半日休憩を入れながら歩き続け、レインが言っていた港町に着いたのは夕方近くだった。
その為とりあえず翌日の船の出港時間とcross*union本部行きへの船を確認してから宿屋で部屋を取り、疲れを取る為に睡眠を取る。
そうして十分な睡眠を取った翌日。朝一に出る船に乗ってcross*unionに向かう為、船の上に居た。


*NO,40...牙を向く者*


「もーちょっと寝てたかったんだけどー、イヴっちー」
船の上でレインが先程から何回も欠伸をしながら同じような事ばかり言ってくる。
最初は無視していたのだがその内鬱陶しくなってきたので殴って黙らせた。
「帰るなら朝一の方が良いに決まってるでしょ、この馬鹿」
イヴに釣られて傍に居たリネもまたレインを思い切り殴り、そしてセルシアの傍に戻る。
「ちょっとリネっちー…今の、とばっちりじゃない??」
そんな彼女にレインが苦い顔をして頭を摩りながら問い掛ける。だが既に彼女はレインを無視してセルシアと何かを話していた。
2人で真剣そうな顔をして何かを話していたので、気になって傍に寄ってみる。

「何話してたの?」
問い掛けると、2人が刹那顔を見合わせてから答えた。
「あたし達は別のunion所属だからね。そろそろ帰らないと、って話してたの」
「俺も…仮にも副リーダーだし、あんまり不在してるとマズいかな。って思って」
…ああ、そういう事か。確かに2人はそろそろ各自のunionに戻るべきかもしれない。リネには提出する資料があった筈だし、セルシアも任務の報
告をしに行かないと行けないだろう。唯此処まで一緒に居ただけあって2人が居なくなるのは悲しく感じた。
「何時帰るの?」
「それは分からない。けど何処かで帰るつもりではいるわ。…セルシアも、ね」
問いに対してリネが答えを返す。彼女の言葉にセルシアが微笑みながら少しだけ頷いた。
2人を強制して此処に残す権利なんて自分には無い。2人が今後どうするのかは2人の自由なのだ。口出しが出来る訳では無いので頷いて返事
を返した。
丁度その頃に船が一瞬大きく揺れ、海に向かって動き出す。
「そういえば……cross*unon本部までは1〜2時間だって」
船が動くのと同時にセルシアがそう助言した。…1,2時間か。それまで何をしていようか。
とりあえず甲板を見回して、皆が何をしているのか様子を見てみる。
マロンとロアが椅子に座って何かを話しているのが真っ先に見えた。リネとセルシアとは違って、時折笑顔が見える事から多分笑い話でもしている
のだろうと思う。それからレインがちょっと離れた場所で海を見ている。殴られた場所は流石にもう痛くないみたいだ。
アシュリーはマロン達より少し離れた場所で空を見上げていて、セルシアとリネは再びお互いの今後に着いて話し始めている。
とりあえず皆に話し掛けてみようかと思い、まずは暇そうにしているレインの傍に寄って見た。


「どーかした?」
「別に、暇だから皆の所回ってみようかと思っただけ」
真っ先に話しかけてくるレインに対し、素っ気無く答えるとレインが少しだけ口を尖らせる。
そんな彼と同じ様に海を見つめながら問い掛けた。
「あんたホントにunionに入って大丈夫なの?」
「…何で?」
ちょっとだけレインが不思議そうな顔をする。言葉を続けた。
「旅してたって事は、何か目的合ったんじゃないの?それは良いのかって事」
「あー…そういう事」
イヴの言葉にレインが少しだけ悩んだ顔をした。だがそれも一瞬で、直ぐに彼は笑顔を浮かべて答える。
「別にだいじょーぶよ。ホントに当ての無い旅だったから」
「…ふうん?」
あの刹那考え込んだ間が気になったが、特に問題にはしなかった。どうせ言葉に詰まっただけだろう。多分。
話すネタに詰まったし、レインが再び海を覗き始めたので彼の傍を離れてアシュリーの方に行ってみる。

