翌日の朝。マロンも無事に回復し船は何とかカスタラに到着した。船の操縦士にお礼とお代を支払って、街の中をぶらぶらと歩き回る。
「とりあえずこれから如何するんだ?」
レインの問いにイヴが答えた。
「とりあえずcross*unionに戻るわ。…任務の報告、しないとね」


*NO,31...処方*


イヴの言葉に、セルシアが彼女の肩を叩いた。
「ん?何、セルシア」
隣を歩く彼の方を向く。セルシアが苦笑しながら言った。
「その前にちょっと寄り道して良いか?俺も任務終わらせないと」
「何?一回VONOS DISEに戻るの?」
「そうじゃなくて――…。感染病の治療だよ」
その言葉に、成る程、と思わず相槌を打ってしまった。
そうだ。彼の任務はグランドパレーの調査ってのも合ったがそっちが本題だったんだっけ。
マロンも少しだけ不安そうに此方を見ている。…マロンにとってはそっちの方が重大だしね。
「分かった。じゃあ来た道を通って帰りましょ。それならサンクティアも寄るし」
あの医者も困っていた様だから、早く薬の素材を持っていかなくては。
目的が決まった所で、少し早足で歩き出した。
「次、何処に行くか決まったの?」
アシュリーの問いにイヴが頷く。…そっか。あの時、アシュリーは居なかったから知らないのか。
とりあえず軽い経緯を説明した。サンクティアに発生したデスベリル病の事。それがセルシアの任務だと言う事。
説明すると彼女は頷いて、それから同じように早足で歩き出した。納得してくれたようだ。

「サンクティアに行くなら、メルシアの森を通って1日程度だな」
「そうね。どっかで休憩しながら行きましょ」
ロアの言葉にイヴが軽く頷いた。


* * *


そこから1日と数時間。とりあえずひたすら歩いた事だけは覚えてる。
時々森の中や草原で休憩を取りながら、ひたすらサンクティアを目指して――。
何とか、街に到着した。

…相変わらず酷い光景だ。草木は枯れ果て空は鴉が鳴いている。…って、前より不気味になってないか?コレ。
ちょっとだけ幽霊船を思い出して、身震いした。
「どうしたの?イヴ」
「…ううん。何でもない」
マロンの問いに首を横に振る。
そういえば、素材は全部リネが管理してるんだっけ。ちゃんと全部持ってるわよね…?
リネの肩を叩き、素材に着いて問い掛ける。
「当たり前よ。全部持ってるに決まってんでしょ。あたしが無くすと思う?」
「…全然思わない」
「そういう事よ」
リネの言葉に苦笑しながら答えると、彼女はそう言って前に医者と会った診察所を目指す。
相変わらず診察所だけが家から光を放っていた。…まだ生きている人居るわよね?まさかもう手遅れとか…。
ネガティブな事ばかり考えても仕方ないとは思ったが、そう思えて仕方なかった。
とりあえず一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、診察所のインターホンを押す。
暫くは静寂が続いた。…中から歩いてくる音が聞こえる。
扉を開けたのは前見た医師とは違う、薄桃のナース服を着た看護婦だった。
「どちら様ですか?」
看護婦の言葉にセルシアの肩をつつく。此処は多分セルシアが説明したほうが早い。彼の任務はコレな訳だし。
セルシアが少しだけ苦笑しながら前に立った。
「VONOS DISE副リーダー。セルシア・ティグトです。
この街の感染病を救う素材を集めてきました。この診察所の医師が、調合法を知っている筈です」
「ああ…貴方が!」
看護婦が目を輝かせる。うん、どうやら話は通じたようだ。良かった良かった。
看護婦が快く診察所の中に入れてくれた。中に入り、前案内された奥の部屋に入る。
だが奥に医者の姿は無かった。…もしかして遂にあの医者も感染病に掛かった、とか??
ちょっとだけそんな予感はしていたが――案の定そうだった。
「ごめんなさい。あの人最近感染病に掛かっちゃって、今奥の部屋で寝ているの。
…調合法の資料は此処にあるんだけど」
「それ、見せて」
リネが看護婦に向けて手を伸ばす。彼女はその言葉に調合法の資料をリネに手渡した。
資料を受け取ってから、彼女は必死に分厚い資料に目を通す。
こういうのはリネの方が得意そうだ。SAINT ARTSなら多分薬の調合系もやっているだろう。
暫くは資料に目を通す彼女をずっと見つめる。
無言の空気が漂う中、大体資料に目を通した彼女が一度机に資料を置いた。

