翌朝。早朝から皆を叩き起こしてグランドパレー行きの船に乗り込んだ。
早くて1日で諸島に着くと操縦士が話す。
それまではこの海の景色をのんびりと見る事になるのだろう。船の上から海を見ながら、イヴは無意識の内にそう考えていた。


*NO,17...グランドパレー諸島*


「憂鬱に浸る美女、ってか?」
「…あんた、ホントに鬱陶しい性格してるわよね」
「今に始まった話じゃないでしょ」
近付いて来ながら馬鹿な言葉を発するレインを、イヴは冷たくあしらった。
だが彼は自分の隣まで来て船の上に腰を下ろす。…恐らく客室の中は居づらいのだろうなと直感で思った。
客室には多分レポートを書くリネと、本を読むセルシアが要る筈だ。
と言うか今船の上を見回した限りだとマロンとロアが船の上で話しているのが見えるので、中に居るのは2人だけの筈だ。
そしてその2人は昨日からほぼ無言状態である。
話しかければ答えてくれるのだが、何処となく元気が無かったり素っ気無く返事を返されたりする。…どうやら2人にとってリトの話は相当禁句の様
だ。とりあえず当分はそっとしておいてあげよう。
そんな訳でレインが今此処に出てきたのだと思われる。
そりゃあ、あんな嫌な空気の漂う部屋になんか誰だって居たくないと思うだろう。

「…リネっちとセルシア、昨日からずーっとああいう状態なんだよねえ」
案の定その通りだった。
「だから客室から此処まで出てきたんでしょ?」
イヴの問いにレインが項垂れながら頷く。彼女の予想は100%的中していた。
「ま、ほっときゃ元気になるでしょ」
「…結構アバウトな性格してるのね。イヴっちって」
レインはそう言って再び海を眺め始める。
…そんな事言われたって、今自分達に出来る事なんて何も無いじゃないか。心の中でそう呟いた。
今はそっとしておくのが正解なのだ。無闇に励まそうとしたって空回りするのがオチとして見えている。
海の水を見つめながらイヴは心の中で何度もそう思った。


* * *


そこから1日と数時間。
リネとセルシアが元気になり始めた頃に、漸く船がグランドパレー諸島に到着した。
「3日間しか待たないよ。危険な島だし、俺だって怖いからね」
船の操縦士である男が船を降りるイヴ達に声を掛ける。
「有難う。3日で十分よ」
6人全員が降りた事を確認してから、イヴはグランドパレー諸島の森へ足を踏み入れた。

地面が割と柔らかくなっている。最近雨が降ったのかもしれない。
「まずはフィリアの水を探さねえとな」
ロアの言葉にイヴが大きく頷いた。
その後ろを歩くリネが、マロンと共に彼女のレポート用紙を見ながら言葉を投げる。
「フィリアの水は其処から真っ直ぐ行った先にある滝の水よ」
「じゃ、とりあえず其処を目指して歩くわ。リネが道を指示してくれない?此処に一度来たことあるんでしょ?」
「…別に良いけど」
そう言ってリネがイヴの横へ向かって歩く。入れ違いでロアが後ろに下がってマロンの隣に並んだ。
「にしても森って言うよりジャングルって感じじゃね?この森」
ロアとマロンの更に後ろを歩くレインが、気だるそうに言葉を投げる。
その言葉にレインの少し前を歩くセルシアが苦笑した。
だが確かに、森と言うよりはジャングルに近い景色が続いている。
日は余り出て居ないが風が通らないので蒸し暑かった。
手を仰ぎながら更に奥へ歩いていくと――やがて滝水の音が聞こえる。
木々の間から周りを覗いてみた。
――滝だ。


