泣いている暇何て無い。そんな暇が合るならリネを助ける方法を探して、アシュリーとレイン、そしてマロンを探さなくては。
3人は無言で船内の地下二階を歩いていた。ランプが所々壊されている。…地下一階以上に不気味だ。慎重に廊下を歩き続けていると――。
「っ――右だ!!」
セルシアの言葉に、咄嗟にロアとイヴが左側へ逃げた。そしてセルシアの指示に合った‘右側’を確認する。
「……あんたもセルシアとおんなじパターン?レイン――」
目の前に立っていたのは前のセルシア同様、古びた短剣を握るレインの姿だった。


*NO,26...救出*


その瞳はあの時のセルシア同様、虚ろめいている。――間違いない。寄生虫が寄生しているんだ。
さて、今回はどうやって寄生虫を剥しとってやろうか。マロンが居ないので前回同様矢で刺す事は不可能だ。
「え…レイン??」
状況を読み込めていないセルシアが小首を傾げていた。
そんな彼の腕をロアが引っ張り、レインとイヴから遠ざかると事情を簡単に説明する。
「イヴ!」
セルシアに事情を説明し終えたロアが彼女を呼んだ。イヴが振り返ると同時、彼が此方に何かを投げる。
それを慌てて受け止めると――それは短剣だった。
「…ありがと!使うわ!!」
鞘から短剣を抜き、レインの方に向かって走り出す。初めに首周りを確認したが寄生虫の姿は無かった。
今回は別の場所に寄生している様だ。ま、毎回毎回首な訳無いか…。
レインのアッパーをかわして、二撃目に入る。
なら何処に寄生しているんだ?…次に怪しい場所である手首を見た。
――居た。古びた短剣を持っている、右手の方だ。紫の毒々しい寄生虫が寄生している。
となるとまずは短剣を薙ぎ払わなくては。
レインの拳をかわして、一旦その場を離れた。
どうやって短剣を落とさせようか。やはりアッパーでも食らわせて怯ませるしかないか……。
レインには悪いけどこうでもしないとあんたが元に戻らないんだから許してよね。
心の中でそう思い、一度短剣を閉まったと同時――目の前で戦輪が鮮やかに孤を描いた。
鮮やかに孤を描いた戦輪は、上手いことレインの持つ短剣に衝突し短剣を落とさせる。――今の、セルシアだ。間違いない。
「ありがと!セルシア!!」
お礼を述べて、一気にレインの方に走り寄った。その横を戦輪の輪がすり抜けていく。
アッパーと拳をギリギリでかわし、右手に寄生する寄生虫に短剣を突き立てた。
寄生虫が前と同様に悲鳴を上げて床に転がり落ちる。…やった!!
だが同時にレインが前に倒れて来る。…ちょ、待て。流石にレインは支えれる自信が無いぞ?!
勿論の如くレインに巻き込まれて後ろに倒れこんだ。


「いたた…」
ぶつけた頭を摩りながら起き上がる。そんなイヴにロアとセルシアが慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫か?」
「……大丈夫よ」
ロアの手を取りその場を立ち上がる。
セルシアがレインの体を起こして様子を伺っていた。…暫くしてレインが目を開ける。

「っ……此処、は?」
「船内よ。…平気?レイン」
セルシア同様に回復術を掛けて上げたい所だが、回復術師である彼女が居ない以上それは出来ない。
というか、回復術を使えるのが今のところマロンだけというのがちょっと問題だったかなと思った。術系の得意なリネかセルシア辺りに、少しは回復
術を覚えてもらった方が良いかも知れない。
「……イヴっち?」
意識が戻ってきたのか、体を起こしながらレインが呟く。
その瞳は正常の瞳に戻っていた。…うん、どうやらもう大丈夫そう。
「平気みたいね」
「…ちょっと適当じゃない?それ」
「そんだけ口が聞ければ大丈夫よ」
レインの言葉を軽くかわして、周りを見回した。
――這いずり回る音は聞こえなかった。大丈夫、奴はまだ此処へ来ていない。
安堵の溜息を吐いて、ふと後ろを振り返る。


