「セルシアっ!!」
嬉しそうに近付くマロンを、イヴが慌てて食い止める。
「ちょっと待ってマロン!…様子が、可笑しい」
…何故先程から構えたその短剣を下ろさない?――明らかにセルシアの態度が可笑しかった。
第一彼、短剣使いじゃない。戦輪と魔術を主体で戦う男だ。…やっぱり明らかに可笑しい。
お互い動かずに警戒を続けると――先にセルシアの方が動き出した。


*NO,24...一人目*


「ちょ…セルシア?!」
行き成り斬りかかられ、慌てて剣を抜いて太刀打ちした。
剣を合わせて初めて気付いたが彼の瞳が何処か虚ろめいている。凛としていたフリージアの花色の様な瞳が、今は何処か濁った様に感じた。
「イヴ!!」
声を掛けられ、反射的にその場から身体を後ろに引く。
――ロアの言葉で直感的だが動いて良かった。先程自分の居た場所に氷が生まれ、砕け堕ちていた。…氷の魔術だ。

「これ本物だと思う?偽者だと思う??」
彼の傍によりながら、ロアに問い掛ける。その問いに少しだけ考えた顔を見せた彼は暫く沈黙し、答えを導き出した。
「本物な気がするな。…剣の振り方が素人ぽいし、誰かに操られているみたいな感じがする」
「…その言葉信じるわよっ!!」
彼の傍を離れ、二撃目に入る。左からセルシアの後ろに回り込んで背中にアッパーを食らわせてやろうと足を上げた。
そして――気付く。
やっぱりこれは本物だ。だって、その首元には――。

アッパーをするのを止め、空振りで床に足を下ろす。
それからセルシアの二撃目の攻撃を交わして一旦その場を離れた。そして呆然としたままのマロンの傍に寄る。
「ちょっと、矢貸して」
「え……矢…って、弓矢の?」
「それ以外に何があるのよ…。ほら、早く」
「う、うん…」
イヴの言葉にマロンが懐から矢を一本出して、彼女の手にしっかりと握らせた。
「ちょっとコレ持ってて!!」
矢を受け取ったイヴがマロンに剣を預け、再びセルシアに向けて走り出す。
「ちょ…お前、何する気だよ!!」
双剣を構えたロアが愕然とした顔をしていた。
勿論セルシアは此方に向かって三撃目を切りかかってくる。やはり素人らしさが残っている為、簡単にかわす事が出来た。多分今の攻撃が魔術
か戦輪だったらあっさりやられてただろうな。武器が短剣だった事に感謝しながらも彼の背後に回りこむ。
そして背中を軽く引っ叩き、一瞬彼が油断した所で彼の首――――に寄生する小さくも毒々しい寄生虫に向けて思い切り矢を刺した。
寄生虫が悲鳴を上げて床に落ちる。同時に矢も落ちて寄生虫の動きを止めた。
そして糸の切れたマリオネットの様にセルシアが後ろに倒れてくる。
慌ててそれを支えて、その場に座り込んだ。彼は目を瞑って気絶したまま動かない。


そんなイヴとセルシアに、恐る恐るマロンとロアが近付いてきた。
「セルシアならもう平気よ。それと……やっぱりリネ達が行方知れずになってるのには、寄生虫が関係してるみたい」
「今お前…セルシアの首に、刺した…よな??」
「ええ。首に寄生してた寄生虫に、ね?」
ロアの呆然とした言葉に、勝ち誇った笑みでイヴが答える。
その言葉に2人が漸く納得した顔を見せた。…あれだけ遠い距離じゃ寄生虫など見えるはずも無いから、素直にセルシアの首に矢を刺した様に見
えたのだろう。
マロンに預けた剣を受け取り、鞘に戻す。
「……ぅ…」
やがてセルシアが小さく声を漏らして目を開けた。
その瞳は――既に正常に戻っている。先程の虚ろな瞳が嘘の様だった。やはり先程の寄生虫が原因だったのだ。

「……イ、ヴ…?」
最初に見えたのがイヴだったらしい。彼が小さくそう呟く。
「大丈夫?――助けに来たわよ」
彼が頭を抑えながら、体を起こした。
船の壁に凭れて、小さく溜息を吐く。それから辺りを見回した。
まだ視点が定まらないらしく、薄く目を開けたままイヴに問い掛ける。
「……リネ、達は?」
「今探してる。…最初に見つけたのがあんたよ」
「…そ、か」
イヴの言葉に彼が深く溜息を吐いた。
そんなセルシアにマロンが近付いて、彼の首辺りを中心に回復魔術を掛ける。
その間彼はずっと目を閉じて頭を抑えていた。

「何が合った?」
マロンの回復を受けるセルシアに、ロアが問い掛ける。
「…自分でもよく分からねえ……。…唯、最初に見たのは動く蔦だった――」
「……動く、蔦」
直ぐに寄生虫の本体だと勘付いた。やはり4人は寄生虫の本体と遭遇していたのだ。
「レインとアシュリーが船員室を調べていたんだ。俺とリネは廊下で待機してた。
そしたら急に船員室と廊下を繋ぐドアが閉まって――何かが這いずり回る音が聞こえた。
廊下の影から…緑色の不気味な触手が顔を覗かせたんだ。
…記憶に残ってるのはそこまで。そこからは全く覚えてない……」
「…自分が寄生虫に取り付かれてた事は覚えてる?」
「……ごめん。何も覚えてない…」
…先程剣を振るった記憶は残っていない様だ。寄生虫に自我を乗っ取られていたのだろう。
矢が突き刺さったままの寄生虫を見つめる。…まだ微かに動いていた。どんだけしぶといんだ、コイツ。
あまり関わらない方が良い事は分かっているので、敢えて無視をする。その内死んでくれるだろう。そんな期待を抱いて。
とりあえずセルシアに現状と、彼らが見た物は‘寄生虫の本体’だという事を伝えてあげた。
彼は最初驚いた顔をしていたが、直ぐに現状を飲み込みその場を立ち上がる。
「もう平気?」
「ああ、平気だ。…ありがとう、マロン」
マロンにお礼を言いつつ彼が微笑む。
「じゃ、このままリネ達を捜索するけど良いわよね?セルシア」
「ああ。大丈夫だ。――早く探して、この船を出よう」
「…そうね」
こうなったらもう幽霊が怖いとかそんな事言ってる場合じゃない。セルシアの言う通り3人を早く探して、この船を出なくては。
船の奥に向かい、再び歩き出した――。










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