風によって切り刻まれた体が修復され、剣と戦輪で切り裂いた場所が回復し、噛み千切られた触手の腕が元通りくっ付いている。 …コイツ、まさか本当に不死身?! そういえばマロンが訳してくれた日記の一部に‘奴は不死身だ。絶対に死なない’とか書かれてたっけ…。 少なくともこの船の船員達はコイツを倒す方法が見出せなかったんだ。そんな方法を自分達が見出せるのだろうか? とりあえず、自己再生により攻撃の全てはブロックされてしまう事は分かった。 ならその自己再生を封じてしまえばいいのだ。…どうやって封じるかなんて分からないけれど。 *NO,29...Light* 「血塗られた悪魔が笑う、狂気の茨姫(アラトスク)――。ブラックチェイン!」 対策を必死に考えながら寄生虫の攻撃をかわすイヴの後ろ――廊下で常に援護に回るセルシアが、腕を振り上げ振り下ろした。 ブラックチェイン。――確か、一時的に相手の動きを封じる技だ。 案の定そうだった。触手と寄生虫の周りに鎖が絡みつき、一時的にだが寄生虫の動きを止める。 「今の内に!」 「オッケー!!」 再び部屋の中に足を踏み入れ、寄生虫の口の様な場所に魔弾球を投げ付けた。それから腹辺りを剣で刺して、一歩後ろに引き下がる。 寄生虫が悲鳴を上げるが――余り効果は無いようだった。 何故なら直ぐに自己再生をされて傷が塞がれてしまったからだ。 舌打ちをして、再びその場を離れた。…本当に如何すれば勝てるんだ?この敵。 「イヴっち、考え事してるならバトンタッチ」 そんな中レインがそう言って親指を立てて笑う。…正直、笑顔が引きつっていた。 流石に皆長時間船を捜索していた事も合って疲れてる。 でも今更引き下がる訳にも行かないし…早くコイツを倒す方法を探し出さなくては。 レインとバトンタッチをしてリネの詠唱を邪魔させないように触手を薙ぎ払いつつ、必死に頭を回転させた。 「セルシア!後ろ!!」 そんな中彼の後ろに触手が回りこむのが見える。 声に反応したセルシアが咄嗟に此方に体を投げてきた。間一髪で触手からの攻撃を逃れたセルシアが、深く溜息を吐く。 「ありがと、イヴ」 「さっきのお礼よ」 彼のお礼に笑って返したが、正直上手く笑えてるかは微妙だった。笑うだけでもしんどいし、身体に疲れが表れ始めている。 「…弱点、見つかりそうか?」 そんな中で触手と小さな毒々しい寄生虫を戦輪で切りつけながら、セルシアが言葉を投げて来た。 その言葉に首を横に振る。 「……正直さっぱり分からないわ。皆疲れてるし、早くどうにかしないといけないけれど…」 そうだ。早くどうにかしないと行けない。だが焦りと苛立ちが浮かぶだけで弱点はさっぱり分からなかった。 どうしよう。どうすれば倒せる?? 普通に攻撃するだけじゃ駄目なのは分かっている。自己再生を封じてしまえば良い事も分かっている。だがそれ以上が分からない。 「全てを焼き払い凪ぎけ、地獄の業火よ。――デスブラッシャー!!」 その後ろで詠唱をしていた彼女が、腕を振り下ろした。 それと同時に炎の槍が寄生虫の本体に降り注ぐ。 だが最早魔術は何も効いていない様だった。 恐らく傷ついてはいるのだろうけれど、一瞬で回復されてしまうので此方からは無傷の様に見える。…というか結果的に向こうは無傷だ。 「っ――!!」 舌打ちをしたロアとレインが左右から切りかかろうとして触手に吹っ飛ばされるのが見えた。 彼らの体は壁に張り付いている触手にぶつかり、倒れこむ。 幸い2人共直ぐに起き上がってくれたが正直限界そうだった。 対するアシュリーの方も、既に変化から人間の姿に戻っている。専属魔術でどうにか寄生虫を取り押さえようとしている様だが先程のリネが放った 魔術同様。全く効き目を持っていなかった。 …流石に、冷や汗を掻いた。 これ、本当にヤバい。 対処法も見つからないし、倒し方さえも分からない。 寄生虫は不死身っぽいし、回復術師であるマロンは未だ気絶したままで誰も回復が出来る人間が居ない。 そして自分も少しだけ目が霞む。…ねえ、これって本当にヤバいんじゃない……? 壁に凭れて、触手を切りつけた。 触手の群れを一時的に追い払ってから頭を抱える。…駄目だ、疲れの所為か目が本気で霞んできた。 「大丈夫か?」 「…平気よ」 セルシアの言葉に、再び前を向いて触手の群れと退治する。 リネの方は既に詠唱は諦めたのか、腰に刺してあったナイフを触手に投げ付けて居る。 自分も彼女の加勢に出ようと剣を振るうのだが、焦点が上手く合わなかった。 体力の限界はとっくに過ぎているが、此処で倒れたら待っているのは死だ。 此処で死ぬ気なんて絶対に死んでも嫌だ。あたし達は生きて此処を出るんだからっ!!! せめてマロンだけでも起きてくれれば怪我の介護が出来るのだが…。 寄生虫を倒す方法の前に、彼女の傍に辿り着く方法を考えることにした。 「ねえ、セルシア。もう一度だけ‘ブラックチェイン’って使えない?」 「……良いよ。やってみる」 セルシアはその言葉に頷き、其処から一歩引いてリネのほぼ隣の位置で詠唱を始める。 とりあえず寄生虫の動きを止めれるのは今の所この魔術だけだ。 彼に寄生虫を取り押さえてもらっている間に本体の間を通り抜け、マロンの傍まで走る。 彼女の傍に寄る事さえ出来れば良い。