「――!!」

思わず体が痙攣してしまった。
後ろには何時の間にか人影が有る。…誰よ、こんなふざけた遊びで自分をびびらせた奴は。
顔を覗き込んで――やっぱり体が痙攣した。




「アシュリー?!」

「…久しぶり」

後ろに立っていたのは紛れもなく彼女だった。…ちょっと、何時から其処にいたの?!
彼女の手には小さな懐中電灯が握られている。…まさか今まで一人でこの船歩いていたとか、言う?

「…今までずっと一人で船内歩いてたの?」
「……うん」
びくびくしながら問い掛けるが、彼女は平然と答えを返した。
やがてセルシアとロア、レインも彼女が居る事に気付き一瞬驚きの顔を見せる。…そりゃそうよね。さっきまで居なかったのに急に現れるんだし。

「でもレインと俺、リネは船内の寄生虫にやられたんだぜ?アシュリーは平気だったのか?」
「…船に入った時、念の為自分に補助術掛けておいたから……」
…そういう事を、どうしてリネ達にも伝えなかったのだろうか。時々彼女は天然で抜けてる所があると思う。
それがアシュリーだから今更どうこうしろとは言わないし、船の危険性をなめていた自分達も悪いと思うけれど。
「ちょっとアシュリーちゃん。何で最初に言ってくれなかったのよ」
「…補助術は自分自身にしか掛けれないし…私も念の為程度でしか掛けてなかったから…」
そう言って彼女は懐中電灯をイヴに手渡した。
…つまりアシュリーは4人で船を捜索する前に、自身にだけ補助術を掛けていた。
だから寄生虫が襲ってきた時も気絶程度で済んだのだろう。補助術の掛かってた彼女に寄生虫は寄生出来なかったに違いない。多分。
で、気絶から回復したアシュリーは単独で私達を探し回ってた…と。

何となく事情は読み込めた。
確かに補助術を掛けていれば寄生虫の攻撃を防げる確率も高い。リネを捕らえているあの巨大な蜘蛛からも補助術が守ったのかも。


「ねえアシュリー。ウルフドール専用系の魔術に、解除とかそういう系はある?」
此方としても無事で合った事は嬉しいので良いのだが、彼女を見つけたからには早くリネの所に戻らなくては。
とにかくリネに関しては時間が無い。
…流石にまだ大丈夫だと思うが、油断していて手遅れなんて事になったら本気で洒落にならないのでそういう意味も込めて彼女に問い掛けた。
「?…有るけれど」
不思議そうな顔をしたアシュリーが、問いに対し肯定の返事を返す。
「リネがちょっと大変な事になってんのよ。…あたし達じゃちょっと助けれそうになくてね」
「…分かった。…でも、それって何処?」
「1階の備品庫」
そう言って上を見上げるが…ちょっと不安だった。もう寄生虫は階を移動してくれただろうか。
とりあえず今来た階段を降るのは余りにも危険すぎる。
別の階段を探すしかないか。
そう思い服の内に閉まった地図を取り出した。他の階段は無いだろうか。

「それ、地図?」
体調は大分整ったのか、セルシアの手を借りて立ち上がったレインがイヴに問い掛ける。
「そうよ」
簡単に返して、地図を食い入る様に見つめた。
地下2階の地図をくまなく見つめる。アシュリーが持っていた懐中電灯のお陰で大分地図は見やすかった。
「これ、上行きの階段じゃね?」
そんな中ロアが今来た階段と別の階段を指差す。…確かに、1階の同じ場所にも階段があるので上行きっぽい。
備品庫から少し遠い場所に出てしまうが先程の寄生虫に遭遇するよりは幾分かマシだろう。


「じゃ、此処から行きましょ」
地図を見ながら、イヴはその場を歩き出した。










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