cross*unionの脱退。そして新規union‘WISH*UNION’の結成――。
1日だけでこんなに疲れたのは初めてな気がした。
冷蔵庫に合った食材で軽くパーティー状態な料理を堪能して直ぐ。

「…あたし達、そろそろ帰ろうと思う」
リネとセルシアが顔を見合わせて、そう笑った。


*NO,42...別れのセレナード*


突然言い出され5人が5人、思わず呆然としてしまった。
一瞬何の事かと思ってしまったが、直ぐに理解する。2人は自分のunionに帰ると言っているのだ。
「…帰る、って。自分の所属unionにか?」
レインの問いにセルシアとリネが顔を見合わせながら軽く頷く。
…2人は違うunion。船の上でも2人でそんな話をしていたから何時かこうなる事は薄々分かっていたが――まさかこんなに早い段階で別れを切り
出されるとは思わなかった。
「俺も任務の報告に行かないといけないし――副リーダーって立場もあるから、此処には長居出来ないんだ。
ごめん。本当はもっと一緒に居たいんだけど……」
そう言ってセルシアが寂しそうに笑う。
セルシアの隣の席に座って居るリネもその言葉に小さく頷いた。
「あたしも任務の報告書渡しに行かないといけないからね。
SAINT ARTSも意外と暇じゃないのよ。…そりゃ、別れるのはあたしだって寂しいけど……」
口ごもりながらリネが呟く。そう言って2人は俯いた。
暫くその場に沈黙が走る。――2人にどんな言葉を掛ければいいのだろう。迷っていると先にロアが口を開く。

「今直ぐ行くのか?」
「……そう、だね。船の最終便がもう直ぐ出るみたいだったから、それで帰ろうと思う」
ロアの問いにセルシアが席を立ち上がりながら笑った。
冗談何かじゃない。2人は本気なんだ。2人が冗談でそんな事を言う性格じゃない事ぐらい分かっている。
「あたしも帰るわ。…セルシアと本部までの道は殆ど一緒だからね」
彼の言葉にリネが便上する。そうか…彼女も今直ぐ帰ってしまうのか。急に心にぽっかり穴が開いたように感じた。
セルシアもリネもグランドパレーまで着いてきてくれた掛けがえのない仲間だ。
WISH*UNION初日の動きを見て、どんな風にしていけば良いのかアドバイスを聞きたかったのだが――2人を食い止める権利なんて無い。
自分達の我が儘だけで何時までも2人のunionから2人を借りる事は出来ないのだ。


「…船の停留所まで、一緒に行くわ」
せめてもの餞としてイヴが席を立ち上がりながら2人に言葉を掛ける。彼女の言葉に頷いたマロンも同じ様に席を立った。
アシュリーとレイン、ロアも少し遅れて立ち上がる。…少しでも長く2人と居たいのはやっぱり皆一緒みたいだ。
当たり前だ、何だかんだ言っても此処までずっと一緒に居た仲なのだから。
「有難う。じゃあもう行くけど…良い?」
「…ええ」
頷いて、入口に向かって歩き出した。…cross*union本部に行く時より、足取りが重い。
2人を行かせたく無い気持ちが強かった。わかってる、そんなのは無理だって。
それに2人が考えて導き出した答えなのだ。2人の意見を無視してまで食い止めることは出来ない。分かっているけれど――。

頭では分かっているけれど、心が一行に言葉を受け入れようとしてくれない。

そんな事を思いながら家を出た。マロンが鍵穴に鍵を指してしっかりと鍵を掛ける。
それから、星の輝く夜の街を7人で歩き出した。遠くからcross*union本部の灯りが見える。
2人に色々話したい事は有ったけれど、どれも上手く言葉にまとまらなくて結局言葉には出来なかった。
マロン達がリネと会話している中、一人沈黙しながら黙々と歩いていると直ぐに停留所に到着してしまう。――既に最終便の船は停まっていた。
出発まではまだ少しだけ時間が有るみたいなので、セルシアとリネがその場に立ち止まる。

