階段から慎重に1階へと駆け上がる。 やがて1階に出たが、這いずり回る音は聞こえなかった。…大丈夫、居ない。 ゆっくりと廊下に出て、地図を確認する。 全員が階段を上がった事を確認して、その場をなるべく急ぎ足で歩き出した。 *NO,27...狂気の毒蜘蛛* 「ホントにこの階にもう居ないの?」 「分からない。1階上に行ったかも知れないし、あたし達と入れ違いで下に行ったかも知れない」 レインの問いにイヴが頭を悩ませながら答える。 …確かに。寄生虫の登場の仕方は少し不定期な物があると感じた。 何時の間にか前に居たり、後ろに居たり…。もしかしてあの寄生虫、ワープとか出来るんだろうか。 だとしたら相当厄介だと思ったが、直ぐにワープは出来ないと思った。 何故なら本当にワープが出来るのなら、今頃どんなに逃げても追い回されている筈だからだ。じゃあワープは違うのか。 なら何処か一定の場所でワープするのだろうか? …それはありえる様な気がする。ポイントみたいな場所がそれぞれいろんな場所に合って、階段を使わずそのポイントへワープしているのではない だろうか。 どの道想像するだけでも不気味なのでこれ以上考えるのは止めた。今はリネを救う事と、マロンを探す事だけを考えよう。 そうして備品庫の前まで無事辿り着く。 扉に手を掛けたのはセルシアだった。心配する気持ちだけが先走っている様だ。 慎重に開ける事を促した。彼は小さく頷いて、扉をゆっくりと開ける。 …相変わらずリネはあのままで放置されていた。 だが彼女の傍にはあの蜘蛛が居る。ゆっくりとだがリネに近付いているようだ。…これは危ない。 「アシュリーっ!」 「…大丈夫。このくらいなら、直ぐにどうにか出来る」 そう言って彼女がゆっくりと瞳を閉じた。 足元には普段の詠唱に使われる五芒陣ではなく、六芒陣の魔法陣が浮かび上がっている。 「――Release」 言霊を呟いた彼女の足元の陣が、共鳴するかのように光り輝く。その途端巨大な蜘蛛の巣がぼたぼたとロウの様に溶けて床に落ちた。 床に落ちた巣だった物は、やがて空気に蒸発するように消えていく。 そうしてリネの体が蜘蛛の巣から解放されて落ちると同時――あの巨大な蜘蛛も下に落ちてきた。 「ちょ…ちょっと……アシュリー…?」 「蜘蛛だけ落とさずになんて器用なこと。私は無理よ?」 「……」 …彼女には何も突っ込めそうにない。溜息を吐いて剣を抜いた。 「ああもう、結局はこうなるのね!!」 叫んだと同時に、蜘蛛がかなり早いスピードで此方に走ってきた。 セルシアがその場をすり抜けて蜘蛛に向かって戦輪を投げる。だが相手も早い。ギリギリの所でかわされてしまった。 …せめてリネの方に寄りたいのだが、どうにも蜘蛛が通してくれそうに無い。 彼女の容態が知りたいのだが、それもこの蜘蛛を倒してからになってしまいそうだ。 しかし船を徘徊する寄生虫に気付かれずに戦わなくてはいけない。…なんか、一気に不安になってきた。 魔弾球は投げれないので、仕方なく剣で蜘蛛に切りかかった。 迅速に動く蜘蛛を目で捉え剣を振るうが、呆気なくかわされ此方に向かって蜘蛛の糸を吹きかけられる。それをぎりぎりでかわしきった。 あの糸に捕まるとヤバいに違いない。それこそジ・エンドだ。 「足が長いから毒蜘蛛っぽそーね」 苦笑してそんな事を言いながら、レインが槍を取り出す。 「そんなアホな事言ってる場合があったら手伝え!!このアホ!!!」 蜘蛛が再度吹きかけてくる糸を間一髪でかわしながら、レインに向かって大きく怒鳴った。 「お前…あんま大声だすと寄生虫が来るぞ?」 「その時はあんたが寄生虫の生贄になりなさい」 「…ホント容赦ねえな。お前」 ロアが苦笑しながら双剣を持って此方に走り出す。糸を切りつけて、蜘蛛本体に切りかかった。 一瞬だけ蜘蛛の動きが止まる。…その隙にアシュリーがその場をすり抜けて、どうにかリネの方まで到達した。 リネの事はとりあえずアシュリーに任せよう。今はこの馬鹿デカい蜘蛛の処理方法を探すのが先決だ。 蜘蛛の糸を弾いて蜘蛛と取り押さえようと槍と振るうレインの横。 セルシアが戦輪を右手に持って小さく言霊を呟いている。 「――天の歌声、高く輝き悪を貫く」 「ちょ、セルシアっ!!まさかこんな場所で魔術使う訳じゃないでしょうね?!」 「大丈夫、規模の小さい物を選んだから!!」 「こんの…アホ!!!!」 こんな場所で魔術を使ったらソレこそ自殺行為だ。 船が大分傷んでるという事もあるが、寄生虫に気付かれたらどうしてくれるんだ。 どうにかセルシアを食い止めようとしたが無駄に終わった。高く振り上げられた腕が勢い良く振り下ろされる。 「――ホーリーグランド!!」 