目の前には大きな滝が合った。
「あれじゃないですか?」
「…うん。あれ」
目を輝かせたマロンの問いにリネが答える。
イヴとリネがそのまま先頭を歩き、なんとか滝の前まで到達した。
水を汲む容器を取りだし、滝の水を汲む。
「これ飲んだらおいしそうじゃね?」
「…毒入ってそうじゃない?」
相変わらず馬鹿な言葉を発するレインに、セルシアが相変わらず苦笑しながら言った。
セルシアの言葉にリネが2人の方を振り返る。
「飲めない事は無いわよ」
「…マジ?」
「一応天然水だからね。体に害が無い事は判ってるけど…味の保障はしないわ」
リネがそう言って大きな滝を見つめた。
飲める水と言う事は分かったが、未知の土地でしかも誰も飲んだことの無い水となると…手が付けにくい。
リネの言葉を信用していない訳じゃないが、やはり抵抗が合った。
それは実際に調査をしてきたリネも同じようで、水に手を付けようとしない。
「…誰か飲まない?」
「誰も飲まねえだろ」
彼女の言葉にロアが速攻で言葉を返した。
水を容器に入れ終えたマロンとイヴがリネ達の傍に戻ってくる。
「何?何の話?」
話に割り込むイヴに、セルシアが苦笑の顔をしたまま答えた。
「フィリアの水の話。一応飲み水みたいだけど…」
「飲めるなら飲めば良いじゃない」
イヴがそう言ってすたすたと水の方に歩いていく。
「…って、ちょっと?!」
流石に5人全員が目を見開いた。
何の躊躇も無くイヴが滝の水を手で掬って飲み干す。
…だが彼女に特に変わった変化は無かった。
「あ、美味しい」
とかそんな事を言っている始末だ。

「…どんだけチャレンジャーなんだよ…イヴっち」
「ある意味凄いけどね」
レインとリネが苦笑のままその場を動けないで居る。
一方マロンとセルシアがイヴの言葉に安心して滝の水を掬って飲み干した。
ロアはリネ、レイン同様その場を動かずに居る。
「3人は飲まないの?天然水だし意外と美味しいわよ」
「…遠慮するわ。腹壊したくないし」
マロンから受け取ったフィリアの水の入った容器を鞄にしまいながら、リネが答えた。
――今までの材料は全てリネが保管している。彼女の方が素材の保管等に詳しいからだ。

暫くフィリアの水周りで休憩してから、再び森の奥を歩き始めた。
リネもこの辺はまだ探索していないらしい。来た道を忘れない様慎重に進まなくては。

「報告書には何て書くんだ?」
「さあね…とりあえず見つかった物と、諸島の簡単な地図ぐらいは提出するつもり」
ロアの問いにイヴが面倒そうに呟く。
「そういえば、これが仕事なんだったな。2人共」
レインが思い出したように言った。
「仕事も何も、これが当初からの目的よ」
レインの言葉に踵を返して振り返りながら彼女が言う。
その言葉にセルシアが何故か少し悩んだ顔を見せた。彼は暫く迷った様な顔をしていたがやがて口を開く。
「あのさ」
「何?セルシア」
苦い顔を浮かべるセルシアに、なるべく普通の調子でイヴが答えた。
セルシアは相変わらず苦い顔を浮かべたまま言葉を続ける。
「実は俺が受けた任務はデスベリル病の治療の他に、もう1つ合って」
「それがグランドパレー諸島の調査でした。とか言う?」
「……ああ」
イヴの言葉にセルシアが暫く驚いた顔を浮かべていたが暫くして頷いた。
「ま、cross*unionとVONOS DISEは仲良しunionなんだし、分からない事も無いけどね」
相変わらず驚いた顔を浮かべるセルシアにイヴが言葉を返す。
だが胸の奥で何かが痞えた。
SAINT ARTSは元々調査を主体にしているunionだから、このグランドパレー諸島を調べに来たというのも理解できる。
だが自分とセルシアの所属するunion――cross*unionとVONOS DISEの2つは治安維持と傭兵を主にするunionだ。
…グランドパレーを調べる必要など在ったのだろうか?

頭の中で幾つも疑惑が浮かんだが、無理矢理それをかき消した。
そんな中で「あ」とマロンが驚いた声を上げる。
「何?何か合ったの?」
リネがすかさず彼女に問い掛けた。
マロンが目線の先を指差しながら答える。
「これ…何の足跡でしょうか?」
彼女の指先は地面を指差していた。皆が一斉に地面を見つめる。
…確かに。地面には大きな獣の足跡が付いていた。それも数個だけではない、幾重にも。
「未確認生物の足跡。って事…?――面白いじゃない。追って見ましょうよ」
「…危なくないかな?」
「危ないのなんて元から承知でしょ」
マロンの言葉にイヴが力強く返答する。
イヴの言葉にマロンとセルシアが少し不安の顔を浮かべていたが、残りの3人が行く気の為、仕方なく彼らの姿を追いかけ歩き出した。










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