「…本当に行くの?」
此処まで歩く中で色々言いたい事が浮かんできたのに、いざ話し掛けようとなるとそんな言葉しか出て来なかった。
その言葉に2人が微笑みながら頷く。その返答が来る事は分かっていた。‘やっぱり止めた’なんて言ってくれる訳無いんだ。
「――寂しく、なるわね」
ぽつりと後ろの方に居たアシュリーが呟く。彼女はそう言って最終便の船を見上げた。
「有難う。…でも、あたし達は行かないと行けないから」
あれだけ皮肉やら何やらを言い続けて来ていたリネだが、彼女もやはり此処に居て楽しいとは感じてくれていたみたいだ。アシュリーの言葉に少
しだけ寂しそうに言った。
それから再び沈黙してしまう。言いたい言葉が頭の中で混乱していた。


「最終便、もう直ぐ出まーす」

そんな中で、船員に寄って別れの合図が刻まれる。
――船の傍に居た船員の言葉にリネとセルシアが船の方を振り返って、それからもう一度綺麗に笑った。
「じゃあ、もう行くね。…ありがと、此処まで見送ってくれて」
セルシアがそう呟いてリネも小さく頷く。踵を返し歩き出す2人にイヴが声を投げた。

「また、会いに行くから」

「……楽しみにしてるわ」

イヴの言葉にリネが振り返ること無く答える。2人の姿はそのまま船の中に消えていった。恐らく船に乗ったのだろう。
それとほぼ同時に暗い海に向けて船が動き出す。――船が遠ざかるまで、それを見続けていた。
改めてセルシアとリネが行ってしまった事を実感する。



「…行っちゃったな」
ロアの言葉に、イヴが小さく頷く。
「ま。永遠の別れって訳でも無いんだし、またどっかで会えるでしょ」
楽観的にレインが答えた。だが今だけはその楽観的な考えに救われた気がする。
彼の言う通りだ。別にこれからずっと会え無い訳じゃない。少し距離は遠くなってしまったが、会いに行こうと思えば会いに行けるんだ。
それに会いに行くってリネとセルシアに言った。だから、絶対に何処かで会いに行く。


「…帰る?」
アシュリーが言葉を投げてくる。
「……そうね。帰りましょ。明日からunion本格活動だし」
悲しんでる暇は無い。明日からは絶対に登録所から仕事が回って来たり、依頼人が連絡を入れたりして来る筈だ。
踵を返し、マロンの家に向かって歩き出した。
それに――次に会う時は少しは大きなunionになってないと、リネとセルシアに笑われる。そんな思いも合った。





* * *




宵闇より尚深き闇の中。
鉄格子の中の影が――動く。



「リコリス、フェンネル。――お前達の出番だ。恰好の餌が居るぞ?」

鉄格子の前の男の言葉に2つの影が尚揺らめき――闇の中ではっきりと笑った。
影は立ち上がり、そして開かれた鉄格子の入口を飛び出す。

「やっとあたし達の出番なんだ?幹部達は?もう役に立たないの??」

影の一人、凛とした少女が男に言葉を投げた。その言葉に男が口元を攣り上げて笑う。
「ノエル達は忙しいんだ。動かせる強い駒は君達だけなんだよ」
「…それで、恰好の餌とは?」
少女の隣。冷たい瞳の男が無表情に問い掛けた。
その男の言葉に男は尚も笑う。闇の中に旋律の笑いが響き渡る。

「君達の力量に申し分ない相手だ。名前は――」

蜀台の上に置かれた蝋燭に、火が灯る。
灯された蝋燭の火の上に、幻想の顔が浮かぶ―――。


「――イヴ・ローランド。及び、セルシア・ティグト。…ネメシスの石の所持者だ」

冷たい空気が光の周りを覆う。
空気に少しだけ吹いた風に、蝋燭の火が一瞬だけ揺れた―――。










--It leads to Chapter V!!--



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