹴りが当たった様で、後ろに狼が引き下がる。
「――Destruction」
マロンの直ぐ後ろ。詠唱を唱えていたアシュリーが大きな群れに向けて術を放つ。
発動されたウルフドール族専属魔術が敵の体を切り裂き滅殺した。…毎回良く思うのだが彼女の魔術の威力は凄いと思う。
半壊した狼の群れは恐れをなしたのか尻尾を巻いて逃げ出してしまった。
追いかけても意味が無い事は分かってるし、向こうの方がすばしっこいので直ぐ見失ってしまったのでこれ以上の戦闘は諦めた。
剣を終い、仲間の方を振り返る。


「楽勝だったわね。今回の依頼」
そう言ってロア達に笑いかけるが――何故かロアが引きつった顔を浮かべていた。
アシュリーとマロンが呆然とした顔を浮かべている。何か合ったのだろうか?
「どうかした?」
問い掛けると、レインが驚愕した顔で此方を指差してくる。
「い、イヴっち……後ろ……」
「は?後ろ??」
レインに言われ、後ろを振り返った。
そしてその瞬間――自分でも判るくらい、みるみる内に顔が真っ青に染まる。

目の前には先程撤退して言った筈の狼の群れと――群れの中に、一際大きな狼が一匹。此方を唸りながら激しく威嚇していた。
慌てて剣を抜き直す。…まさかボスが出てくる何て思わなかった。
イヴが剣を抜いたと同時にボスとその群れが此方に向かって飛び掛ってくる。
ロアとレインが前に出て、ボスの攻撃を上手くブロックした。その隙に剣をしっかりと握って、周りの狼を剣で蹴散らす。
後ろでマロンが弓を引いてボスに向け打ち放つ。だがボスはそれを軽々とかわした。
「――Insanity」
そして再度アシュリーがボスに向けて術を打ち放つが、ボスはそれを相変わらずの身のこなしでかわし、此方に向けて突進してくる。
イヴとレインは左に避ける事が出来たがロアは右に群れが居るので避ける事が出来なかった。右腕に爪が当たり、血が滲み出す。
一旦彼が後ろに下がるのを見届けてから、レインと共にもう一度前に走り出す。
レインが槍で周りの狼を蹴散らしている間にボスに向かってイヴが切りかかった。だがイヴの剣を舞う様にかわしたボスが、此方に向けて大きな口
を開き喰らいついてくる。
「無限の力を与える破邪の煌き、聖なる力は敵を裁断する――ベリーティラート!」
それをマロンが上手く術で防いでくれた。ボスの目の前で光の弾がはじけ、そして敵に襲い掛かる。
軽症だが傷を負ったらしく大型の狼は後ろに引き下がり此方を低い声で威嚇した。
どうにか一撃は食らわせる事が出来たがまだ向こうは元気だ。そして狼の群れも徐々に増えてきている。


「――どうする?」
レインが此方まで寄って来た。彼の問いにその場で考え込む。
とりあえずボスをどうにかするのが先なのは分かっているのだが、どうやってボスを倒そうか。
――普通に切りかかってもかわされるだけなので、マロンかアシュリーに術を使って倒してもらう方が良いだろう。
アシュリーとマロンの方を振り返った。
マロンはロアの治療をしているみたいなので術は使えそうに無いが、アシュリーの方は目を合わせ少しだけ頷くと、小さく詠唱を紡ぎだす。
「ボスは術で倒す。あたし達はボスを食い止めながら回りのカバー。OK?」
レインに小声で問い掛けると、彼が笑顔で頷く。…よし。とりあえずこれで行こう。
男より少し早く走り出す。今度は自分が回りの狼を抑えるのに回った。その隙にレインが横をすり抜けボスに槍を振り下ろす。
だがボスがすかさずレインの槍に噛み付いた。
まるで骨が折れるかの様な痛快な音が一瞬響き、直後、レインの持っていた槍が真っ二つに折られる。
「うをっ…?!」
苦笑を浮かべるレインが一旦後ろに下がり、折れた槍を見て苦笑した。
「使え!」
そんな彼に向けまだ治療中で動けないロアが、レインに向けて一本の鞘に入った剣を投る。それを受け取ったレインが親指を立てて笑った。
「どーも!!」
2つになった槍を捨て、レインが剣を引き抜く。
そしてロアに鞘だけを投げ付け再びボスに切りかかった。今度は足元を狙って大きく剣を振り下ろす。
一瞬の隙を突いたらしく反応に遅れたボスの足に、剣が掠めた。掠めただけだったがこれで行動速度は遅くなる筈だ。
数体の狼をなぎ倒した所でイヴが一旦後ろに引き下がる。それを見てレインもまた後ろに引き下がった。
「――Drop」
直後。アシュリーが呟いた言霊が光となりボスに降りかかる。
足を傷付けられた事により行動の遅くなったボスが彼女の速攻魔術を逃げ切れる筈も無く、攻撃を喰らったボスがあっさりと倒れこんだ。
其処にイヴと、回復したロアが剣を持って左右から切りかかる。
胴体と足を切りつけた事により巨大な狼が悲鳴の様な低い声を上げた。
攻撃を加えてから直ぐに後ろに引き下がる。
…どうにか倒せた様だ。ぴくぴくと痙攣したまま動かないボスを見て、今度こそ恐れをなした周りの狼は森の奥へ逃げ帰ってしまった。



「…今度こそ倒した、か?」
「……多分ね」
ロアの言葉に頷いたイヴが、剣を鞘に終う。何とか倒せた。
レインが近付いてきてロアに受け取った剣を返した。それを受け取ったロアが剣を鞘に終う。
マロンとアシュリーが此方に近付いてくるのとは反対に、レインはふらふらと後ろに行って折れた槍を拾い上げた。
「あーあ、これ結構大事にしてたんだけどなぁ」
苦笑しながらレインが小さく呟く。
「その位なら、武器屋とかで売ってんじゃないの?」
がっくりと肩を落とすレインに、イヴがそう言葉を投げた。
その言葉にレインが一瞬此方を振り向き、何処か悲しそうな瞳をしたが――瞬きをする間に表情は戻っていた。

「…それもそーね」
そう言って笑ったレインが再び目線を落とし、壊れた槍をじっと見つめる。……もしかして今結構マズい事言った…?
ロアの方を振り向くと、彼は苦笑していた。


「…今のはちょっと無神経だぞ」
「……やっぱり?」
ロアの言葉にイヴが苦い顔をする。
それから槍を見つめたまま動かないレインの傍に寄って、同じ様に壊れた槍を見た。
特に偏見の無い普通の槍だが…彼にとっては大事な物だったのだろう。

「…ごめん、流石に今のは無神経過ぎた」
眉間に皺を寄せている彼に謝るとレインが慌てて顔を上げ、それから笑顔で笑う。
「へーきへーき。俺気にして無いから」
そう言ってレインは槍を鞄に終うと、さっさとその場を一人で歩き出してしまった。
…捨てていかないって事はやっぱり大事な物だった様だ。
一瞬ロア達の方を振り返ると、彼等は苦笑したままイヴを見つめている。
全員が全員、さっきの発言は無神経すぎると思ったのだろう。あたしだって今反省してるわよ。心の中で毒舌を巻きながらレインを追いかけ歩き出
した。










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