それからラグレライト洞窟を出るまでは皆ほぼ無言だった。 洞窟を出た所で一度野宿をしてから、翌日に次の街‘サンクティア’へ到着する。 だが、そこで見たのは――。 *NO,9...デスベリル病* …まるで墓地に居るような気分にさせられた。 人気が無いという問題何かでは無い。木は枯れ、自然が枯渇した世界。 「ちょっと、水。濁ってるわよ」 街の井戸を覗きながらリネが呟いた。 その呟きにマロンが彼女の傍に寄る。彼女もまた井戸を覗き込んだが確かに水は濁りきっていた。灰色の水が井戸の中を埋め尽くしており、そし て井戸の周りには苔が張り付いている。とても飲める水だとは思えない。 「草が枯れてるな…どーいう事だ?最近廃墟になったとか?」 レインが街回りを見ながら言った。 確かに…とても人が住んでいるとは思えない環境だ。 草は枯れ、まともに生長している木は一本もない。 「…そんな噂は聞いた事ないわ。前来た時は人も居たし、普通の街だった」 リネがレインの意見に反対する。 彼女の耳に街の崩壊の噂は届いていないというが、それならどうしてこんな状況に――? そんな時だった。 「おい。あそこの家だけ灯り点いてないか?」 と、ロアがそう言って遠くの家を指差した。 イヴとレインがその言葉にロアの指差した方を見る。…確かに窓から灯りらしき物が漏れていた。 「…行って見ますか?」 「……何か手がかりがあるかもしれないしね」 マロンの問いに、イヴが肯定の返事を返す。 リネがその言葉にさっさと街の奥に歩き出してしまった。慌ててその姿を追いかける。 家に近付くと、確かに部屋の明かりが点いていた。 一番前に居たリネが、何の躊躇いも無しに扉をノックする。つくづく度胸のある子だと思った。 扉の奥で、誰かが走ってくる音が聞こえる。 やがて扉が開くと、一人の老いた老人が出てきた。格好からして医師の様だ。 「旅人かね?」 「そんな感じ。…この街ってどういう事なの?」 「…とりあえず中に入るといい」 そう言って医師は部屋の中に歩いていってしまった。 全員が全員一瞬躊躇いがちに顔を合わせるが、入れと言われたのだから入って問題は無いだろう。部屋の中に足を踏み入れた。 医師が歩いていった方へ歩いていくと、部屋の奥の待合室に出た。とりあえず待合室の椅子に座る。 待合室に医師が歩いてきた。手にはレポート用紙の様な紙が握られている。 「…それは?」 「この街の現状だよ。まずはこれを見て欲しい」 そう言って医師がイヴの手にレポートを手渡した。 遠くの席に座っていたレインとリネが近付いて傍からレポートを覗き込む。――レポートには細かい文字と、幾つかの写真が貼り付けられていた。 「ちょっと、文字読めないから読んでよ、イヴ」 遠くから目を凝らしてレポートを見ながらリネがそう言った。恐らく視力が悪いのだろう。 イヴが頷き、レポートの字をなぞりながら読み上げ始めた――。 「…サンクティア伝染病。Date、*月*日…。」 -------------------- ――サンクティア伝染病―― ▼*月*日。 ある日突然人が倒れ出した。原因不明の高熱が原因だと思われる。 またこの病には感染性が高いらしく街の殆どの人が感染していると発覚した。 この感染病を我々は‘デスベリル病’と名づけることにする。 ▼*月**日。 草木が枯れ、水が枯渇した。植物にも感染する感染菌の様だ。水を飲んだ人間が感染している様だった。 昨日感染した人間は高熱の他に節々の痛みを訴えだした。 原因は体内に寄生した病原体が爆発的に体中に広がり、体全体を犯したからだと思われる。 まだ感染していない人間は即座に街を離れ、感染者の集うこの街は封鎖された。 ▼*月***日。 何故だろうか。