島を出て数時間が経過している。
イヴは客室で仮眠中。――恐らくリトとの戦いで疲れが表に出たのだろう。起こす気は今のところ無い。
マロンはそんなイヴの傍に居る筈で、ロアは甲板の上から海を眺めている。
セルシアはセルシアでベンチに座ってずっと俯いたままだ。
軽く会話をするレインとアシュリーの傍に座って居るリネが深く溜息を吐いた。


*NO,21...幽霊船*


「別にほっときゃ元気になるでしょ、セルシア」
そんな気を察したのか何なのか。レインがそう言って親指を立てて笑う。何となくムカついたらしいリネがレインの足の腿辺りを思い切り殴った。
「…イヴはまだ寝てるの?」
「…多分ね」
殴った足を抱えて蹲るレインの横。アシュリーの問い掛けにリネが遠くを見ながら頷く。
恐らく彼女はまだ寝ているだろう。相当疲れたみたいだし、当分は寝かせて置いてあげるのが妥当と思われる。
そんな中甲板から海を見ていたロアがあっ、と声を上げた。
「何?何か合った?」
そんな彼の傍にリネが寄る。
セルシアが何気に此方を見ていた。彼もまた何が合ったのか気に掛けている様だ。

「…あれ、船…か?」
ロアが指差した先。霧の向こう。…確かに大きな船の様な影が見える。
目を凝らして見つめたのとほぼ同時だ。
「ちょ…っ?!」
「うぉっ!?」
船が行き成り斜めに傾いた。…直ぐに真っ直ぐに戻ったが、船はどんどん霧の中に突っ込んでいく。
体勢を立て直したリネが操縦士の方に走り寄った。
「ちょっと、どうなってるのよ?!」
「分からん…船の操縦が利かないんだ!!」
「…それって壊れたってコト、か?」
何時の間にか傍に寄って来たセルシアが首を傾げる。…確かに平たく言えばそうなる。
「直らない訳?ちょっと見せなさいよ」
操縦士を退かして、リネが機械のあちこちを触りだした。
SAINT ARTSに所属しているだけの事はあり、手際よく船の修復が掛けられていく。だが――。
「…可笑しいわね。コントロールパネルが反応しない…?」
そう言ってリネがまた別のボタンを操作し始めた。
そうしている間に船はどんどん深い霧の中に飲み込まれていき、そして――先ほどロアが見つけた船に近付いていく。

「おいおい、何か合ったのかー?」
遅れてロアとレイン、そしてアシュリーがやってきた。操縦士が彼らに事情を簡単に説明する。
「直りそうか?」
「…微妙。コントロールパネルがイカれてるみたいでね」
そう言って彼女が適当なボタンを押した時――船に大きな衝撃が走った。
何か大きな物がぶつかる音が鳴り、船が大きく揺れる。慌てて近くの手すりに捕まった。
――そして、船の動きが静止する。

「ちょ、ちょっと…?!」
「外で何か合ったのか…?」
ロアとレインが外へ飛び出していった。アシュリーがその後を追う。リネも慌てて3人を追って機関室を出た。



「……洒落になんねーな。これ」

真っ先に外に出たレインが苦笑いを浮かべて呟く。
彼が見上げている先。――ロアが先ほど発見した大きな船が、この船に寄り添うようにくっ付いていた。
遅れて機関室から出てきたセルシアが、リネに言葉を投げる。
「コントロールパネルだけじゃない。操縦機械が全部イカれやがった」
セルシアがそう言って舌打ちをした。…つまりそれって、制御パネルどころか機械自体動かない、ってコト?!

「本気で洒落になってねえな……、どうするんだよ」
頭を抑えたロアが独り言の様に呟く。
「一応修理はしてみるって言ってた」
そんな彼にセルシアが言葉を続けた。…修理するとしても相当時間が掛かる筈だ。1日は此処で足止めか…。
軽く溜息を吐いて、船に寄り添う大きな船を見上げた。
馬鹿デカい船だが人の気配が全くしない。――無人船?
「なんか幽霊船っぽくねー?」
バカみたいに笑うレインの頭を、リネがすかさず殴る。加えてセルシアが軽く足を蹴った。
ああ、うん。セルシアってこの手の話とか駄目っつーか嫌いだったっけ。イヴとマロンも駄目そうだけど。
「変なこと言うな!バカ!!」
半分恐怖に顔が染まっているセルシアの横。アシュリーが無表情で呟く。
「…面白そうだと思うけど」
…あんたは幽霊とかそういうのに強そうだからね。見た目からして。苦笑が顔に張り付いた。
というか、面白そうとかそういう問題なのか?この船。
第一どうして行き成り船が壊れたのだろう?まるでこの大きな船に呼び寄せられたみたいだった…。

