暫く船の甲板を歩き回ったのだが、特に異常は見当たらない。唯の錆びれた船と全く変わりが無かった。 やはり内部を調べる必要があるのだろうか…。溜息を吐いたと同時、レインが手招きをするのでそちらに向かって歩き出す。 …歩くたびに軋む船が、恐怖を煽るかのようだった。せめてこの軋みだけはどうにかならないのだろうか。 そう思いながらレインの傍に到達する。 「この中、怪しくない?」 そう言ってレインが指差す先には――船室への扉が合った。 *NO,22...Dangerous enemy* レインの話声を聞いてか何なのか。アシュリーとセルシアも傍にやってきた。 2人が傍にやってきてから、首を横に振る。 「深入りしたら危険でしょ。甲板を捜索するだけで十分よ」 …と言うか、自分が入りたくないだけだが。 ワザと理屈っぽい事を言って首を横に振った。 セルシアが賛成の声を上げる。ああもう、この怖がりのヘタレめ。人の事あんまり言えないけど。 「またまたぁ。リネっち本当は怖いだけ何でしょー」 「べ、別に怖くなんて……良いじゃない。行ってあげるわよ!!」 無意識の内に了承してしまった。…言葉に出してからしまったと舌打ちをする。 「じゃあ行って見よー」 ワザと明るく声を出したレインが船室の扉を開ける。…埃っぽい臭いがした。 船室のライトは何かに割られたかの様に割れている。……本当に、大丈夫なんでしょうね……? 「…リネ?」 中々内部に入らないリネに、アシュリーが不思議そうに声を掛けてくる。 「…い、今入るわよっ!」 自分の右手を強く握り締めながら、レインの後を追って船室に踏み入れた。 「こりゃー…ライトみたいな物が無いと探索は無理かもねえ」 「懐中電灯なら持ってる」 困った声のレインに、懐中電灯を手渡す。 「お、リネっち。準備良いねー」 「分かったからさっさと付けて。暗いと何が何処にあるかも分からない」 「…へいへい」 レインが懐中電灯の明かりを付ける。 無事に懐中電灯が灯った時。…最初に見えたのは大きな机だった。 此処は船長室だったのだろうか?大きな机に埃を被った高級そうな椅子が1つ。 …流石に近付くのは怖いので、レインに視線を促してみる。 肩を落とし、やれやれと言わんばかりにレインが机に近付いた。アシュリーがそれに着いていく様に机に近付く。 「…別にふつーの机みたいよ?」 「そ、そんなの分かってるわよ…!!」 気合を入れなおして、机に向かって一歩近付いた。…途端、足元の板が奇声の様な軋みを上げる。 「きゃっ!!」 思わず近くに居たセルシアの方にしがみ付いた。対するセルシアもびくりと痙攣する。 「…今の、唯の軋みの音よ……?」 少し困ったようにアシュリーが呟いた。それに比例しレインが爆笑する。 「リネっちも怖いんでしょ!あんまり強がってると良いことないよ」 「うるさぁあああい!!!――ファイアーボルト!!」 ムカついたからレインに向かって魔術を一発ぶっ放した。 レインが慌ててそれをかわす。 閃光の様に闇の中に飛んでいった火は、運よく棚の上に置いてあった壊れかけのランプに当たったらしく、ランプの光が薄く灯った。 「お、こんな所にランプ有ったのね」 レインがランプを持ち上げてみる。ランプは寂れており、風が吹けば今にも火が消えてしまいそうだったが先ほどよりは格段と明るくなった。 「…あれって、本棚?」 セルシアがびくびくしながら本棚を指出す。本棚には様々な本が詰められている様だった。帯の違う本が幾つか終いこまれている。 セルシアを引き連れながら、慎重に本棚に近付く。…流石にさっきみたいに軋みで悲鳴は上げなかった。 ああもう、恥ずかしい。