医師の俺には感染しないこの病気は感染性は高いが俺の様な人間には感染しない様だ。 現に院内で何人もの感染者を相手にする俺は感染性に掛からず、掛かりつけの看護婦も感染病に感染しない。 だが感染者に全く触れたことのない院内の薬剤師が感染病に掛かった。 感染病の感染理由は何なのだろうか? ▼*月****日 ついに感染病に掛かった一人が死んだ。死因は体内に広がった感染菌だと思われる。 恐らくこれから感染による死は広がっていくだろう。 だが未だ分からない。何故私や掛かり付けの看護婦は感染病に犯されないんだ? ------------------- 「…貴方には感染病が感染していない?」 「……その様なんだ」 イヴの問いに医師が力無く頷く。 「感染病ねぇ…」 レインがそう言ってレポートを手から奪い、写真をぱらぱらと捲りながら見出した。 リネもそのレポートを覗き込み写真を見ている。 「うわ…エグいわね。この感染性」 恐らく感染性に掛かった人間の写真でも合ったのだろう。リネの呟きに苦い顔をするしかなかった。 「治す方法は無いんですか?」 「…無い訳では無いんだが」 医師がそう言ってまた別のレポートを出してきた。 其処には感染性の治し方について詳しく研究されたレポートが広がっている。マロンとロアがそれを覗いた。 「…アレキサンダーの花?」 「ああ。それにフィリアの水とマドックの角という物が有れば、3つを調合する事によって解読剤を作る事が出来るのが研究で分かったんだ。 けれどどの材料も希少価値が高くてね…」 そう言って医師が頭を抱える。確かにどれも希少価値の高そうな名前だった。 「アレキサンダーの花ならこの辺の高原に咲いてると思うわよ。…この辺の高原がまだ生きてるならね」 リネが頭を抱えながら呟くのが聞こえる。 「マドックの角ならマドックってモンスターを倒せば直ぐだな。 マドックは結構珍しいモンスターだけど…生息地は一応この辺の筈だぜ?」 更にレインが言葉を付け足す。成る程。2つの素材の場所なら大体分かったが…。 「フィリアの水は?」 「…多分。グランドパレー」 イヴの言葉に返したのはリネだった。 何かを考え込みながらリネがそう呟き、彼女は自分のポーチから大量の束を出して内容を確認し出す。 「…うん。グランドパレーね」 やがて彼女が一枚のレポートを皆に見せながら確信めいた声で頷いた。 そのレポートに描かれているのは、グランドパレーで取れる素材の名前の様だ。 その中には確かにフィリアの水が書かれている。…これが一番希少価値の高そうな素材だ。 「あの…イヴ」 マロンが彼女の肩を叩きながら、おずおずと話しかける。 「どうせあんたの事だから、素材集めたい。って言うんでしょ」 「……」 イヴの言葉に図星と言わんばかりにマロンが俯いた。彼女は俯きながら呟く。 「助けたいんです。一人でも多くの人の為に――」 「…どうする?」 ロアが後ろに居るレインとリネに問い掛けた。 イヴとロアに着いては既に了承している様だ。そういう顔を浮かべている。 「良いんじゃない?寄り道程度でしょ、そんなの」 「ま。ほっとくのも居心地悪いしなぁ」 意外にもあっさりと2人は頷いてくれた。 マロンが明るい顔をするが、それ以上に医師が驚いたような顔をしていた。 「宜しいのですか…?」 「今から丁度グランドパレーに行く予定だったのよ。 …ちょっと時間掛かるかもしれないけど、必ず材料を取ってくるわ」 イヴがそう言ってにっと笑う。 その言葉に医師が立ち上がり深々と頭を下げた。 「お願いします。…感染病の肥大を阻止したいんです」 「必ず探してくるわ。…このレポートは借りても良い?」 「勿論です。どうかお願いします」 医師の言葉に5人は大きく頷いた。 BACK MAIN NEXT |