リネとセルシアが発った翌日。とりあえず5人で登録所に行き仕事を確認した。 新規unionは作ってから1週間は登録所が自動的に仕事を回してくれるのだ。1週間経ったら自分達で仕事を探さないといけないが。 登録所で回ってきた数件の仕事を確認する。 「簡単な物からやっとく?」 4人に問い掛けると、ロアが微妙に首を傾げたが他3人は肯定の返事を返したのでとりあえず楽な仕事から消化する事にした。 *NO,43...a start new life* 「簡単そうな仕事は…。これ?」 独り言を呟くイヴが回された仕事の詳細が掛かれた用紙の一枚を抜き出し、4人に見せる。 そこに書かれていたタイトルは、‘巨大モンスター退治’だった。 「それの何処が簡単そうなのよ、イヴっち」 そんな彼女にレインが苦笑しながら問い掛ける。彼の言葉にイヴが首をかしげた。 「だって倒すだけよ?簡単じゃない」 「イヴっち見たいに体動かすのが向いてる人は良いけどぉ、俺とかマロンちゃんとかそういうの向いて無いし」 「あんたの何処が戦闘不向きなのよ。冗談も程ほどにしなさい」 レインの言葉にイヴが彼の頭を束になった用紙で殴りつけた。レインが痛そうに頭を摩る。 こういう時、リネが居ると多分追い討ちでもう一発蹴るか何かするんだろうな。此処には居ない彼女の事を考えて少しだけくすりと笑った。 2人がそれぞれのunionに帰って一晩が経過したが、2人は無事にunionに辿り着けただろうか。今度それぞれのunionに連絡でも入れてみよう。 そんな事を思いながら、別の仕事依頼を取り出す。 「じゃあこれは?泥棒から盗まれたネックレスと取り返す仕事」 「もっと難易度上がってる気がする…」 先程から登録所を見回していたアシュリーが、そう言って俯いた。眠たいのか時々欠伸を浮かべている。 そんな彼女の言葉にマロンも苦笑で頷いた。結構簡単だと思うんだけどと思いつつ、ネックレス探しの依頼詳細用紙を捲り次の依頼仕事を見る。 「ああ。これ簡単そうじゃない。本の複製だって」 イヴがそう言って再び4人に依頼詳細用紙を見せた。 依頼内容は簡単。本の内容を紙に写し取るだけ。これ絶対簡単だって。 「あー、それ良いんじゃない?簡単っぽそう」 その言葉にレインが賛成の言葉を上げた。 「まあ初仕事はそんなもんで良いんじゃないか?」 レインの言葉に便上してロアが頷く。 「…私もそれで良いよ」 「……うん」 遅れてマロンとアシュリーが肯定の返事を返した。じゃあ初任務はこれで決定。 登録所の受付に座って居る役員に、受ける依頼の詳細用紙を手渡した。其れを受け取った役員が紙に判子を押し、それから依頼人の住所と電話 番号を書いた紙を渡してくる。 それを受け取って一度登録所を出た。 開設して1週間以内にこうやって登録所から回される仕事は同じ街に住んでいる人からの依頼の場合が多く、紙に書かれている住所はこの近くの 家だった。 「じゃ、依頼人に会って来ましょ」 住所が書かれた紙と判子の押された依頼詳細用紙を持ちながら彼等の方を振り返りつつ言葉を投げる。 「近いのか?」 レインの問いに笑顔で頷いた。住所を見る限りだと此処からなら3分かそれくらいで着く距離だ。 「じゃあ行っといた方が良いな。行こうぜ」 ロアの言葉に頷いて、住所を見ながら依頼人の家を目指す。 地図とかも一緒に手渡してくれると嬉しいのだが、登録所はそこまで面倒を見てくれないので仕方なく自力で依頼人の家を探した。 街道を進み続け、やがて住宅地に差し掛かる。 「あそこじゃない?」 マロンの言葉に彼女が指差した家を見上げた。 それから住所を見合わせる。…確かに多分此処だ。 用紙と住所をロアに預け、とりあえず家のインターホンを押す。…合ってます様に。 「どちら様ですか?」 やがてインターホンから若い女の人の声が聞こえた。少しだけどきどきしながら問い掛ける。 「union‘WISH*UNION’です。依頼を見て来たのですが」 「……ああ!そういう事ね。ちょっと待ってて」 そう言ってインターホンが途切れた。反応からしてこの家で間違いないようだ。ちょっと安心した。 暫く家の前で待っていると、やがて扉が開かれ成人した女性が手に本を持って走り寄ってくる。 「写して欲しい本はコレです。3日以内にお願いして良いですか?」 「分かりました。写し次第届けに来ます」 「じゃあ報酬はその時に渡すわね。宜しく」 本を受け取り、依頼人と別れを告げる。 受け取った本を確認するがそんなに分厚い本ではなかった。コレなら3日も掛からないんじゃないか?と思ったのも束の間。 本を開いた瞬間に頭が痛くなった。