――目を覚ますと、傍にはロアの姿が合った。
「…平気か?」
彼の問いに、体を起こしながら小さく頷く。
部屋を見回すと、椅子の上でマロンが眠っていた。恐らくずっと傍に居てくれたのだろう。心の中でお礼を言いながら彼女の頭を撫でた。


*NO,23...暗転*


「…リネ達は?外?」
ベッドから起き上がり、軽く伸びをしながら彼に問い掛ける。
ロアが少し曇った顔をした。…何か合ったのだろうか。問い掛ける前に彼が口を開いた。
「今船が止まってるのは気付いてるか?」
「…まあ、何となくは」
確かに先ほどから船が全く揺れていない。どこかの港で止まっているのだろうか?それとも…。
「…とりあえず外に出てみろよ。多分理解できるから」
「……理解できる、ねえ…?」
溜息を吐きながらマロンの肩を揺する。
「ちょっと、マロン。起きて」
「ん……」
少しだけ寝返りを打ったマロンが、薄く目を開けた。彼女は眠たそうに目を擦りながら体を起こす。
「おはよう。大丈夫?」
「…あ、イヴ……!」
マロンが少し驚いたように声を上げた。
彼女は慌てて起き上がり、椅子を立ち上がる。
「イヴこそ大丈夫?」
「平気よ。…ところで、マロンはリネ達が今どこに居るのか知らないのよね?」
「へ?甲板に居るんじゃないんですか??」
…どうやら彼女も現状を知らないようだ。現状を知っているのはロアだけ、か。
仕方なく彼の指示に従い、マロンを連れて甲板に出る。
甲板は濃い霧が回りを包んでいた。…ちょっと、何処よ此処?!
慌てて船の先から下を除く。…水が見えた。此処はまだ海の上の様だ。
機材を整備しているのだろうか?周りを見回したところで――。

「…ちょっと、何よアレ」
「分かんねえ」
「…まさかリネ達、アレを調べに行ったとか言う?」
「ああ。そうだ」
ロアが大きく頷いた。…マロンと2人で顔を見合わせる。
周りを見回して、最初に見たのは――大きな古い船だった。
「突然船のコントロールが効かなくなって、あの船と衝突したんだ。リネが船の整備をしてみたんだけど…駄目だった。
だからあの船に原因があるんじゃないかって事になって――レイン、リネ、セルシア、アシュリーの4人が船を調べに行ったんだ。
俺はイヴとマロンが寝てるから残ったんだけどさ……」
「…ふぅん。そういう事」
ほおって置けば戻ってくるでしょ。
そう言いかけて――ロアがとんでもない事を言った。


「問題は此処からなんだ。
もう4人が出て行って2,3時間は経ってるんだけど――未だ戻って来ねえんだよ」
「……は?」
流石にそれは可笑しい。
幾ら馬鹿レインが着いて行ったからって、そう何時間も不審な船に立てこもったりするだろうか?
それに何かを見つけたのなら一度は此処に戻ってくるはずだ。それなのに一度も戻ってきて居ない…?


…まさか、中で何か合ったのだろうか――?



ぶつかってきたという船を見上げる。
…船は風に吹かれ不気味に揺れていた。破れたマストがゆらゆらと揺れている。
苦笑しながらマロンの方を見ると、彼女も同じことを思っているらしく船を見上げていた。
船からはロープがぶら下がっている。恐らくあのロープからリネ達は上に上がったのだろう。

…これはやっぱり、様子を見に行くべきなのだろうか。
もしかしたら誰かが怪我をして動けないのかもしれないし。

「…行くか?」
「……それしか無いんでしょうね」
苦笑しつつ船から垂れ下がっているロープを握った。
…本当はこういう系の怖い話とか本気で無理なのだが、4人に何かが合ったのなら助けに行けるのは自分達しか居ない。…行くしかないんだ。
ロアが船長に声を掛けているのが見えた。船の様子を見に行く事を伝えたのだろう。
ロープを使って、どうにか甲板に上がった。……苦笑したくなるくらい、不気味だ。
次いでロアが上まで上がってくる。最後にマロンを引き上げて、船に到達した。

