港町を発って1時間と少し。思ったより早く船はcross*union本部の港に到着した。 船を下りて直ぐ、ヘレンの姿を探してみるが既に彼女の姿は何処にも居ない。 まだ船の中に居るのか、それとももう行ってしまったのか――。何にせよこれ以上探しても無意味そうだったので捜索は諦めた。 *NO,41...報告* 「じゃああたしとロアは本部行ってくるから」 街の大きな分かれ道で、一旦マロン達にそう告げた。WISH*UNIONを本気で創るにしても、まずはcross*unionを脱退するのが先だ。 「じゃあ私の家に行ってるね」 イヴの言葉にマロンが笑顔で返す。…確かに宿屋よりマロンの家に行ってもらってた方が良いかも。場所も分かり易いし。 「マロンの家ってこの街なの?」 マロンの言葉にリネが問い掛けてきた。その言葉に彼女が笑顔で頷く。 「じゃあ俺達もマロンの家に行ってるよ」 セルシアがそう言って軽く微笑む。その方が都合が良いので肯定して、一度彼等とは別れた。 「…行くか?」 「そりゃ、ね」 マロン達の背中が大分遠ざかったところで、残ったロアが問い掛けてくる。その問いに対して力なく頷いた。 cross*unionにこれ以上残る気は無いが、だからといって退職希望をリーダー本人にするのは正直気が乗らない。というか、怖すぎる。 それでも言い出すしか無いのだ。1人につき、所属できるunionは1つまでなのが決まり。 仕方なく、マロン達とは別の道をロアと2人で歩き出す。足取りが重かった。 それでも何とかcross*union本部まで辿り着くが、正直本部の入口が鉄の扉に見える。 入口に居る見張りに声を掛け自分達が本人であることを証明してから、鉄の扉の様なドアを開けて、本部内に入った。 「……どうやって言い出す?」 長い廊下を歩く中で、ロアが苦笑混じりに問い掛けてくる。恐らく退職の事について言われているのだろう。というかそれ以外有り得ない。 自分はまだ下っ端の方だから良いけれど、ロアは幹部だから自分よりもっと言い出しにくいのだろう。多分。 「普通に今日で退職します。じゃ引き止められるに決まってるわよね…」 ロアの言葉に自分も更に悩んでしまった。 まさか‘cross*unionとBLACK SHINEが繋がっている事を知ったので退職します’なんて口が裂けても言えない。 何せあのキースの言った言葉だ。当てになるかも分からないし事実かもあまり分からない。…ほぼ事実で間違いないと思うが。 それに此処の秘密を知っている何て事を知られたら生かして帰らせてもらえる自信さえもない。 だから別の言い訳を考えないといけないのだ。もっとこう…リーダーも納得してくれるような言い訳って何か無いだろうか? こんな事ならマロン達と別れる前に言い訳を彼等にも考えてもらえばよかった。何か良い案は無いだろうか。 そうこう考えている内に長い廊下に終わりが近付き、一番奥の部屋――リーダーの私室へと辿り着いてしまった。 一瞬ロアと目を合わせて硬直してしまう。 暫くドアの前で硬直していたが、やがて意を決したロアが扉のドアを叩いた。 「誰だ?」 中から老人の声が帰ってくる。…リーダーの声だ。 「グランドパレー調査に出ていたロア・マッドラスとイヴ・ローランドです。報告と――少し話が合って来ました」 「…入りなさい」 許可が下りてから、ロアが扉を開ける。 先に彼が部屋に入り、後からイヴが部屋の中に入った。扉を閉めて、彼の隣に並ぶ。 「お帰り、よく帰って来たね」 此方の顔を見るがリーダーがそう言って微笑んだ。正直今はその笑顔が怖い。 「これが今回の調査結果です。また目を通してください」 持っていたレポート用紙を出し、リーダーの手に手渡す。それを受け取ったリーダーが軽く書類に目を通した。 ――ウルフドール族の住処に着いては書いていない。アシュリー達ウルフドール族が‘書かないで欲しい’と懇願してきたのもあるが、その方が良 いと自分でも思っていたからだ。どうせリーダー自身が確認しに行く事も無いだろう。絶対とは言い切れないが。 「有難う。後で目を通しておくよ。――それで、話って?」 ああ来た。遂に聞かれた。 一瞬ロアと目を合わせてしまった。 頼むロア。出だしだけは言ってくれ。目で懇願してみるが軽く首を横で振られる。くそう、あたしが言わないと駄目なのか。 一呼吸を置いてからリーダーを真っ直ぐに見つめる。 震えを無理矢理堪えながらリーダーに向けて言葉を投げた。 「本日限りでcross*unionを退職したいと思っています」 「……どうして?