何で軋み如きで悲鳴なんか上げたんだろうか自分は。 怒りと情けなさで苛立ちながら、本棚の本を適当に引っつかんで取り出してみた。 「…航海日誌…?」 掴んだ本は赤い背表紙の日記の様な本。 …どうやら航海日誌の様だった。やはり此処は船長室の様だ。 最初のページを開いてみるが、古びた紙で読みにくいし、埃っぽい。 「何?何か合ったの?」 レインとアシュリーが2人に近付く。 リネが必死に目を凝らしているのを見、レインが懐中電灯で航海日誌を照らした。 「…俺達の、知らない文字…?」 航海日誌は知らない文字が幾つも綴られている。外人なのか、或いは古代の文字なのか――。 リネが眉間に皺を寄せながら呟いた。 「これ……ゲーリーンズ文字…?」 「…何だソレ?」 「4000年くらい前に使われてた文字」 彼女が淡々と述べる。そんな彼女にセルシアが日誌を覗き込みながら問い掛けた。 「読めるのか?」 「……少しなら」 リネが再び日誌に目を落とす。 彼女は日誌に文字をなぞりながら、文字の解読を始めた。 「――×月…○日。 ネメシスの石、を求め…俺達は、旅に…出る……。 …食料や…船員は……揃った…。 …必ず…石を…手に入れて――……。……此処で途切れてる」 「…ネメシスの石?」 首を傾げるセルシアの横。アシュリーが眉間に皺を寄せている。 「何か知ってるの?」 リネの問いにアシュリーがぽつりと呟いた。 「悪しき物を封じる秘法の石。ってヘケトーから聞いたことがある…」 「そんな物がこの船長は必要だったのか?…意味分かんねえな」 「でも…別に普通の日誌じゃないか?」 セルシアの言葉に、リネが日誌を片手に持ちながら彼を叩いた。 彼が痛そうに頭に抑える中、リネが震えた声で叫ぶ。 「何処が普通の日誌なのよこのバカ!! 4000年も前に使われていたはずのゲーリーンズ文字が使われてる時点で可笑しいでしょうが!!」 「…確かにそうだな……」 レインが珍しくまともに物事を考え出した。アシュリーも小首を傾げている。 そんな彼女が、不意に回りを見つめて――気付いた。 「まだ奥に進める見たいだけど…?」 彼女がそう言って扉を指差す。…確かに、本棚の横にまだ扉があった。 椅子の後ろにも扉は合ったのだが、そちらの扉は何故か棚によって封鎖されていた。…こじ開けて入ってもいいのだが、嫌な予感がして仕方ない ので、誰も触れていないが。 「…どうする?まだ奥に進んでみるか?」 「……もう少し調べないと何とも言え無さそうだしね…。」 リネが航海日誌を適当に棚に戻しながら呟く。 ――1冊だけ不自然に飛び出した形になってしまったが棚に収まってはいるので特に問題にはしなかった。 そんな彼女の言葉にセルシアが明らかに嫌そうな顔をする。 「ま…まだ進むの…?」 「あんただけ此処で待ってても良いわよ?」 「や……それは…」 苦笑の笑みを浮かべながらセルシアが首を横に振る。 リネが溜息を吐いて、アシュリーの発見した扉に近付いた。 ドアノブを回して少しだけ扉を開けてみる。…普通に開いた。 「この先は廊下みたいね…。行くわよ」 強がりなのか何なのか、そう言ってリネが船内の廊下に出て行ってしまった。 アシュリーがそれを追いかけ歩き出す。セルシアも仕方なくレインの隣を歩き出した。 廊下も船長室と同じくらい暗い。…リネはそんなの気にせずに進んでいるようだが。 「あの子って怖がりなの?何なの?」 幼馴染でもあるセルシアに聞いてみる。 「…怖がり、だと思うよ?」 体を振るわせるセルシアが頼り無さそうに言った。 「お前の方が怖がりっぽいけどな」 「……」 反論してくるかと身構えていたが、意外と反論してこなかった。