サンクティアに広がる謎の伝染病の解毒剤を作る為、素材を集めることにしたは良い物の。
フィリアの水はグランドパレーに行った時に取りに行けば良いと思う。
アレキサンダーの花は夜の高原でないと探せれないのだから、今探しに言っても意味が無いだろう。
となれば最初に探せるのは‘マドックの角’だ。
一行は幻に近いと言われるモンスター‘マドック’を探して、生息地とされているバライト湿原に来ていた。


*NO,10...救済*


「ホントにこんなじめじめした場所に居るんでしょうね?レイン」
ぬかるんだ湿原の土をすべって転ばない様注意しながら、隣を歩くレインに問い掛ける。
その問いにレインが何とも無責任な答えを返してきた。

「そういう噂ってだけだ。居る保障はー…無いな。うん」
「…この無責任」
思わず声が漏れてしまう。するとレインがワザとらしく声を荒げて言った。
「そんな事言うなよぉ。悲しくなるだろ」
「ああもう黙って歩けないあんた?!」
レインの言葉がムカついたのか何なのか。彼の後ろを歩くリネが彼に向けて拳を突き出す。
拳で殴られたレインが痛そうに背中を丸めた。
「リネっちひどーい!」
レインの何とも間抜けな声にリネが更にもう一発拳を振り下ろす。湿原の中にレインの絶叫っぽい物とリネの怒りの叫びが木霊していた。
そんな2人をリネの隣を歩いているマロンとロアが苦笑で見つめている。
とりあえずこれ以上ほおっておいてもリネの暴行が酷くなるだけの様なので、レインに新しい話題を切り出した。

「マドックの特徴って分かる?」
イヴの問いに漸く絶叫を止めたレインが少し頭を悩ませながら答える。
「んー…人よりちょーっと甲高い声で」

―――!!!!

湿原の奥から、甲高い声が聞こえた。
思わず身構えるが、何かがこちらに現れる気配は無い。


「ああ、そうそう。今みたいな声で。頭に一角獣みたいな角を持ってて」
「…ちょっと」
リネが彼を呼び止めるが、彼は話すのを止めない。

「どっちかっつーと鹿か?とりあえず鹿みたいな体系してて」
「……おい、レイン」
リネの呼びかけに答えないので、続いてロアが彼を呼んだ。
だか相変わらず彼の耳に声は届いていない。尚も説明が続く。

「体は灰色だな。で、熊みたいにもっさもっさと毛が生えてて」
「…あの。レイン……」
遂にはマロンが彼を呼んだ。
だが彼も相変わらずだ。耳に届いていないどころか此方を見向きもしない。

「尖った角で突進するように攻撃してくるんだ。爪で攻撃してくる時もあるんだが、爪には猛毒が入ってるらしいぜ」
「ちょっと、レイン!!」
イヴが彼の腕を引っ張った事により、彼が漸く話すのを止めた。
「なんだよイヴっち。何か用?」
彼が少し不服そうな顔をしている。話すのを邪魔されたからだろう。
だかそんなレインに彼以上の不服そうな顔を浮かべるリネが叫んだ。

「つまりアンタの言うマドックってアレでしょ?!」
リネがそう言って霧の先を指差す。
「…は?」
レインの口からなんとも間抜けな声が溢れた。彼が慌てて視界の前を見つめる。
…目の前には今レインが言った‘マドックの特徴’と全く一致するモンスターが、鼻息を荒くして立っていた。





「…あー、うん。これだな。これ」

「早く言いなさいよ!このアホ!!」
リネがそう言ってレインの頭を思い切り殴る。
「これ以上喧嘩してる場合じゃないだろ!」
そんなリネとレインを双剣を抜くロアが注意した。リネが小さく舌打ちをし、後ろに下がって小さく詠唱を始める。
「や。でもこれはちょっとー…」
「何よ。まだ何かある訳?」
いかにも何か言いたげなレインに、イヴが少し苛々した口調で問い掛ける。
レインは青い顔をしたまま応えた。