そりゃ本の写しを依頼に回したくなるわ。 ページ数は薄い物の、その文だけ1ページにびっしりと文字が並んでいる。1ページに何行詰め込んでるんだ?とりあえず字だらけだった。 「おいおい…。そんな本写すのか??」 横から本を覗き込んだロアが苦笑交じりに問い掛けてくる。 「何よ。この依頼が簡単そうって言ったのはそっちでしょ?」 嫌味ったらしくロアにそう告げると、彼が苦笑したまま黙り込んだ。 そんな2人のやり取りを聞いていたのか前を歩いていたアシュリーとマロン、レインもまた本を覗き込んでくる。 「…字だらけだね」 即興な感想をマロンが述べた。その言葉にアシュリーが眉間に皺を寄せながら頷く。 しかもこの本。後半からは別の言語で書かれていた。知らない言語で書かれているので上手く写せる自信が無い。 こういう時、リネが居てくれたらなあとちょっとだけ彼女に助けを求めてしまった。 だが直ぐにその考えを打ち切る。自分達で頑張るって決めたんだ。何時までもリネやセルシアに頼る訳には行かない。 そんな中でレインが手から本を奪いとってきた。それから後半部分の意味の分からない文字を見ながら彼が小さく呟く。 「これはー…ヴィラット文字?」 「あんた分かるの?」 ちょっと意外だった。バカでも古代の文字は知ってるのか何て思ってしまう。 「イヴっち今酷い事考えたでしょ。…ま、俺この文字なら読めるぜ」 「じゃあその……ヴィラッチ文字だっけ?それはレインが写してよ」 「別に良いけど、…ヴィラッチじゃなくてヴィラットな?」 苦笑混じりにレインが言ってきた。その言葉に何かムカついたのでレインの足の脛辺りを思い切り足で蹴る。彼が痛そうにその場を飛び跳ねた。そ してその隙に本を奪い返す。 そんなこんなでマロンの家に戻って来ると、とりあえず家にあるレポート用紙に最初から言葉を写し始めることにした。 最初の3ページぐらいはかろうじでやっていけたのだが4ページ目で手が痛み始めた。ずっと字を書いているので疲れる。 という訳で早くもロアにバトンタッチして、近くのソファーで手を休めることにした。 だがロアも6ページ書いた所で席を立ち上がり、アシュリーと字を書くのを交代する。 やっぱりこんな膨大な字を3日で写し取るなんて無理なんじゃ…?そんな事を思ってしまった。 だが初任務から失敗なんてそんな笑えない冗談は許されない。 それに簡単な依頼には裏があると、少しでも疑わなかった自分達も悪いので3日で何とか本を写し取るしか無いのだ。 アシュリーが5ページ書いた所で席を立ち上がった。…よくそんなに書けるなと有る意味感心してしまう。 そんな訳で15ページ目の文字をマロンが書き写し始めた。 14歳か15歳ぐらいの頃に治癒術をレポート用紙に書いて独学で覚えていた彼女だから、こういう写し取りには慣れているのか平気で7〜8ページ を書き上げてしまう。 そんな彼女も25ページ目を書き写した所で手が止まった。 「ちょ、ちょっと休憩します…」 手の先をバタつかせながらマロンが席を立ち上がる。 レインには後半のヴィラット文字を全部写し取ってもらうつもりなので、彼に順番は回さず再びイヴが席に着いた。 少しはマロンを見習わなくてはと5ページを写し取るのを目標に字を写し続けるが、3ページ書き終えたところでやっぱり手が止まってしまう。 「…無理、交代」 そう言ってロアとバトンタッチした。やっぱり無理なものは無理だ。自分は何かを書くより身体を動かすほうが向いてるっぽい。 「お前もうちょっと頑張れよ」 そんなイヴに苦笑したロアが席に座り、文字を写し始める。 「しょうがないじゃない、性に合って無いんだから」 ムカついたからロアの頭を殴った。その所為で彼の字がずれてレポート用紙に鉛筆で濃い線が惹かれてしまう。 「おま…何するんだよ!!」 「…あは」 半分写した所だったのでいらだった顔のロアが彼女に叫んだ。 笑って誤魔化すと、ロアが溜息を付いて線が引かれたレポート用紙をゴミ箱に捨てる。 何かもう、文字を見ているのも嫌になって来た。 皆の元気が落ちて行く中で、レインだけが元気に鼻歌を歌っている。くそう。後で泣き言言っても助けてやらないからな。 ロアが5ページを写し取ったところで席を立ち上がりアシュリーと交代した。 彼女が席に座り、黙々と文字を写し取り始める。が、やっぱり疲れがたまっているので6ページで手が止まってしまった。 「…マロン。交代して良い?」 「うん。良いよ」 アシュリーが席を立ち上がり、その席にマロンが腰を下ろす。 そして彼女が細かく字を写し始めた。やっぱりマロンは凄い。