何か不満でも合ったか??」 イヴの言葉にリーダーの眉間に皺が寄った。理由を聞かれる事は分かっていたので、拳を握りながら言葉を続ける。 「旅の途中、さまざまなunionの人と接触しました。…それで、自分達でunionを開設してみたいと思ったからです」 多分コレが一番良い理由だと思う。嘘は言って無いし、変な事は言ってない。 彼女の言葉にリーダーが少し沈黙して――それから大声で笑い始めた。 「ロアもか?」 「…申し訳在りません」 リーダーの問いにロアが軽く頭を下げる。あ、しまった。頭下げるの忘れてた。慌てて自分も頭を下げる。 彼等の言葉に笑いを必死に堪えながらリーダーが言葉を発する。 「そうか、お前達もそろそろ自立の時期か――。 …そういう事なら仕方ないな。2人のcross*unionの退職を許可するよ」 …今、何て?? 思わずロアと2人で顔を見合わせてしまった。まさかこんなに早く、しかもあっさりと退職許可が出るとは思わなかった。 「あ…有難う御座います!!」 思わずロアと2人で再び深々と頭を下げてしまう。 「何か困った事が合ればまた聞きに来ると良い。偶には顔を出してくれよ?」 そんな彼等に相変わらず笑顔のリーダーが告げる。 偶に顔を出すくらいなら、大丈夫。その位ならロアにも自分にも何の支障も無いだろう。 「因みにリーダーはどっちだ?」 男が更に言葉を続ける。その問いに真っ先にロアが答えた。 「イヴです」 「…そんな気はしていたよ。君は昔から割りとリーダー体質だったからな」 そう言って席を立ち上がった男が、ロアとイヴの傍に寄る。 何を言われるのかと一瞬身体が痙攣したが、何かを言われる訳ではなく前に手を伸ばされた。 位置的にイヴに向けてだったので、イヴがその手を握り、リーダーと握手を交わす。 「unionのリーダーは大変な事が多い。――応援しているから、頑張りなさい」 「…はい」 肯定の返事を返し、交わした握手の腕を解く。 次いでリーダーはロアの方にも手を伸ばした。その手をロアがやや照れ気味に握り返す。 「彼女の事をしっかり支えてあげなさい。期待しているよ」 「…有難う御座います」 そうしてロアとリーダーの握手が終わってから、もう一度男に向かって深々と頭を下げた。 それから部屋を出て――安堵の溜息を吐く。 「まさか…あんなあっさりと退職出来るなんてな」 「全然思わなかったわ……」 ロアと2人で顔を見合わせて、お互い微笑んだ。それから長い廊下を再び歩き出す。 この景色を見るのも最後かもしれないと思うとちょっとだけ切ない気持ちにもなった。 此処に入団したのは、確か4,5年前。偶々ロアと一緒の時期だったから、それが原因で仲良くなったんだっけ。 廊下を歩いていると此処で過ごした思い出が断片的に蘇る。 4年近くは此処でお世話になっていたので、少し物悲しくも感じた。 それから、本当に此処を辞めて良かったのかという疑問も湧いてくる。けれどその疑問は直ぐに消した。コレで良かったんだ。そう信じたい。 それからリーダーについてを考える。 結局あの人は最初から最後まで良い人だったけれど――本当にBLACK SHINEと繋がっていたのだろうか? もしかして、ロア以外の幹部の誰かが、BLACK SHINEと繋がっていただけなんじゃないだろうか。 そんな事も今更考えてしまったが考え出したらキリが無いので辞めた。 これが間違った選択だったとしても、後悔だけはしない。そう決めたから。 「じゃ、次いでに新規unionの登録してくか?マロンの家に行くついでにunion登録所に寄ったほうが近いだろ」 辿り着いた本部の入口のドアを開けながら、ロアが問い掛けてくる。 「…そうね」 その言葉に肯定の返事を返した。扉を閉め、cross*union本部を飛び出す。 ……終わった、コレで本当に此処とは縁を切った。 ――唯この胸騒ぎは何だろう? ロアの隣を歩きながら、これからの事について色々と考えながらもそんな事を思った。 * * * 「えっと…あれが私の家だよ」 そう言ってマロンが指差した家に着いたのは、丁度イヴ達が本部に辿り着いたぐらいの時間だった。 「親とかは居ないの?」 「うん。イヴと一緒に住んでたから、今は誰も居ないよ」 家の鍵穴に鍵を指しながら、アシュリーの問いにマロンが返す。 鍵穴に差し込まれた鍵が90度回り、家の扉が開いた。 最初に中に入ったマロンが家の明かりをつける。 リネとアシュリーが傍に合ったソファーに座って、レインがその辺の床に胡坐を掻いて座った。セルシアも同じ様に床に腰を下ろす。 