彼女は相変わらず空を見上げていた。そんな彼女の隣に座ったところで漸くアシュリーが此方を向く。
少し躊躇いがちに彼女が言葉を呟いた。
「…ペンダント、見せてもらって良い?」
ペンダント。…恐らくネメシスの石の事だろう。頷いてペンダントを外し彼女の手に渡す。
それを受け取った彼女がじっとペンダントを見つめた。
そう言えばグランドパレーの帰り道――幽霊船と遭遇した後――アシュリーが、何か言いたそうにしていた。
何か…ペンダントについて何か知っている様な……。そんな顔をしていたと思う。
「何か知ってるの?」
気になったので問い掛けてみた。
此方の方を向いたアシュリーが、静かに首を横に振る。
「石自体の事は分からないけれど…。
…私達ウルフドールの王族はネメシスの石を守る為に生まれたんだって、お父さんから聞いた事はある」
「……じゃあ、アシュリーのお父さんなら何か知ってるかもしれない?」
「…多分」
頷いた彼女がペンダントをイヴに返す。それを受け取って、もう一度首に掛けた。
そして彼女の言葉を聞いてから流石にそろそろ不思議に思う。自分の母はコレを何処で手に入れたのだろう…?
今はもうこの世に居ないので、考えても仕方ない訳だが。
そう思ったのでその場を立ち上がる。
「また何か分かったら教えて?」
「…うん」
その言葉に彼女が微笑んで頷く。肯定の言葉を聞いてから、少し遠くに居るロアとマロンの方に向かって歩き出した。

「あ、イヴ」
近付いてきた事に気付いたマロンが、手招きをして自分を呼んだ。近付いてロアとマロンの間に合った空席に座る。
「どうかした?」
問い掛けるとマロンがにっこりと笑って言った。
「本部に着いたら、いよいよunionの本登録出来るね」
「それが楽しみなんだよ」
…ああ。うん、そういえばそうだっけ。
本部に着いたらまず調査の報告をして、それからcross*unionを脱退しないといけないんだ。
それから自分達の作り上げたunion――WISH*UNIONの本活動が開始する。
といっても、新規unionの登録には最低でも1日くらいは居るんだけど。
だから自分達のunionが開設されるのは実質本部に着いてから1〜2日後になる訳だ。
――多分、リネとセルシアが帰るならそのタイミングだろう。
「リネとセルシア、そろそろ帰るって」
それを話すと2人が驚いた顔をしたが直ぐに納得の顔を浮かべた。だが心成しか寂しそうな顔を浮かべている。
「残念…。もうちょっと一緒に居たかったのに」
「ま、2人共忙しいのを無理に引き止めてるからな。そろそろ潮時だとは思ってたけど――寂しくはなるな」
寂しそうに2人が呟く。多分寂しいのは2人も一緒だと思うから、自分も少しだけ頷いた。
「…もう会えないって訳じゃないし、unionが上手く繁盛したら2人のunionと友好関係とるって手もあるし…。
とりあえず今は一緒に居る時間を大事にしましょ」
そんな2人に声を掛けて、席を立ち上がった。2人はその言葉に顔を上げて頷く。
「そうだな。そうするよ」
「ありがとう、イヴ」
2人がにっこりと笑って言葉を告げる。…恥ずかしくなってきたので苦笑でその場を離れた。