「…出来そう、なのか?」
ロアの言葉にリネが溜息を吐いて――口元を釣り上げる。


「楽勝」

彼女のその言葉に、思わず全員で微笑んだ。
リネがその場を立ち上がり、看護婦に機材やら何やらを問い掛ける。…意味の分からない言葉ばかり聞かされて、頭が痛くなるかと思った。
看護婦が持ってきた白衣を着ながら、リネがこちらに言葉を投げる。

「正直居ても邪魔だから、手前の部屋で待っててくれない?直ぐに終わるから」
…確かに居ても邪魔そうだ。助手ならあの看護婦に頼めば良さそうだし、素材は全てリネが持っている。
大人しく部屋を出て1つ前の待合室に座って待つことにした。
奥でリネと看護婦の話す声が時々聞こえる。調合は多分上手く言ってるだろう。多分だけど。

「直ぐ終わるって言ってたけど、直ぐって何時よ」
レインがソファーの上で胡坐を書きながら言った。…行儀悪いにも程があるだろ。
何時もなら殴って彼を静止するリネが居ないので、彼女に代わってイヴがレインを殴る。
「…まあ、リネなら失敗するなんて事ありえないと思うし、割と直ぐ終わるんじゃないか?」
レインの言葉に苦笑を浮かべたロアが答える。
…確かに、彼女は楽勝とか言って余裕の笑顔を浮かべていたし、間違っても調合を間違える事は無いだろう。
直ぐに終わることを願って、近くのソファーに寝転がる。

「お前も相当行儀悪いぞ、イヴ」
「煩い」
ロアの言葉に軽く怒って、目を閉じた。
此処まで結構歩いたし、最近は色々なコトが合って正直疲れた。
アシュリーとマロンも既にソファーで座りながらお互い寄り添う様に目を閉じている。皆考えることは同じのようだ。
セルシアに関しては待合室に置いてある本を先程から捲っているが、ちょっと眠そう。時々欠伸をしている。
多分その内全員寝るな。
リネが起こしてくれる事を期待しながら、浅い眠りに落ちて行った。



* * *




「……」

どの位眠ったのだろう。
目を擦りながら起きると、既に辺りは暗くなっていた。
慌てて起き上がり、回りを確認する。
アシュリーとマロンは相変わらず熟睡。お互い寄り添う様にして眠っている。
とりあえず傍に誰かが居て安心した。それから闇に目を慣らしながら辺りをじっくりと見つめて見る。
ロアがアシュリー達と同じようにソファーに持たれながら眠っていた。やっぱりコイツも寝たか。
本棚の方ではセルシアが壁に凭れて眠っている。彼も最終的には寝てしまったようだ。
暫く部屋を見ていたが、レインとリネの姿が見えなかった。
奥の部屋から既に明かりは消えている。…ところで今何時だ??
立ち上がり、待合室の奥にあった時計を確認する。…午後20時。相当寝てしまった様だ。
レインとリネは何処に行ったのだろう。とりあえず探してみなくては。
まずは奥の部屋の扉を開けた。リネと看護婦が調合をしていた部屋だ。
其処に既に人気は無かった。机の上にリネが着ていた白衣が置いてある。という事は、調合は上手く言ったようだ。
だが回りは灯りが消えている。…病院には居ないのか?
待合室に戻り、外に出てみた。暫く外を歩いてると遠くから声が聞こえる。…リネ、とレイン?
分からないが、とりあえず声のする方に向かって歩いてみた。
やがて2つの影が見える。…リネと、看護婦だ。