「…不気味……」
マロンが小さく呟く。
「考えない様にしてるんだから……やめてよ…マロン……」
「…お前達、怖がりだったっけな」
苦笑しながらロアが前を歩く。マロンと手を握りながらロアの後を追った。
――甲板を歩いている内に船室への扉が開いている事に気付く。
「甲板に居ないって事は…やっぱり中なんだろうな」
「…行く?…って聞くまでも無いか……。行くしかないわよね」
ロアを先に行かせて、マロンと2人で船室に入る。
最初に入った船室は、ランプが灯っていた。…恐らくリネ達が灯したのだろう。というか、そう考えたい。
マロンが直ぐに本棚に収納されている本の内、1冊だけが飛び出している事に気付いた。
確かに1冊の本だけ不自然に本棚から飛び出している。誰かが読んでいたのだろうか?それとも…。
びくびくしながらも、本棚から本を取り出してみた。
「……何コレ。何語?」
イヴが苦笑の笑みを浮かべながら呟く。
マロンとロアが顔を覗かせた。
そこにはよく分からない文字が綴られている。

「あ、これゲーリーンズ文字だよ」
マロンが閃いたように呟いた。
「ゲーリーンズ文字…って?」
聞き覚えのない言葉だ。首を傾げると同時、ロアが苦笑しながら呟く。
「確か…4000年くらい前の文字だよな…。本当に大丈夫なのかよこの船……」
「ちょっと、どんだけ古い文字なのよ。……マロン、読める?」
「少しだけなら…。…えっと、航海日誌?みたい」
マロンがそう言って航海日誌の適当なページを開く。古びた紙は途轍もなく埃っぽい。
薄暗く文字が読みにくいので、ロアが壊れかけのランプを近くに持ってきてくれた。
「…読めるところだけ読んでみますね。
えっと……☆月…○日?
――遂に……食料?…が……切れた…。
あの……寄生虫?…に、は……誰も…逆らえ、ない…。
ネメシス…よ……。どうか…俺達を……守り…下さい?
多分そう書かれてます」
「…ネメシス?」
よく分からない単語だらけだ。
それに寄生虫って…どういう事なのだろう。この船の船員は寄生虫に殺されたという事か?
だとしたら――この船、相当危険なんじゃないだろうか。まだこの船の何処かに寄生虫が眠っていたとしたら…。
「あれ…?この続き…何かで糊付けされてるみたいです」
マロンがそう言って張り付いている次のページを爪で必死に剥そうとしていた。
「ちょっと貸して」
マロンからそれを受け取り、割と長い親指の爪を使ってページを剥してみる。
――そのページは、糊付けされている訳じゃなかった。

「うわ…酷いな、これ」
「…これ、乾いた血……みたいね」
次のページには、大量の血が飛び散っていた。
文字が書かれているようだが、所々に飛び散っていて上手く読めない。
「マロン、読めるところだけ読んでくれない?」
「分かりました」
マロンに再び日誌を手渡した。彼女は文字をなぞりながらぽつりぽつりと呟く。

「…☆月……日…。
……寄生―が……俺の…―に……。
もう駄目だ……この船は…―――に、…乗っ取られ…た…。
誰か……――て、くれ……。
この――虫は…我々に…取り付き……――を…乗っ取る……。
…此処からはもう読めなくなってます」
「…【寄生何とか】と【何とか虫】ってのは寄生虫の事よね?」
「何とかに乗っ取られたって言ってるけど、その何とかってのも寄生虫だよな」
「後は…よく分かんないですね」
首をかしげながら溜息を吐いた。駄目だ、全然分からない。
だが1つだけわかった事がある。


この船は、危険だ。


「…もしかしてリネ達、この寄生虫ってのと遭遇しちゃったんじゃない?それでどっかに隠れてるとか」
「……有り得るな」
「じゃあ早く探さないと!」
そう言ってマロンが廊下に飛び出す前に、イヴがそれを引き止めた。
「待った!まずはその寄生虫の退治法ってのを探しましょ」
「…そうだな。退治方法を知らないと俺達までやられちまう」
「あ…そうですね」
とりあえず3人で部屋の中を捜索して見る事にした。
マロンが本棚の本を読んでヒントになる事を探しているので、ロアと2人で棚や机の引き出しからヒントになりそうな物を探し続ける。
「何か合ったか?」
「特になし。ボールペンとかそういうのしかないわ」
机の引き出しを捜しながらイヴが溜息を吐いた。
引き出しの中まで埃だらけだったが、どうにかして奥を調べてみた。だが何も無い。
マロンの方を見るが、彼女も困った顔をしていた。どうやら何も無いようだ。
暫く3人で部屋を捜索してみたが何も見当たらない。
少し休憩しようと床に座り込んだ。――その時。