どうやら自分でも認めているらしい。 アシュリーとリネと追いかけて軋む廊下を慎重に歩く。 突き当たりの部屋にリネとアシュリーが立ち止まっていた。彼女達に追いつく為なるべく早足で近付く。 「どーかした?」 「…此処、船員室みたい リネがそう言って外れかけのプレートを指差した。 其処には相変わらず訳の分からない文字。…リネの言葉を信じるなら‘ゲーリーンズ文字’だと思われる物が綴られている。 「これもゲーリーンズ文字?」 「そう」 リネがそう言って、レインをじっと見た。…開けろという意味か。やっぱり彼女は怖がりなんだなと苦笑する。 リネに懐中電灯を預け、船員室を開けてみた。 懐中電灯が最初に照らしたのは――。 「きゃああぁあっ!!」 「ああぁあっ!」 ――リネとセルシアが同時に悲鳴を上げる。 アシュリーが眉間に皺を寄せていた。彼女が最初に船員室に足を踏み入れる。 「…白骨化した死体、ね。……結構有るわよ」 彼女がそう言って船員室を見渡す。 …船員室の中には幾つもの白骨化した死体が散らばっていた。 恐らくはこの船の船員だろう。…それにしても惨たらしい姿だ。 「こりゃ酷えな…」 入口に立ちすくんだままのレインが呟いた。 リネとセルシアはお互いにしがみ付いたまま部屋に入ろうともしない。 …仕方なくレインがリネから懐中電灯を受け取り、部屋の中に足を踏み入れた。 「…全部船員よね?」 「……多分、な」 アシュリーの問いにレインが小さく頷く。 白骨化しているので死体を調べることは出来ない。だが着ている服が皆同じところからして船員なのだろう。 ところで気になるのは…船長の死体を見ていない事だ。 船長室に死体はなかった。 …船長は船を抜け出したのだろうか?それとも別の場所に死体が放置されているのか、或いは……。 考え事をしていると、アシュリーも同じことを思ったのか再び死体を見回しだした。 とりあえず嫌な予感がする事は確かだ。五感と直感が訴えている。此処は危険だ。去った方が良い。 「とりあえず一旦――」 此処を出て船に戻ろう。 そう言いかけた時だった――。 ――バンッ!! 突然大きな音を立て、扉が閉まった。 「っ――?!」 アシュリーと顔を見合わせて絶句する。 その直後。…本当に直後だ。 扉の外からリネとセルシアの悲鳴が聞こえた。そして、何かが這いずり回る音…。 畜生。廊下で何が起こっている?! 「リネ!?セルシア!!」 扉をこじ開けようと2人で扉に殴りかかるが、先ほど簡単に開いた筈の扉が開かなくなっていた。 まるで何かの魔力によって封じ込められたかのように、ノブはびくともしない。 「レイン、退いて――!」 扉を思い切り蹴りつける横、アシュリーが足元に六芒星の陣を展開させている。…ウルフドール専用魔術。という所か。 「――Destruction」 呟かれた術の言霊と共に。扉に向けて魔術が放たれる。 だが扉はびくともしなかった。 それどころか術を弾き返し、相殺させる。 「っ?!」 お互い何が起こったか一瞬理解できなかった。魔術が弾き返された――?! まるで扉に見えない壁が張られている様だった。火花を散らして散っていた彼女の魔術。 既に廊下からは這いずり回る音しか聞こえない。 リネとセルシアは大丈夫なのだろうか。逃げてくれたのなら幸いだが――…。 「…ちょっと、レイン」 彼女がそう良いながら術を構えている。 嫌な予感を感じながら振り返った。 ――船員の死体である骸骨が、立ち上がっている。 「…はは、洒落になんねーな。マジで」 「……本当にね」 溜息を吐いたと同時、白骨化した死体が此方に向かって襲い掛かってきた――。 BACK MAIN NEXT |