とりあえず一通り全員と会話はしてみたが――皆とりあえず色々思ってることがあるみたいだ。
改めて暇になってしまったので、cross*unionに着いたら何て報告しようかと考えながら、皆から離れた甲板の端のベンチに座る。
空を見上げると、雲一つ無い快晴だった。
…本当にcross*unionを抜けて良いのだろうか?今更ながらそんな躊躇いが浮かんでくる。
一応何年かは勤めてたunionだし、名残が無いって訳じゃない。それにリーダーがとても悪い人には見えなかったし…。もしかしてBLACK SHINEに
嵌められているだけなんじゃないだろうかと思ってしまう。
けれど同時に現実がそんなに甘くない事だって分かってた。
多分ノエル達の言っていた言葉――BLACK SHINEを裏で操っているのは‘cross*union’だという事――は真実だ。
じゃあやっぱり逃げ道は新規unionの開設しか無いのだ。
何か、cross*union本部に戻るのが面倒になって来た。手紙出してやめますって言うじゃ駄目だろうか。駄目に決まってるけど。

そんな事を思いながら溜息を吐くと、ふと前に人影が見えた。
誰だろうと思い、前を向く。
「久しぶりだね。お姉さん」
そこには無邪気な笑顔を浮かべる――何時か出会った女の子が立っていた。
何処で出会ったんだっけ。考えて考えて……ある記憶の断片が過ぎる。
…そうだ、クライステリア第一神殿だ。神殿の入口で空を見上げていた少女が今目の前に居る彼女なんだ。
「あんた、クライステリア第一神殿で会った…?」
「うん。そうだよ」
確認の為問い掛けると、彼女は2つに結んだ髪をなびかせながらにっこりと笑った。
一瞬警戒したが、特に殺気も感じないしまさかこんな16,7歳の少女が襲い掛かってくる事も考えられない――リネぐらいの威圧があれば話は別
だが――ので、とりあえず警戒を緩くする。
逆に警戒して恐がられてもあれなので剣に手をおく事は出来なかった。
…大丈夫、よね?まさかこんな子がBLACK SHINEの刺客とか無いでしょうね。一応警戒しながら彼女の方を見る。

「別に警戒しなくても平気だよ?私武器とか何も持ってないから」
……警戒を緩くしてたつもりなのだが、彼女に伝わっていた様だ。苦笑して頷いた。
確かに武器を持っているようにも見えないし、何処にも魔術増幅器の様な物も見えない。多分本当に普通の少女なのだ。悪魔でも多分だけど。
「あの後神殿入ったんでしょう?危ないって言ったのに」
少女は少し眉間に皺を寄せながら呟く。
「…ホントだって思わなかったのよ」
「そっか。じゃあ次の言葉は本当だから信じてね」
そう言って相変わらず無邪気な笑顔を此方に向けてくる。…この子は何が言いたいんだ?よく分からなくなってきた。
「お姉さん、あの時よりも強くなってるよね。うん、何となくだけど分かるよ」
彼女の言葉に少しだけ照れてしまう。煽てだとしても褒められるのはやっぱり嬉しいのだ。特に第三者からなら尚更だ。
彼女は無邪気な笑顔を向けたまま、尚も言葉を続けた。
「でも、忘れないで?――牙を向く者は、何処にでも潜んでるって事」
「…牙を向く者?」
その言葉に頭の中で旋律が走った。…誰の事を言っているんだ?BLACK SHINEの事?cross*unionの事??それとも――。
彼女は問いに答える事なく、踵を返してその場を歩き出す。


「もう直ぐ船着くみたいだから、私もう行くね」
「ちょっと」
「私の名前はヘレン。またね、お姉さん」
呼び止めるのを聞かずに、彼女はその場を歩いて行ってしまった。…何故か追いかけれなかった。
何ていうんだろう。追いかけなくてはと心の中では感じているのに足は上手く動いてくれなかった。警戒からだろうか。よく分からない。
彼女――ヘレンの言う通り、船からcross*union本部が見える。そろそろ船が着く様だ。
「イヴー?もう船着くよー??」
遠くに居たマロンが走りながら此方に寄ってきた。
「…今行くわ」
結局へレンは何が言いたかったんだろう。牙を向く者?それは一体何を指しているんだろうか――。
色々と分からない事で気持ちがもやもやしながら、マロン達の方に向かって歩き出した。










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