翌日。元気になりだした街の人々と、看護婦の見送りを受けて一行はサンクティアを立った。
cross*unionに戻るにはとりあえず来た道を通って帰るのが早いだろう。…というか、その道しか分からないし。
だからラグレライト洞窟を通って、廃墟ヴィエノロの前を通って、森を通ってという道のりになる。…早くて3,4日程度か?
そんな事を思っていたのも――束の間だった。


*NO,32...クオーネ*


「ラグレライト洞窟が通れないっ?!」
そう大声を上げたのはイヴだった。
その言葉に洞窟の入口に立っている兵士と会話してきたセルシアが肩を竦ませながら頷く。

「中で土砂崩れが起きたんですって」
セルシアと共に兵士から話を聞いてきたリネが、呆れ顔で言った。
…確かに洞窟の奥で声と土を掘る音が交互に聞こえる。土砂崩れが起きたのは確かな様だ。
恐らく今、洞窟の奥で土砂を掻き分けているのだろう。怪我人が出ているという報道が無いのが幸いだ。
「となると…当分は此処で足止めだな」
「union本部に帰るには、この洞窟を通るしかないもんね…」
ロアとマロンが会話に便上する。
「ま、この馬鹿高い山を登るっていうなら話は別だろうけどな!!」
其処に馬鹿笑いしたレインが会話に入って来た。
ラグレライト洞窟の上には、何処までも高い山が聳え立っている。
元々この洞窟は、この山を越えるのがあまりにも困難すぎるから作られた洞窟だ。…というか、山を登るってそんなの絶対無理だろ。
苦笑するイヴの前、相変わらず下品な笑いを続けるレインの溝にリネがレインの腹に拳を突き出した。
あ、今のは痛そう。こっそりそう思ったがやっぱり痛かった様だ。レインが腹を抱えてその場に座り込んだ。……溝に入ったな。絶対。
レインが黙った所で、相変わらず無表情なアシュリーが口を開く。

「だったら…今やれる事をすれば?」
「今やれる事?」
思わず首を傾げてしまった。
そんなイヴにアシュリーが言葉を続ける。
「…セルシアとイヴの七色の腕輪とペンダントを調べる。とか」
――その言葉にはっとなった。
確かにそうだ。幽霊船に乗った時からずっと気になっていた事。
何故ペンダントと腕輪が急に光を放ち、そしてその光はあの寄生モンスターを倒せたのだろうか……?
アシュリーの言う通り今はそれを調べるべきだろう。
中で土砂崩れが起きたのなら、どの道数日間は洞窟を利用出来ないに違いない。
その言葉にリネがセルシアに近付き、腕を掴んだ。
「触らないから見せて」
…どうやら船で叩かれた事を、許した物の引きずってはいる様だ。彼女の言葉にセルシアが苦笑しながら頷いた。
彼女は腕輪をじっと見つめ、それからイヴの方に手を伸ばす。
「ペンダント、貸して」
その言葉にイヴは頷き、ペンダントを外してリネの手の平に預けた。
彼女はそれをセルシアの腕輪の傍に近づける。

すると、どうした物か。
イヴのペンダントの中心に嵌められた白い宝石と、セルシアの腕輪に嵌められた黒い宝石が眩い光で輝き出した。

「光った?!」
これには皆が驚愕した。
そんな中で次いでリネは、腕輪とペンダントを引き離してみる。
すると強い光を放っていた腕輪とペンダントは、嘘の様に忽ち光を失い普通の宝石へ戻ってしまった。



「…どういう事?」
「セルシアの腕輪とイヴっちのペンダントが…共鳴、してんのか?」
イヴの問いに何時の間にかその場を立ち上がっているレインがぽつりと呟いた。レインの呟きにリネもまた頷く。
「多分、そう。セルシアの腕輪とイヴのペンダントは共鳴してるんだわ」
彼女はそう言いながらイヴにペンダントを返した。
それを付けている間、隣に居たマロンが小首を傾げながら呟く。

