合流した4人にアシュリーの事を話したのだが、全員に「夢でも見たんじゃないか」と拒絶された。
マロンが言うに、彼女達が此方に駆けて来た時。既にアシュリーは居なかったという。
何時の間に居なくなったのだろう。お礼くらい言いたかったのに。
また何処かで逢える事を期待しつつ、イヴ達は無事港町カスタラに到着した――。


*NO,16...カスタラ*


「船の手配は済ませてきたわよ」
「明日の朝に出向するみたい」
船の手配に行っていたリネとマロンは、宿屋で借りた部屋に戻って来るがそう言って笑った。
「意外だな…。そんな簡単に船なんて手配できるのか?」
余裕の表情を見せているリネに、苦笑したセルシアが問い掛ける。するとリネが意地の悪い笑みを浮かべながらとんでもない事を言った。
「あんたの名前、借りた」
「…は?」
「‘VONOS DISE副リーダー、セルシア・ティグトの仲間です。お仕事の為にグランドパレーに行きたいんですが。’って言ったら、簡単に手配できた」
「…お前なぁ…?」
セルシアの顔が引きつっている。…その気持ちも何となく分かるが。
何はともあれ、船は手配できたのだ。どうにかなるだろう。
「じゃあ今日は宿屋でゆっくりしよーぜ」
レインがそう言って部屋のベッドに飛び込む様に潜り込む。
リネが嫌悪の顔をしながら男の頭を殴った。…今、本気で殴ってたよな?リネ…。

「ところで、リネ」
そんなリネを、イヴが呼び止める。
リネが無邪気な顔をして振り返った。その横というか、下というか、ベッドで寝転がっているレインが頭を抱えている。
殴られた場所が相当痛むようだ。どれだけの力で殴ったんだ。リネは。苦笑しながら問い掛けた。

「そろそろ教えてくれない?」
「…何が?」
「BLACK SHINEで見かけたっていう、あんたの兄」
「……」
その言葉にリネが眉間に皺を寄せた。
…セルシアが少し顔を俯かせている。どうやらリネから話は聞いている様だ。
彼にだけ詳しく事情を話したのは、恐らく彼が自分の幼馴染だからだろう。





「……リネの兄は、9年前から行方不明なんだよ」
少しの沈黙の後、セルシアがそう応えた。
彼はそう言って近くのベッドに腰掛ける。相変わらず俯いた顔をしている所からして、あまり思い出したくない思い出の様だ。けれど好い加減聞い
ておきたかった。その辺の‘諸事情’って奴を。
「…セルシアの言った通り。あたしの兄さん。――リト・アーテルムは9年前からずっと行方不明なの。
何処に行ったかも分からないし…兄さんの親友でもあるセルシアも知らないって言うから…手がかりも何も無い」
そっぽを向きながらリネが呟く。
…2人共それ以上は何も言わなかった。俯いたままずっと黙り込んでいる。

「…で、あの時見た男がその…リト、だっけ?リネのお兄さんに似てたって事?」
沈黙の中でイヴが彼女に問い掛ける。
「似てる、って言うより…アレはもう瓜二つだった。まるでドッペルゲンガーみたいに――…」
リネの言葉の途中。セルシアがその場を立ち上がり扉に向かって歩き出した。
「…セルシア?」
「…ちょっと、外の空気吸って来る」
マロンの呼びかけに返事を返したセルシアが、そのまま部屋を飛び出してしまう。
彼の表情は伺えなかった。泣いていたのかもしれない。
相当2人にとって触れたくない記憶の様だ。何があったのかは分からないが。
「セルシアの様子見てくる。…勝手に街出られても困るしな」
レインが次いでその場を立ち上がり、彼を追いかけ部屋を出る。
扉が閉まる音の後、再び部屋の中は沈黙した。
リネは窓から空を見ている。空はまだまだ太陽が昇っていた。

「…セルシアは、多分何か知ってるんだと思う」
空を見上げながらリネがそう呟く。…確かに、それはイヴやロア、マロンも少し感じていた。
今のセルシアの態度を見ると、彼は明らかに何かを知っている様な気がする。
「けど、聞いてもはぐらかされるし、兄さんの事を聞いても分からないとしか応えてくれないの。
――あたしはその時幼かったから、兄さんが居なくなる前日の事なんて思い出せない。
けれどセルシアは15歳だった。…だから絶対に何か知ってる筈なのに……」
リネはそう言ってまた俯いてしまう。
…15歳。確かにそれなら何か覚えていそうな歳だ。
そのときセルシアが15歳だったのなら、リネは6歳と言う事だろう。確かに何も覚えていないのも分かる。
だが彼女も断片的には覚えているのではないのだろうか?それとも…本当に何も覚えていない?
「セルシアも本当に何も知らないだけなのかもしれないけれど…あたしは絶対何か知ってるんだと思う」
「…成る程、ね」
「…兄さんの話すると、怒るのよ。セルシア。
もしかしたら居なくなる前日に、2人に何か合ったのかもしれない…」
「…けれど、何も話してくれない?」
「……うん」
掠れた声でリネが頷く。


…大体の事情は理解した。

リネの兄、リト・アーテルムはリネが6歳、セルシアが15歳の時に行方不明になっており、セルシアが明らかに何かを知っている様に感じるが、彼
は問い掛けても何も応えてくれない。という事か。
「…次BLACK SHINEに逢ったら、聞いてみる?」
「……分からない。…聞けないかも」
寂しそうに笑うリネが言葉を返す。…聞けない。か。
沈黙の中、彼女の兄について少しだけ考えた。



* * *



セルシアが帰ってきたのは夕方近くになってからだった。
馬鹿笑いして帰ってきたレインの隣には、苦笑するセルシアの姿が有る。
どうやらレインが上手い事彼を説得した様で、既に彼は普通の表情をしていた。


「何か聞けたの?」
レインの服を引っ張り、イヴが問い掛ける。
「何のことだ?」
…コイツまではぐらかす気か。思わず足をどついて彼に小声で問い掛けた。
「リネの兄の事よ。このバカ」
「いってえなぁー…イヴっち…。
…リネっちの兄貴の事?悪いけど何も聞いてないぜ。つーか聞ける状況でも無かったし」
「…泣いてた?」
「号泣。…あ、言ったの内緒な」
それ以上の問いは受け付けないという感じで、レインがふらりと何処かに行ってしまう。

…号泣。確かに聞ける状況でない事は分かった。
やはりリネの言ったとおり、リトの居なくなる前日に、セルシアとリトの間に何かが合ったのだろうか?
というか、泣く程嫌がる記憶の理由何てもうそれしか考えれない気がする――。

けれど、何かが頭に引っかかる。
色々考えて、少しだけ溜息を吐いた。










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