そんな彼等を見ながら、マロンが近くに有る台所に向かって小走りして行った。 冷蔵庫を開ける音とか、コップを出す音とか、色々な音が聞こえてくる。 「手伝おうか?」 慌しい音だったので、苦笑混じりにセルシアが問い掛けた。 「あ、大丈夫です」 彼の問いにマロンが言葉を返す。…大丈夫そうには見えないのだがとりあえずその場で待機する事にした。 レインが興味混じりで部屋を見回しており、その少し離れた場所で何時の間にかソファーを立ち上がったリネが、本棚から勝手に本を引き出して捲 っている。流石にマロンに一声掛けてからの方が良いんじゃないのかと思ったが言うと殴られそうなので止めておいた。 アシュリーと目が合って、彼女と同時に苦笑する。どうやら彼女もリネのしている事に注意を入れたいみたいだ。うん、普通はそうだ。 「リネっちー、せめてマロンちゃんに許可入れてから読もうよー」 そんな自分達の気持ちを、レインが代用して言ってくれた。今だけ彼に感謝する。 「……」 だか彼女は全く聞いていないみたいだった。先程から書物に没頭しているみたいで、時々指を動かしながら本を読み続けている。 「あ、別に良いよ。今はそんなに読んでない本だったし」 やがて台所からコップを乗せたお盆を持ちながらやってきたマロンが、そう言って微笑んだ。 お茶の入ったコップを渡され、それを軽く頭を下げて受け取る。 「リネ、お茶飲む?」 最後に書物を捲る彼女にマロンが問い掛けた。 「有難う、其処に置いて置いて?後これちょっと借りる」 「うん。良いよ。じゃあ此処に置いておくね」 そう言ってマロンが近くの小さなテーブルにコップを置き、それから小さいがちゃんとした椅子をリネの方に持ってくる。 それを受け取ったリネが本棚の近くに椅子を置いて座った。 …て、ちょっと待て?何でレインの声は聞こえていなかったのにマロンの声は聞こえてるんだ?? そんな疑問を持ったが直ぐに気付いた。リネの事だからレインの言葉は無視していたに違いない。流石リネとしか言い様が無かった。 「あれ、何の本なの?」 近くに自分のコップを持って座ったマロンに、アシュリーが問い掛ける。 「えっと、回復術の基礎の本。昔は結構読んでたんだけど今はもう覚えちゃったからあんまり読んで無いんだ」 …それでリネがあれだけ熱中して読んでいるのか。何となく納得した。少しだけ遠くに居たレインが此方に近付いてきてセルシアの隣に座る。 「リネっちに無視されたー」 やっぱりレインもそれは薄々気付いていたようだ。 嘆く彼に向かって、何故か前蹴りが飛ぶ。 「無視したんじゃないわ。あんたみたいな害虫の声をあたしの耳が聞き取れなかっただけよ」 何時の間にか本を持って後ろに立っていたリネが、そう言って男を睨んだ。 「ちょ、それ酷くね??」 「煩い。この害虫」 「…前より扱い酷くなってる……」 リネの言葉にそう呟いたアシュリーが、くすりと笑う。釣られて此方も笑ってしまった。 「あー!今セルシアとアシュリーちゃん笑ったでしょ?!」 「だから煩いって言ってるでしょ、この害虫!」 今度は回し蹴りをしながら、リネが叫んだ。 …正直今のはリネの方が煩かった気がしたが、言うと此方の命まで危ないのであえて言わない事にする。 そんな中、入口の扉が開く音が聞こえた。 全員が一斉に扉の方を見る。 「ただいま」 入口から顔を覗かせたのはイヴとロアの2人だった。 「お帰り。思ったより早かったね?」 そんな2人に真っ先にマロンが言葉を投げる。 「それで…cross*unionは?抜けれたの??」 彼女の次にリネが問い掛ける。それは5人が一番知りたかった事だ。 リネの問いにイヴとロアが目を合わせて――彼女達に向かって満面の笑みで微笑んだ。 つまり無事退職出来たようだ。思わず同じ様に笑ってしまった。 2人は家の中に入り、マロンの隣にイヴが座って、レインの隣にロアが腰下ろす。 「帰り道で登録所に新規unionの登録してきたけど、良いわよね??」 イヴの問いにレインとアシュリー、マロンが顔を合わせて頷いた。どうやら其処までやってくれていたみたいだ。 「じゃあこれで本当にWISH*UNIONの結成なんだね。おめでとう」 笑顔でセルシアが言葉を投げる。…WISH*UNIONの本格結成。確かにそうだなと思った。 イヴが軽く彼にお礼と言って、彼と軽く握手をする。 「多分明日から仕事回されるから――覚悟しておいてよ?」 イヴの言葉にマロンとロアが最初に頷き、アシュリーとレインが笑顔で頷いた――――。 BACK MAIN NEXT |