「でも、セルシアとイヴは結構一緒にいたよね。…どうしていきなり反応したんだろう?」
…マロンの意図は的確だ。
セルシアとイヴは今まで何度か一緒に居たが、腕輪とペンダントが共鳴したのは幽霊船が初めてだった。
そして幽霊船以来、腕輪とペンダントは共鳴を初めている―――。



「…幽霊船が、2つの宝石の封印を解除した?とかは……」
「…有り得ると思う」
アシュリーの推理にリネが頷く。
彼女は腕輪とペンダントをもう一度見比べてから言葉を続けた。

「今見比べてみたけど、セルシアの腕輪とイヴのペンダントは作りは中心に埋められてる宝石以外はほぼ…ってか完全に一緒だった。
使われている宝石に取り付けられた制御補助石も一緒。
茶色の宝石グライス、赤の宝石イレーネ、青の宝石マヴァロン、オレンジの宝石ニルト、緑の宝石ログロアイラ、紫の宝石アブソート…。
……6の宝石が組み合わさって出来る制御補助効果は…」
「あ゛ーっ!リネ!頼む、理屈を語るのは無しにしてくれ!!俺達には難しくて何が何だか…」

ロアの叫びにリネが一瞬呆然として、それから溜め息を吐いた。
うん、でもロアの言葉は正直真意だ。リネが理屈を説明してくれても、こっちには何がなんだかさっぱり判らない。
現にアシュリーとレインが苦笑を浮かべてその場を硬直していた。
セルシアは理解しようとして頭を抱えている。因みにマロンも一緒。
そして自分も何がなんだかさっぱり判らない。と言うか、もう何を言われているかも分からなかった。
リネって偶に理屈っぽい事を言うから良く分からない。
そんな彼らに溜息を吐いたリネが、腰に手を当てて結論を述べる。


「……結論だけ言うとね。
6の宝石が要となって、ペンダントに埋められた白の宝石と腕輪に埋められた黒の宝石が共鳴してると考えられるの。
そしてこの白と黒の宝石は今まで封印されていたけれど、幽霊船が何らかの鍵になって封印が解けた。…こんな感じかしらね」
「その黒と白の宝石については分からないの?」
「其処まで分かってたらこんな苦労はしてないわ」
イヴの問いに相変わらず棘のある言葉でリネは返した。だが彼女の仮説は正しいと思える位論理が通っている。

「じゃあ黒と白の宝石を調べれば、何かわかるかもしれませんね」
マロンがそう言って笑った。確かにそうだ。この2つの宝石を調べれば真理に辿り着ける気がする。

「調べるとすれば図書館だな」
セルシアの言葉に図書館、と呟いたレインがにったりと笑った。

「此処から近い大きな図書館は、クオーネだな」
今更ながらレインが居て本当に良かった。地図が無くても彼が居れば何処に何があるのかよく分かる。
「クオーネ…じゃあ其処に向かおうぜ」
ロアの言葉に皆が賛成の声を上げた。
踵を返して、レインの後を追って歩き出す。
そうしてイヴ達は一旦ラグレライト洞窟を後にし、クオーネに向かい歩き出した―――。



* * *


歩いて数時間もすると、大きな施設っぽいのが見えた。
「あれがクオーネだぜっ!」
レインが指を指して笑う。…あれが、クオーネ。思わず呟いてしまった。
となると、あの施設っぽいのが図書館なのだろう。無事に着けて良かった。
急ぎ足でクオーネに向かうと、意外と早く着いた。
とりあえず一度図書館に行く事になり、大きな施設を目指して街中を歩き出す。