「あら、イヴ。よく寝てたわね、おそよう」
こちらに気付いたリネが、皮肉っぽく言った。
「……何で起こしてくれなかったのよ」
「3回くらい起こしたわよ。起きない方が悪い」
そう言うリネの手には、幾つかの小瓶が握られている。

「それが薬?」
「はい。そうです」
イヴの問いに隣に居た看護婦が答えた。彼女もまた幾つかの小瓶を持っている。
「さっきまで感染した人に薬を配ってたのよ」
「もう全部配ったの?」
「ええ。多分明日には元気になるわ」
リネがそう言ってその場を立ち上がる。
恐らく此処に座っていたのは少し休憩していたからなのだろう。
看護婦も少し遅れて立ち上がった、3人で病院に向かって歩き出す。

「レインは?」
そうだ、肝心のアイツを忘れていた。リネはとりあえず見つかったけど、レインは何処に居るんだ?
「は?レイン??知らないわよ。寝てるんじゃないの?」
リネから意外な言葉が帰ってくる。…てっきり一緒に居るのかと思っていたが、どうやら違ったようだ。
じゃあ何処に居るのだろう。病院内で見落としていたのだろうか。
とりあえず一度リネ達と病院に戻った。病院に入ると待合室に明かりが灯っており、セルシアとマロンが目を開けている。…ロアとアシュリーはま
だ寝ているようだった。そしてレインの姿が相変わらず無い。

「…ね?」
リネに同意を求めると、彼女が不思議そうに頷いた。
「あたし達が此処を出るときは寝てたのに…?」
リネが不思議そうに呟く声が聞こえる。…ちょっと、じゃあアイツは何処に行ったのよ??
溜息を吐くと同時、隣の部屋からひょっこりとレインが顔を覗かせた。
「ちょっと、何処に行ってたのよ、アンタ」
イヴが問い掛けると、レインが苦笑しながら答える。
「そりゃ、アレだ。トイレ」
「……あっそ」
何となく理解したからそのまま彼の傍を離れた。
確かに看護婦の話を聞いた限りでは、レインが顔を覗かせた扉の奥は廊下になっており、その突き当たりがトイレらしい。廊下の電気を点けずに
歩いていたのだろう、トイレの灯りなんて見えるはずも無いし。

「何処行ってたの?」
「患者に薬配ってた」
マロンの問いにリネが答えた。
彼女はそのままロアの頬に思い切り平手打ちをする。…うん、痛そうだ。
反動でロアが飛び跳ねるように起き上がった。
「…って、リネか」
「あんた何時まで寝てる気よ」
そんな彼女に苦笑しながら、イヴがアシュリーの肩を軽く揺する。
彼女が小さく目を開けた。浅い眠りだったのが幸いだ。彼女は目を擦りながら起き上がる。
とりあえず全員起きた所で、改めて看護婦が微笑んだ。
「本当に有難う御座いました。お礼と言ってはなんですけれど…よければ今日は此処に泊まってください。部屋は2階に在りますので」
「…じゃあ、そうさせて貰うわ」
近くに隣町は無いし、此処以外で寝るとしたら野宿になってしまう。感謝しながら肯いた。
看護婦に案内され、待合室の扉を開けた先に広がる階段を登る。
登って廊下に出てから、看護婦に案内された部屋にそれぞれ入った。
丁度7部屋あるらしく、1人1部屋貸してくれるらしいので快適だ。
案内された部屋の、一番奥からレイン、アシュリー、リネ、セルシア、ロア、マロン、そしてあたし。
ベッドも大きいし本気で文句無し。寧ろこんな所にタダで泊まっていいのか?
とか思いつつも、ベッドにもぐって再び眠りに着いてしまった。










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