「…デカ過ぎね?」

「……確かに…」

レインの言葉にマロンが驚いた顔で頷く。…レインの言葉も最もな気がした。
目の前に居るマドックは自分達の二倍近くの大きさだ。……確かに幾らなんでもこれは大き過ぎじゃあ…?
そんな事を思っている内に目を光らせるマドックが此方に行き成り突進してくる。
ロアとマロンが左に、レインとイヴ、リネが右にそれぞれ攻撃を避けた。
「ちょっと!詠唱の邪魔すんな!!」
巨大なマドックに向かってリネが怒りを露にする。彼女はそのまま速攻で初期魔術を唱えだした。

「火花散らすは始電の雷神――。イグベッション!!」
光り輝く魔法陣が彼女の足元を照らし出す。
霧の湿原に、雷撃の一撃が降り注いだ。狙いは無論マドックだ。だが――。

「ちょっと待ってリネっち!!マドックに雷はきかねえぞ!!」
レインが青い顔をして応えた。――確かに今の攻撃は全然効いていない様に見える。寧ろ元気になっている気もした。
マドックが体を帯電させながら真っ直ぐに突進してくる。
マロンが弓を撃ちイヴが魔弾球を投げつけたお陰で、上手く走る道が反れ間一髪でリネが攻撃を逃れた。
「は、早く言いなさいよ!馬鹿!!」
「んな事言ってもなあ…」
怒鳴るリネにレインが相変わらず苦笑したまま応える。
「次、来るぞ!!」
ロアが叫びながらマドックに向かって銃弾を発砲した。近距離で闘うのは不可能そうだ。正しい判断だろう。
だが帯電状態のマドックには全く効いていない様だった。コイツ…もしかして雷を受けると一時的に攻撃を受け付けなくするのだろうか?

「リネ!地属性の技は何か無いの?」
「ある!ちょっと待って!!」
マロンの問いにリネが大きく頷いた。そのまま彼女は腕を振り上げる。
「風を切る猛威、大地の刻む旋律(フルスコア)――。グリーディア!!」
足元に急速に展開された魔法陣が、確かにマドックの体を捕らえた。
地面から吹き上がる岩に、マドックが苦しそうに暴れだす。
其処にロアとマロンが遠距離攻撃を放った。弓が上手く足元に刺さり、銃弾が肉体を掠める。
「もうちょっと…!」
そう思い魔弾球を投げようとするが――。

「イヴ!危ない!!」
マロンの言葉に咄嗟に後ろを振り返った。
――振り返り、気付くのが遅かった。
暴れまわるマドックが、何時の間にかこの近くまで移動していたのだ。
「っ――!!」
呆気なく攻撃を喰らった。
爪の攻撃だ。…爪って確か猛毒があるんじゃなかったっけ?
案の定体が思うように動かなくなる。
マロンが慌てて駆け寄って来た。マドックから離れてから、魔術増幅器により魔力を引っ張って傷の治療をする。
「ごめん…マロン」
「喋っちゃ駄目」
猛毒と言うのは確かなようだ。視界がぼやける。
「ちょっと!どうすんのよこのじゃじゃ馬!!」
リネが苛立った声で叫ぶ。
「頭だ。頭を攻撃すれば多分倒せる――」
レインが眉間に皺を寄せながら応える。
ロアの方を見るが、運が悪いとはこの事だろうか。弾切れの様だった。
「リネ!魔術でどうにかならねーか?」
「どうにかって……ああもう!!あんた達無責任すぎ!!」
リネが怒りを露にしたまま詠唱を開始する。魔法陣の色は赤。――恐らく火系の技だ。
どうにかしてマドックがイヴ達に攻撃するのを防がないといけないのだが、マドックの動きを封じる手が無い。
絶体絶命。――そんな時だった。


「――――!!」

突然、マドックが甲高い悲鳴を上げた。
と、思ったら、マドックの体が地面に倒れる。…何が起きた?
治療を終えたマロンと、大分顔色の良くなったイヴが呆然としている。
マドックは倒されていた。頭から血が流れている。刺し傷のような傷だ。…誰がこんな事を?





「大丈夫か?」


――その声が聞こえたのは背後だった。5人が一斉に後ろを振り返る。
其処に立っているのは、銀髪の髪を束ねた男だった。
手には戦輪が握られている。――恐らくそれがマドックを仕留めた武器なのだろう。

「…アンタ誰?」
イヴが呟くのと同時。

「……セルシア?」

リネがそう呟いた――。










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