五芒陣が足元で光り輝き、天井ぐらいから蜘蛛に向けて光の矢が降り注いだ。 上から隙間なく降り注ぐ矢に蜘蛛は逃げ場を失い、攻撃が直撃する。 其処にすかさず左右からレインが槍を、ロアが双剣を振るった。 ――蜘蛛がもがき苦しみながら、その場に倒れこむ。 最初は足をばたつかせていたが、やがてその巨体は色を無くした様に変色していき、完全に動かなくなった。 動かなくはなったがやっぱり怖いので、念の為もう一度剣を突き刺しておく。 …うん。大丈夫。もう完全に動かない。 それを確認してから剣を蜘蛛から引き抜いて――セルシアを睨んだ。 「……セルシア、あんた…ねえ?」 「…蜘蛛は倒せたし、結果オーライって事で…駄目?」 苦笑して自分から後ずさるセルシアを思い切り殴る。 幸い寄生虫は気付いていないのか何なのか知らないが此処に来ていないから良いけれど、もし此処にきたらどうしてくれたんだ。このアホは。 溜息を吐きながら剣を終い、アシュリーとリネの方に寄った。 アシュリーも多少なら回復術が使えるのか、リネに小さな光を当てている。 「それ、回復術?」 「…よりは威力が弱い補助術に近い物。…無いよりはマシだと思ったから」 彼女はそう言ってリネに微弱の光を当てている。…確かに、無いよりはマシそうだ。 槍を閉まったレインが此方に寄って来た。少し遅れてロアとセルシアが走って傍に寄ってくる。 リネはまだ起きそうになかったが、アシュリー曰く外傷はそんなに無いらしいのでとりあえず安心した。 彼女の回復が進んでいる間に、近くに座って地図を確認してみる。 残るはマロンだ。 …寄生虫に連れ去られてから、彼女の姿だけは全く見ていない。無事で居てくれれば良いんだけれど……。 心配になって溜息を吐いた。 「…マロンか?」 そんなイヴにロアが問い掛ける。 「……」 イヴは答えずに、ずっと地図を見つめていた。 喉の奥が熱い。こみ上げてくる言葉を涙を無理矢理堪えて地図を見つめ続けた。 「…直ぐに見つかるよ。大丈夫だって」 優しさなのか何なのか。セルシアがそう言って笑う。 その気持ちは嬉しかったけど、今喋ると涙声になりそうだったので頷いて終わった。 「……っ…」 地図を見つめ続けていると、リネが小さく声を上げた。 彼女の方を見ると、リネが薄く目を開いている。…どうやら気が付いた様だ。 「リネっ!」 先程まで傍に居たセルシアが彼女の傍に走り寄った。 …自分もマロンを凄く心配してるので、その気持ちは痛い程分かる。 「…セ、ル…シア…?」 アシュリーの手をかりてその場から何とか起き上がった彼女が、小さく呟く。 「…良かった。無事なんだな」 セルシアはそう言って、嬉しそうに笑った。 大分意識が戻ったらしいリネが、一瞬微笑む様に頬を攣り上げたが――直ぐに顔を真っ赤にしてセルシアから目を逸らす。照れている様だ。 「リネ?」 「…あ、あんたは…平気、なの…?」 「……平気。有難う」 「……」 リネは少し黙り込んでから、その場を立ち上がる。 頬を赤く染めたまま、皆から離れているイヴとロアの傍に近付いた。 「本当に平気なの?」 「平気よ。…それより、マロンの姿が見当たらないみたいだけど?」 「……」 リネの言葉に思わず固まってしまった。 「リネ」 そんなイヴの代わりにロアが答えようとするが、それをイヴが止める。だがそれからイヴはまた黙り込んだままだ。 そしてそんな彼女の態度に、リネも悪い事を言ってしまったと思ったらしい。 「…ごめん。聞かないほうが良かったわね」 「……ううん」 リネの手を借りてその場を立ち上がる。 そんな彼女の傍にアシュリー達もやってきた。 「イヴ。地図貸して」 アシュリーに手を伸ばされ、その手に地図を置く。 彼女は地図を一通り見回すと、それからゆっくり目を閉じた。 「分かるらしいぜ。マロンちゃんの居場所」 呆然としたままのイヴに、レインが笑って答える。 …場所が、分かる?思わずアシュリーを見つめてしまった。彼女は目を閉じたまま地図を指でなぞっている。 そして、一箇所で彼女の指が止まった。 そのまま目を開き、言葉を発する。 「…此処に、居る」 彼女が指差した所は――船の最深部だった。 部屋数の少ない地下3階の、応接間と書かれた大きな部屋。 「此処から下まで行けるみたいだぜー?」 レインが備品庫の奥の扉を指差す。 …つくづく変な船の造りだと思った。階段は1箇所にまとめればいいのにと思う。 だが近くに階段があるのなら好都合だ。 「有難う、アシュリー」 アシュリーにお礼を言うと、彼女が喜んで頷く。 そして彼女から地図を受け取り、レインの指差した階段のある扉へ歩き出した。 BACK MAIN NEXT |