「…ん?」
机の下に紙が落ちている事に気付いた。
気になったのでそれを拾ってみる。…どうやら日記の一部の様だ。日付っぽい物が書き込まれていた。
マロンの傍によって、彼女に紙を手渡す。
「机の下に落ちてた。…これも日誌の一部じゃない?」
そういうとマロンが紙を受け取り、内容をなぞってみる。
「…あ、そうですね。日誌の一部みたいです。
えっと…○月○日…。
…寄生虫は…最深部に根を張り……船を……っ!?」
「…ちょ…マロン?!」
彼女が驚いた顔をしたので、慌てて彼女に話しかけた。
「…イヴ!今すぐ廊下の扉を締めてっ!」
「へ?!あ、うん!!」
マロンに言われ、全開で開いている扉を締めようとドアノブに手を伸ばす。
そして――見えてしまった。
廊下の先の方から…何かが這いずり回る音。
慌てて扉を締め、鍵を掛けた。…ちょっと、なによ今の音?!
心臓をバクバクさせながら、近くに居たロアにそれを話した。
「…何かが…這いずり回る音?」
ロアの言葉にマロンがぽつりと呟く。
「…それが、寄生虫の本体です」
「「本体?!」」
思わずロアと2人で声を合わせて叫んでしまった。2人してマロンの傍に近寄る。
「日誌に書いてあったのね!!」
「何て書いてあったんだ?!」
2人の問いかけに、マロンが眉間に皺を寄せながら答えた。


「寄生虫は最深部に根を張り――船を徘徊して人間の獲物を探している。
出逢えば最後。触手の様な長い蔓を此方に伸ばして、襲い掛かってくる。
地面を這いずり回る音がすれば、それは奴が来る合図だ。船員の殆どはそいつに取って食われ朽ちていった。
そして触手の餌になる事に恐怖した船員は、自害していった…。残るは私だけだ。きっと私ももう長くない。

もしこの船に来てしまった物が居たら、迷わず逃げてくれ。
奴は不死身だ。絶対に死なない。
――そして、捕まれば最後なのだ」


彼女の言葉に――ロアと2人で愕然としながら顔を見合わせた。
何かが這いずり回る音…。それはまさに先ほど廊下で聞いた音だった。
という事はその寄生虫は今もこの船を徘徊しているんだ。きっとリネ達も――……。


と、その時だった。
大声を上げたのが間違いだったのか。それとも気配で気付いたのか。廊下からこちらへの扉を叩く音が聞こえた。
「……どうする?」
最初は叩くだけだった扉からの音が、次第に大きくなっている。
「どうするもこうするも…逃げるしかないでしょ!!」
イヴがそう言って、棚に封鎖されたもう1つの扉を指差した。
「逃げるなら甲板じゃないのか?」
「まだリネ達を見つけてない!!」
「…そーだなっ!」
ロアと2人で剣を使い棚を破壊する。そして扉を勢い良く開いた。
…どうやら下へ通じているようだ。暗闇の中に下行きの階段が見える。
下に何があるかは分からなかったが、進まない限りは何も変わらないのだ。階段を降りる覚悟をした。
「マロン!行くよ!!」
「あ…はいっ!!」
マロンが慌ててこちらに掛けてくる。
最初にロアが階段を下りて、次いでマロンが階段を下りた。
最後にイヴが階段を下りると同時に、廊下と此方への扉が破壊される。
…見てしまった。
触手の様な緑色の太い蔓。…あれが寄生虫?虫と言うよりモンスターに近い。
触手は此方に気付き、こちらに向かって蔓を伸ばしてきた。
慌ててドアを閉め、鍵を掛けた。
それから階段を一目散に駆け下りる。
長い階段を下りてから、下にも合った扉を勢い良く締めた。
前に居るマロンとロアは、先ほどから一点を見て呆然としている。
2人に釣られてその視線の先を見た。――そしてイヴもまた呆然となる。



「…セル、シア?」

前に立っていたのは――間違いない。
暗闇に不釣合いな銀色の髪を靡かせる、古びた短剣を構えたセルシアだった。










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