6〜7ページを余裕で写し取り、8ページ目もすらすらと書き上げる。 そんな彼女の手が止まったのは11ページ目を書き終えた所だった。 「うーん…。ちょっと手痛いから、イヴ。交代して良い?」 「OK」 今度こそ5ページを目標にと思って文字を書き始めてみたが、段々腕に疲労がたまってくるので2ページを書き取るのが限界だった。 というか既にロアとアシュリーも文字を見るのが嫌そうな顔をしている。かろうじでマロンがまだ書き写せそうだったがさっき休憩を始めたばっかり の彼女にいきなり順番を回すのも酷だと思ったのでもう少し頑張ってみる事にした。 だがどう頑張っても2ページ半で手が止まる。これ以上は本当に無理。指がもう動かない。 そんな訳で無言で席を立ち上がる。だが既にロアとアシュリーはソファーの上で氷で腕を冷やしながら伸びていた。2人ももうギブアップそう。 マロンが再び席に着くが先程書いたばかりなので4ページぐらいで手が止まってしまう。それでもそれだけ書ければ凄いと思った。 唯、ページはまだ果てしなく残っている。 休憩を含めてマロンと残りのページ数を数えてみたが、まだ80ページ以上は残っていた。 気が遠くなりそうだ。溜息を吐いてカーペットの上に寝転ぶ。もう無理。今日はもうやめよう。3日以内に写し取れば良いんだし、残りは明日。 そんなイヴの気を察したのかマロンも又イヴの傍に寝転んで目を瞑る。彼女も疲れているようだ。 「おいおいイヴっち。写し取りどうすんのよ?」 レインが苦笑混じりに話し掛けてきた。 「明日にする。お休み」 とりあえず疲れた。暫く昼寝したい。 ロアとアシュリーは既に2つのソファーを占領して眠りに着いてしまっている。 マロンの方も眠たそうなのでその内眠ってしまうだろう。という訳で自分の部屋で寝る事にした。レインはもう放置。 「…写せる所まで俺が写しちゃうよ?」 「そうしてよ。宜しく」 レインの言葉に肯定の返事を返し、深い眠りの中に落ちていく。 もう本当に無理。腕と指の先が悲鳴を上げている。そうしてマロンと2人で眠りに着いた。 * * * ――目を覚ますと既に夕方になっていた。 慌てて体を起こすと、タオルケットが掛けられていた。多分レインだろうな。馬鹿でもこういう所だけは気が利く。 という訳でレインを探してみるが彼の姿は何処にも無い。序でに机の上においてあったレポート用紙と本の姿も無いのでレインが別の場所で本を 写しているのだろうなと思った。 周りを見回すとロア達はまだ眠っている。そんな彼等にも布団やらタオルケットやらが掛けられていた。一体何処から探し出してきたんだアイツ。 苦笑しながら立ち上がり、レインを探す為家の廊下に出る。 とりあえず近い部屋からレインを探してみたが彼の姿は何処にも無かった。アイツ、何処に行った?? そんな事を思っていると扉が開く音が聞こえる。慌ててマロン達が眠っているリビングに戻った。 リビングを通り抜け玄関まで辿り着く。 玄関にはレインの姿が合った。 「何処行ってたのよ?」 問い掛けると、レインがとんでもない事を言い出す。 「依頼人のところ」 「…は!?」 思わず間抜けな声を上げてしまった。依頼人の所って…何で?!まだ写し取りは終わって無い筈…。 そんな事を思っていると、レインがイヴの手にお金の入った袋を渡しながら親指を立てて笑った。 「本の写し取りだけどね、何か書いてたら終わっちゃったから依頼人に渡してきちゃった。だからコレ報奨金ね」 ……一瞬レインの言葉の意味が分からなかったが、やがて彼が残っていたページを全て写し取ってしまったという事が理解できた。 どんだけ写し取りが得意なんだコイツは。 最初からコイツに押し付ければ良かったとか、そんな事を色々考えながらも報奨金を受け取る。 レインとリビングに戻ると既に3人が眠たそうではあるが目を開いていた。 「あ、イヴ。レイン」 「お前等何処に行ってたんだ?つーか本は??」 やっぱり皆思う事は一緒の様だ。半ば呆れ顔で答えた。 「このバカがあたし達が寝てる間に本の内容全部写し取っちゃったんだって。だから依頼人に渡してきて、報奨金も貰ってきたらしいわよ」 そう言って彼等の前に報奨金を置く。 ロア達は最初意味が分からないといった感じで呆然としていたが、暫くしてから絶叫した。 「おまっ…どんだけ写し取り得意なんだよ?!」 「えー、得意じゃないよーー?」 「嘘…」 ロアの言葉に便上したアシュリーがぽつりと呟く。 まあ早く終わったし良かったけれど…。 唯レインの意外な超人技に驚きを隠せないまま、もう一度溜息を吐いた。 BACK MAIN NEXT |