安否を確認して、彼女を気絶から起こさなくては。 そう思い剣を再び振るおうとして――。 「っ――!!」 しまった。本気でそう思った。 前から来る敵と横から来る敵にしか注目していなかった。背中はセルシアとリネに任せきりだった。…それが裏目に出た。 足元にはがっちりと触手が絡み付いている。身動きが取れないばかりか、段々締め付ける力が強くなってくる。 「イヴっ!」 気付いたリネが触手にナイフを投げた。 だが可笑しい事に触手がナイフを弾き返す。…先程まで貫通していたのに!? セルシアが詠唱を中断して、戦輪を投げ付けた。だがやはり触手は切れない。戦輪を弾き返し、床に転がらせる。 何を考えたのか自分でも判らないけれど、無意識の内に手を伸ばしていた。 セルシアがその手を掴む。それからもう1つの戦輪を投げようとして―――。 「っ――!!!」 「な…っ?!」 2人で同時に驚いた声を上げてしまった。 「なに…っ?!」 傍に居たリネが少し遅れて驚きの声を上げる。 そして‘ソレ’に気付いた部屋に居る3人も又、無意識の内に動くのをやめていた。 「セルシア!イヴ!!」 ロアが呼ぶ声が聞こえる。 …何が起きたのか、自分でも判らなかった。 唯あたしは手を伸ばしただけ。それをセルシアが握り返しただけ。 本当に、それだけ。他には何もしていない。 それなのに突然眩い光が2人を中心に展開し、一瞬光が船内を強く包み込んだ――。 …暫くは眩い光の所為で目を瞑っていたので、何が起きたのか分からなかった。 だが徐々に光が収まってきて、目が開けれるようになる。 セルシアの顔を見るが彼もまた訳が分からないといった、混乱の顔を見せていた。 そして光が止んだ頃、寄生虫に‘変化’が起きる。 先程まであんなに活発に動き、自己再生を繰り返していた寄生虫が――全く動いていなかった。 先程まであんなにきつくイヴの足を締めていたはずの触手も、だらりと伸びたまま動かなくなっている。 そして肝心の寄生虫本体は――全く動かなかった。 レインが試しに槍で寄生虫をつついてみるが、全く反応が無い。そればかりか前へ倒れてきた。 まさか…死んだ?! 思わずセルシアと顔を見合わせる。一体何が起きたの?! 「あんた達…何したの?!」 傍に居たリネが唖然とした顔でイヴとセルシアに問い掛ける。 「あ、あたし達だって分かんないわよ!!」 「唯イヴが手を伸ばしてきたから…その手を握っただけ。本当にそれだけだ」 セルシアが強張った声で答える。 そんな中――お互い、ある事に気付いた。 「セルシア、あんたその腕――?」 「…お前こそ、どうしてペンダントが…?」 本気で何がなんだかよく分からない。 ――あの大きな光の後。イヴの付けていたペンダントに付けられた白の宝石と、セルシアの右腕に填められた腕輪に付けられている黒の宝石が、 共鳴するように輝き続けていた。 先程の光の原因はどう考えもこの2つの宝石だ。お互い呆然としたまま動けなかった。 確かにお互いのペンダントと腕輪には同じような紋章と色違いの宝石が飾られていたが――だからって、こんな小さなアクセサリーにあんな凶悪 な寄生虫を静まらせる力が眠っていたというのだろうか…?にわか信じがたい話だ。 武器をしまったロアとアシュリーが此方に掛けて来る。レインは遅れてマロンを抱えてやってきた。 「イヴ、セルシア。お前等今何した…?」 「だから…知らないってば!!」 ロアの言葉に声を震わせながらイヴが答える。 だって、知らない物は本気で知らないんだから仕方ないじゃない。 第一自分は無意識とは言えセルシアに向かって手を伸ばしただけで、他には特別何もしていない。 対するセルシアだってそんな自分の手を握り返してくれただけで、それ以外は何も無い。 それなのにお互いの手を握り合った瞬間。確かにこの2つの宝石が光り輝いて――この船内を一瞬包み込んだ。 そして、光が収まった頃にあの寄生虫は死んでいた。それだけだ。 「…リネ。これって何なの?そんなに凄い宝石な訳?!」 「……此処じゃ何とも言えないわ。薄暗いし、見にくいからね。 …一旦船を出ましょ。話はそれからでも十分間に合うわ」 リネはそう言って、その場を立ち上がる。 …確かに彼女の言葉は一理有る。 それに自分達だってもうクタクタだ。早く船に行って休みたいのが本音でもある。 リネの言葉に賛成して、その場を立ち上がった。 歩き出すリネとセルシアを先頭に、アシュリーとレインがその場を歩き出す。 「ねえレイン。マロンは?」 「へーきへーき。ちょっと気絶してるだけみたいよ」 マロンを抱えたままのレインがそう言って笑った。 彼はそう言ってアシュリーの横を歩いて今来た道を戻っていく。 「…行くか?」 「……ん」 ロアの言葉に小さく頷き、その場を歩き出した。 ――何時の間にか、胸のペンダントが光を無くしている。 本気で今のは何だったんだろう。そしてこの宝石…一体どうしていきなり輝きだしたりなんてしたんだろうか。 セルシアの手を握ったのと、何か関係があるとするのなら…。 色々考えたけれど、頭が痛くなってきたので結局は止めた。 考えるのは船に戻ってからにしよう。とりあえず今は疲れた。 ロアの隣を歩きながら、イヴは強くそう思った。 BACK MAIN NEXT |