ところでさっきから気になっていたのだが――マロンとイヴが外に出てこない。
客室で寝ているのだろうか?それとも…。
一度ロア達から離れて、客室を覗いてみる。――2人はどうやら眠っているようだった。マロンの方はうたた寝といった感じで、椅子に座って眠って
いるのだがイヴに関してはベッドで爆睡状態。これは当分起きなさそうだな。特にイヴ。
溜息を吐いて客室を出た。

「2人は?」
「マロンが熟睡。イヴが爆睡」
ロアの問いにさらりと答えると、彼が苦笑を浮かべる。…まあそういう反応をする事は何となく分かってたから特に気にしない。無視。
ロアと一緒にレイン達の方に戻ると、アシュリーが何かを感じたかのか目を閉じ耳を澄ませていた。
「…どうかしたの?」
恐る恐る彼女に話しかける。
「…声が、」
目を開けた彼女がぽつりと呟いた。


「声が、聞こえる」



――思わずアシュリーの見上げている方…大きな船を見上げた。
だが声は愚か物音1つ聞こえない。…それとも、ウルフドール族にしか聞こえない何かが有るのだろうか?
セルシアが軽く後退りをしている。どんだけ怖がりなのよあんた。腕を引っつかんで逃げないようにした。

「声…って?船から聞こえるって事?」
「…ん」
彼女がその問いに頷く。
…声…。
ロアとレインの方を見たが彼らは首を横に振った。どうやら2人にも聞こえていない様だ。
聴いても無駄かもしれないけどセルシアの方も向いてみた。
「…」
彼は無言で首を横に振る。…やっぱり、聞こえるのはアシュリーだけ、か。
空耳って事で処理しても良いとは思ったんだがどう考えも船に異常が出たのはこの船を見つけてからだ。
…調べた方が、良いのかも知れない。

「調べるのか?」
「…それしかないでしょ。船が壊れた原因がコレしか思い当たらないんだから」
レインの問いにリネがそう言って船を指差す。…大きな船が風に揺られ少しだけ揺れた。

「…イヴとマロンは如何するんだ?」
「置いてくしか無いでしょ。まだ寝てるんだし。…それともロアは此処に残る?」
「……そうするよ」
リネの問いにロアが少し悩んだ顔を見せながら頷く。
…どの道1人は残った方が良いとは思っていたので特に止めなかった。
誰かが残らなければ、もしイヴとマロンが起きた時に現状を伝える人間が誰一人居ないからだ。
彼はそのまま「機関室を見てくる」と言ってその場を去って行った。恐らく制御パネル等が今どうなっているのか見に行ったのだろう。


「…って事は」
ロアが立ち去って直ぐ。少し眉間に皺を寄せたままセルシアが呟く。
便上するようにレインが呟いた。
「…俺たち4人で行くしかねえだろ」
「……やっぱり?」

既にアシュリーは船に向かって歩き出している。
溜息を吐くセルシアを無理矢理引きつれ、レインと共にアシュリーの傍に寄った。

「……とは言っても、どうやって船に上がる?登れそうな場所は無えし…」
「…私が先にロープを持って登る」
そう言ってアシュリーが首に巻いた鎖を引きちぎる様に取った。
彼女の姿が光り輝き、そして聖獣の姿に変化する。…こういう時、ウルフドール族って便利だよなとつくづく思った。
軽い身のこなしで獣の姿をしたアシュリーが船の上に上がる。
それから彼女は元の姿に戻ってから、片手でロープを持ちながら、ロープの端を此方に投げた。
それを受け取ったレインが初めに上に上がる。
セルシアを先に行かせて、その後にリネも船に上がった。


「…にしても本当に不気味な船ね……」
改めて甲板を見ると、船の至る所に埃が溜まっていた。
軽く危ない物を感じる。…やっぱり此処、幽霊とか何か住んでるんじゃないか?

「…や、やっぱり…止めねえ?」
最早苦笑の笑みのセルシアがやや後ろに下がりながら言った。
そんな彼の頭を軽く叩く。
「何言ってんの、此処まで来たんだから行くわよ」
…本当は自身も少し怖いのだが、そんな事を言っている場合では無い。
歩き出すアシュリーとレインを追いかける為、自分達も少しずつ足元に気をつけ歩き出した――。










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