「あんたってホントいろんな場所知ってんのね」
歩いている間暇だったので、ふらふらと後ろを歩いているレインに話し掛けた。
「ん?そーか?」
「少なくともあたし達みたいな旅に慣れてない奴からすると…大分知ってる方だと思う。
そういうのって意識的に覚えるの?それとも無意識??」
イヴの問いに、レインがちょっとだけ困った顔を浮かべる。
彼は苦笑を浮かべたまま言葉を続けた。
「そーだなぁ……俺はいろんな所ふらふら旅してる内に、自然に覚えたぜ」
「…やっぱり自然に覚えるもんなのね……」
そんな会話を続ける内に、何時の間にか図書館が目の前に合った。
扉を開け、静寂の空間に入り込む。
…それなりに人は居るのだが、中は大分静かだ。
音を立てない様気をつけながら、それぞれ石についての本を探し出した。
セルシアとリネが本棚の角から本の内容をチェックしに行ったのに対し、アシュリーとレインがセルシア達と反対方向から本を探し始める。
4人が角から本を探しているので、自分達は中央辺りから本を見て見る事にした。
この列は医学関連らしく、それらしいタイトルの本が幾つか並べられている。
色々な本を目で探してみたが、どうにもそれらしい本は見当たらない。
マロンとロアもそれは一緒の様で、未だに本のラベルを見つめていた。
そんな中で、隅を捜索していた筈のレインとアシュリーが、2冊の本を抱えて現れた。

「それがそうなの?」
なるべく小声で問い掛けると、レインがにっと頬を釣り上げる。…当たりか?
「図書館の管理人さんにお願いして…書庫を見せてもらったら、それっぽいのが合った……。
貸し出しは出来ないけど此処で見るなら構わない、って」

…成る程。書庫の方までは流石に頭が回らなかった。
直ぐにセルシアとリネを呼んで、なるべく人の邪魔にならない席に着いた。
気付かない内に大分時間が経っていたらしく、図書館に居る人数は殆ど減っているが居ない訳では無いのでちゃんと気を使わなくては。
アシュリーとレインの抱えていた本に手を伸ばす。
やけに古ぼけた本だった。あの幽霊船で見た航海日誌と、紙質が少しだけ似ている。
…って事は。
嫌な予感がして本を1ページ捲ってみた。…うん、やっぱりそうだ。
何がなんだかさっぱり判らない文字が、ずらりと並べられている。これ、ゲーリーンズ文字だっけ?多分そういう系の文字よね。
読めない物を持っていても仕方ないので、リネに本を手渡した。こういう本の解読ならリネの方が得意だろう。
本を受け取ったリネがページを捲り、文字を軽くなぞる。
「…コレもゲーリーン文字ね」
「……やっぱり?」
薄々そんな気はしていたのでもう何も突っ込む気にすらなれなかった。
リネがイヴの隣の席に座って、本の解読をし始める。
周りをぶらぶらしていたレインと、少し遠くの席に座っていたセルシアがリネの傍に寄って来た。やっぱり2人も内容が気になるのだろう。

「……これ…って」
本の解読を進めるリネが、小さくそう呟くのが聞こえる。
本人は小さく呟いた程度でしか無いのだろうが、何せ図書館の中が静まり返っているのでよく聞こえた。
「何か合ったのか?」
ロアの問いに、リネが一旦本から目を逸らして――アシュリーとセルシアの方を見る。

「幽霊船で見た航海日誌に、‘ネメシスの石’って言うのが出てきたの、覚えてる?」
セルシアとアシュリー、それからレインに向けてリネが問い掛けた。
恐らく別行動をしていた時に4人が見つけた言葉なのだろう。
正直ロアやマロンは意味が分からないという顔を浮かべている。自分もそうなのだが。
「……覚えてるぜ」
「【ネメシスの石を求め、俺達は旅に出る。
食料や船員は揃った。必ず石を手に入れて――……。】…だったわよね。内容」
「暗記してたのかよ…」
アシュリーの言葉にレインとセルシアが苦笑を浮かべる。
…だがイヴ達にとっては大助かりだった。ネメシスの石という単語が何処でどういう風に出てきたのか、アシュリーが暗記していてくれたお陰で何
となく分かった。
「それがどうかしたの?」
リネの隣に座って居るマロンが問い掛けた。その言葉に彼女が少し頭を抱えながら呟く。
「この本によるとね、イヴとペンダントとセルシアの腕輪に着いている白と黒の宝石。――アレがネメシスの石らしいのよね」
「…マジ?」
「本気(マジ)」
その言葉に思わずイヴとセルシアがお互いに顔を見合わせた。お互い顔は真っ青だ。
アシュリーが暗記してくれていた航海日誌の内容を信じるなら、ネメシスの石って伝説にも近い石よね…?
何でそんな物を自分とセルシアが持っているんだ。さっぱり意味が分からなくて頭が混乱した。

