ヴィエノロの近くで一夜野宿をした翌日。
リネの言っていた港町――カスタラを目指し、イヴ達はラグレライト洞窟内にやって来ていた。
カスタラへ行くにはこの洞窟を必ず通らなくてはいけない。高く聳えるラグレライト山の先に港町‘カスタラ’は在るのだ。
薄暗い洞窟内を、5人は歩いていた。


*NO,8...ひみつ*


「リネも居ると心強いねっ」
洞窟内で、マロンがそう言って彼女ににっこりと微笑む。
少しだけ頬を赤く染めたリネが、俯きながらぽつりと呟いた。
「…別に」
そんな彼女にマロンが尚も会話を試みようと言葉を投げる。
2人を見ていると自然と笑みが零れてきた。暫くはこの会話を聞いてるだけで楽しめそうだ。
薄暗い洞窟内は先ほどから分かれ道やら狭い道が続いているが、洞窟内に丁寧にも看板が立てられているので迷うことはまず無かった。
「これなら直ぐに街に着きそうだな」
「…何も無ければね」
ロアの言葉に苦笑のイヴが答える。
そう、このまま何事も無ければ今日中に次の街に着く事が出来るであろうが――。


そう簡単に行かない事ぐらい分かってた。
一瞬、耳鳴りに近い高い音が鳴ったと思えば――


「――伏せて!!」

リネの言葉に咄嗟に下に屈んだ途端、魔術の火花が真上を掠めて行った。
それ以上何かが飛んでこない事を確認してから立ち上がり、術の飛んできた方を睨む。
――其処に立っているのは。

「…BLACK SHINE」
「久しぶりね、一人増えてるみたいだけど」

クライステリア・第一神殿で見たBLACK SHINEの女だった。
「ちょっと。どういう事よ」
唯一人状況を理解出来ないリネが、イヴの背中を叩きながら問い掛ける。
「ヴィエノロで言ったじゃない。諸事情でBLACK SHINEに捕まってたって」
「…あれ本当だったの?」
どうやら本気で信じていなかったらしい。リネが顔を引きつらせていた。
だがこの状況になって漸くアレが本当の事だったと信じてくれたようだ。それはともかく。

「…まだ何か用か?」
目の前に現れた女にロアが冷たく返す。
その問いに妖魔の笑いを浮かべながら、女が応えた。

「見られたら排除するってのが私達のやり方なのよね」
「だから殺しに来ました、って?」
「ま、早く言えばそういう事かしらね」
そう言った女が鋭く光る銃を此方に向ける。
何の躊躇も無くトリガーが引かれ、彼等は咄嗟に左右に身を投げた。

「一体何に首を突っ込んだのよ、あんた達!」
体勢を立て直しながらリネが苦い顔をして叫ぶ。確かに彼女にとっては何故自分までとばっちりを受けなくてはならないんだという感じだろう。ちょ
っとだけ申し訳なく感じた。
「そんなに酷い事には首突っ込んだ覚えないけどな!」
そんなリネに槍を持つレインが応える。確かに、そんな大きな事に首を突っ込んだ気は無かった。
たまたま神殿の奥でBLACK SHINEの下っ端と鉢合わせして、…まあ確かに多少下っ端を蹴散らしたりしたが、彼等の言う‘計画’を妨害した覚え
は――。



「…って、下っ端を攻撃した時点で‘妨害’…か……」

溜息を吐きながらぽつりと独り言を呟く。
うん、そうだ。下っ端を攻撃した時点で十分‘計画の妨害’だ。やっぱりあの時すかさず退散していれば良かったと今更ながら後悔した。
遠くでマロンが弓を引くのが見える。今は戦いに先決するのが正しいだろう。
イヴも鞘から剣を抜いて剣を構えた。
打ち込まれる銃弾をギリギリかわして、ロアと2人で左右に回り込む。
手早く銃弾の入れ替えをする彼女に向け、同時に剣を振るった。
「――ブラッティレール」
弾の入れ替えをする女が、笑いながら呟く。――しまった、コイツ‘魔術士’でもあるのか!!
案の定展開された足元の闇の陣から伸びる攻撃に、ロアとイヴが吹っ飛ばされた。
無防備なところに銃弾を撃たれる。咄嗟に剣を盾にして防いだ。
ロアとイヴが吹っ飛ばされて直ぐにマロンが弓を打ち込み、レインが彼女に体術を吹っ掛ける。
弓矢はバックステップで軽々と交わされ、体術の方もあまり効果は無かった。
「そこ、離れなさい!」
足元に魔法陣を描くリネがレインに向かって叫ぶ。それに気付いたレインがその場を離れた。
「――振り上げよ、聖光なる炎!ファイアーボルト!!」
彼女の魔術増幅器である宝玉が共鳴するように光り輝く。発動された魔術から吹き上げた炎が女に襲い掛かった。
「精練されし聖なる水よ。――グラストアクア」
猛威を振るう炎も、女もまた魔術によって互いの術を相殺させる。
リネが小さく舌打ちをするのが聞こえた。彼女が次の詠唱に入る前に、イヴが話しかける。

「少し大きな技、出せる?」
「…時間掛かるわよ」
「分かった。それまで何とか時間を稼ぐ」
「……任せるわ」
そう言ってリネが直ぐに詠唱に入った。足元に浮かぶのは水の魔法陣。
恐らくかなりの時間を要入るだろう。どうにかして時間を稼がなくては。
遠くにいるロアとレイン、マロンにアイコンタクトをとると彼等は同時に頷いた。どうにかして時間を稼ぐのが先決だ。
そして再び銃を構える女に、ロアと2人で再び斬り掛かる。
避けられ反撃に魔術を使われる事を想定し、今度は逃げ道を確保して敵に切りかかった。
「我が力となりし物よ、大いなる壁を造り敵を阻め賜え――。ミスティックゴーデル」
案の定魔術で攻撃が防がれる。これはまだ想定内。その隙にマロンが弓を射、後ろからレインが槍を振った。
生憎槍の方は外れたが、弓は上手く彼女の右手を掠めた。右手握られていた銃が地面へ滑り落ちる。
今なら反撃が効く筈だ。イヴがもう一度剣を振るう。が、
気付いた。女の左手にもう一丁銃が握られている事に――。

「っ――!!」
慌てて右側のレインが居る方に体を投げる。銃弾が頬を掠めた。掠めたぐらいで済んだのが幸いだ。
「誰も一丁しか銃を持ってないなんて言ってないわよ?」
地面に落ちた銃を右手で拾いながら、女が笑う。
――両利きだ。直感で理解した。
両手で銃が撃てるとなると、両手を塞がない限り銃弾の猛威からは逃げれない。
一度距離を取って、リネの傍に戻った。
「まだ?」
「あと少し――!」
イヴの問いに甲高くリネが答える。
…後少しとはどの位なのだろうか。分からないがとにかく彼女の妨害をさせる訳には行かない。
今度はレインとロアが先に槍と双剣を振るった。女が直ぐに銃を構え、2人の方に打ち込む。
マロンが遠くからもう一度矢を打ち込むが、今度は掠めもしなかった。
女は一度後ろに引き下がってから同時にもう片方の銃でイヴ達の方を狙ってくる。
撃たれた銃弾を彼女が剣でカバーした。恐らく今の銃弾はリネを狙ってた。
「――清水よ、清き舞姫と誓いの結印を」
詠唱を詠う彼女が、目で此方に訴える。――詠唱が終わった。
「離れて!!」
腕を振るい上げながらリネが叫んだ。
彼女が腕を振るい下ろすと同時に、レインとロアが同時に前後に引き下がる。

「――アクエス!」
魔術増幅器が共鳴の光を示し、猛威の水が敵に降りかかる。
流石に少しの時間稼ぎを注文しただけあって威力はそれ相応のモノだった。
「っ――!!」
魔術が女へと命中する。今のは多分、当たった!
案の定魔術が消えてから女は体に傷を負っていた。小さく舌打ちをして、彼女が銃をホルダーに終う。
同時に彼女の背後に人が現れた。あの神殿で見かけた赤髪の男だ。


「一度引き上げるぞ」
「…知ってるわよ」
男の言葉に彼女が嫌々そうに頷いた。
「逃げる気?」
剣を構えたまま一歩2人に近付く。――そんなイヴの前にリネが飛び出すように前に出た。
彼女より一歩多く踏み込んで、驚いた様な目で現れた男の方を見ている。
次の瞬間に、目を丸くしたリネがとんでもない事を呟いた。



「――兄、さん?」

「……」

――男がその言葉に応えることは無かった。
無言のままその場を立ち去る。

「…今日は分が悪かった。一度引くわ。
私の名前はノエル・ライラ。BLACK SHINE幹部リーダーよ。…覚えておくことね」
そして女もまた、その場を立ち去った――。




「…リネ、今の言葉」
「……忘れて」
彼女は既に平常の顔に戻っている。だが何処と無く顔色が悪い様にも感じた。
「どういう事?」
尚も問い掛けると、彼女が唇を噛み締めるのが見える。…触れてほしくないという事か。
「リネっちにも事情ってもんがあるんでしょ。俺達にも事情があるみたいに、ね」
レインが彼女を軽くフォローした。
そんなレインの言葉の後に、リネが続けて言葉を発する。

「…ごめん、今は言えない。――確信を持てた訳じゃないから」

そう言って彼女は、男とノエルの消えた方をじっと見つめた―――。










BACK  MAIN  NEXT