「どういう意味よ?」
レインが興味深そうに問い掛けてくる。
男の問いに対しリネが本を更に読み進めながら言った。
「この本に、石の特徴とかが乗ってるのよ。図解説も付いてるけど――ほら、似てるでしょ?」
リネがそう言って、隣に居るイヴに本を見せてくる。
彼女が開いているページにはペンダントと腕輪の図解説の様な物が乗っていた。
その図に乗っているペンダントと腕輪は――自分とセルシアが持っている物と全く一緒だ。
思わず頷いてしまった。
横からセルシアが顔を覗かせ、資料を確認し――やっぱり小さく頷く。

「じゃあ2人の持っているソレが、あの航海日誌に乗っていたネメシスの石なのか?」
「…分からないけど、多分そう」
溜息を吐きながらリネが本を閉じた。そしてもう1冊の資料に手を伸ばし、それを読み始める。
そちらの本もまたゲーリーンズ文字で書かれていた。解読はリネにしか出来なさそうなので彼女に解読を任せておく。

「でももしあたしとセルシアの持っているのがネメシスの石なら――幽霊船での出来事も、確かにちょっとは納得できるかも」
「…寄生虫を倒した時の事?」
アシュリーの問いにイヴが小さく頷く。
確かにもしこの石が本当に伝説のネメシスの石だというのなら、あの不可思議な出来事も納得できる気がした。
共鳴するように光っていたのは、お互いが引き合っていたからという事なのだろうか。
だがもしそうなら、どうしてもっと前にペンダントと腕輪は共鳴を示さなかったのだろう。自分とセルシアは割りと長く一緒に居た。
やはりあの幽霊船か寄生虫か、どっちかが何かの鍵となったのだろうか…。


「……駄目ね、これ以上の情報は無さそう」
暫く考えていると、リネがそう呟いて本を閉じた。解読を諦めたようだ。
「採取場所とかそういうのは書いてないのか?」
「全く無し。情報の収穫といえば、2人の所持しているそのペンダントと腕輪が伝説のネメシスの石って事だけ」
リネはそう言って2冊の本をまとめて、レインに手渡した。
彼女は席を立ち、腕を上に上げて軽くストレッチをする。大分集中して読んでいたから疲れたのだろう。


「じゃあ情報はふりだしか……」
セルシアがそう呟き、自身の右腕に填めた腕輪を強く握った。
確かに、これで情報はふりだしに戻ってしまった。
本にはこれ以上の情報は載っていないようだし……。
頭を悩ませていると、リネが何かを閃いたらしく口を開く。

「だったらこの近くの鉱山に行くのはどう?ネメシスの石も所詮は宝石類な訳だし、鉱山に行けば何か手がかりが在るかも」
…ちょっと無理矢理な理由な気がするが、彼女の言葉も一理ある。
それに今はそれ以外にする事が見当たらないので、そうするのが一番良いだろう。

「俺はリネっちにさんせー」
最初にレインが賛成の声をあげ、アシュリーとマロンが同時に頷いた。
「…ま、それしか情報も無い訳だしな」
そう言ってロアも賛成の意見を述べる。
セルシアと一瞬目が合った。彼が戸惑いながらも頷くので、自分も小さく頷く。
――とりあえずだが意見は一致だ。

「今日は遅いから、行くとしても明日だろ」
「そうね。じゃ、その本返して今日はもう宿屋に行きましょ。…ぶっちゃけ疲れた」


そう言って歩き出すリネを、イヴ達は追いかけ歩き出した。










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