――目を開けると無限の暗闇が広がっていた。目を覚ましたイヴがその場を何とか起き上がる。 「あ、イヴ」 その近くでマロンの声が聞こえた。横を見るとマロンが座って居る。 周りを見るとレインとロアも同じように座っていた。レインに至っては壁に凭れかかっている。 ぼやけた頭で現状を整理する。 …ああ、そういえば。BLACK SHINEの下っ端と戦ってる内に、そのBLACK SHINEの仲間が現れて捕まったんだっけ。あたし達。 *NO,6...脱出* 現状を頭の中で整理してから、改めてマロンに問い掛けた。 「此処、何処?」 「……わかんない」 イヴの問いにマロンが肩を落としながら答える。ロアとレインの方を見るが彼等も首を横に振った。 大分闇に慣れた目で周りを見回してみる。 目の前には錆びた鉄格子が合った。どうやら此処は何処かの牢屋らしい。…BLACK SHINEの基地とかだろうか? そう思ったが直ぐにその考えは捨てた。周りに見張りが一人も居ない。 ……て事は、自分達は此処に捨てていかれたと言う事だうろうか? 立ち上がり、鉄格子に触れてみた。 …大分錆付いている。こんなにボロいなら体当たりを続ければ壊れるかもしれない。 魔弾球を使えれば楽なのだが生憎球は先程BLACK SHINEと闘った時に球切れ。 マロンが魔術を使えるから魔術を使ってもいいのだが、もしこの近くにBLACK SHINEが居たなら直ぐに見つかってしまう。 「…どうする?」 ロアの問いに、イヴが考えながら言った。 「とりあえず体当たりでも続けたら壊れそうじゃない?この鉄格子」 「…体当たり、ねぇ」 レインが立ち上がり、鉄格子に近付いた。 「やるんでしょ?」 「勿論」 レインの言葉にイヴが大きく頷く。 2人は鉄格子から距離を取った。軽く助走をつけて突っ込んだ方が、少しは威力が上がるだろう。 2人の様子をマロンとロアがじっと見つめている。 「「せーのっ!!」」 同時に声を上げ、鉄格子に突っ込んだ。 ガシャン!! と大きな音を立て鉄格子が揺れるが、それだけだった。 だがこのまま体当たりを続けたら鉄格子は壊れそうだ。現に今鉄格子は少しだけ斜めの角度を向いている。 「俺も手伝うよ」 ロアが立ち上がりレインの隣に立った。マロンは相変わらずはらはらとした感じで様子を伺っている。 3人で鉄格子から距離を取り、再び合図を出して鉄格子に突っ込んだ。 ガシャン!!! 大きな音を立て、鉄格子が更に斜めの角度を向く。 「もう少しっ!」 もう一度距離を取り、助走をつけて3人で鉄格子に体当たりをした。 明らかに鉄格子の上の方があらぬ方向にひね曲がっている。――このまま上手く行けば、鉄格子の上の方が割れて隙間を潜れるかもしれない! 「もう1回、やるぜ」 レインが言った瞬間に、マロンも立ち上がった。 「私もやりますっ!」 彼女はそう言ってニッコリ笑う。…彼女は生まれつき体が弱いから正直無理はしてほしくなかったが、今は人手が足りないので仕方なく承諾した。 4人で鉄格子を距離を取り、目を見合わせる。 「せーのっ!!」 イヴが叫んだ事により4人は同時に助走を付けて鉄格子に体当たりした。 ガッシャーン!!! 一際大きな音が響き渡る。――目の前には折れた鉄格子が転がっていた。 「よっしゃあぁっ!!」 ガッツポーズを取るレインに釣られて、イヴも思わずガッツポーズを取った。 マロンとロアが手を叩いて喜び合っている。折れた鉄格子の隙間から何とか人が通れそうなスペースを確保した。 初めにイヴが鉄格子の隙間を潜り抜ける。少し狭いが通れない事は無かった。牢屋の中から脱出し、彼女は大きく伸びをする。 序でレインが鉄格子を通り抜け、マロン、ロアと続いて牢屋から飛び出した。 4人共無事に脱出できた所で、辺りを見回す。 「あれ、俺たちの武器じゃね?」 レインが指差した方向には、確かに自身の武器が置いてあった。 無造作に放置されている所からして、本当にこの場に捨てられただけの様だ。 だが油断は出来ない。何処にBLACK SHINEが潜んでいるのか分からないのだから。 「此処が何処だかわかんないけど、とりあえず早めに此処から脱出しましょ」 自身の武器である剣の鞘を腰のホルダーに引っ掛けながらイヴが言った。 その言葉に3人はそれぞれの武器を確認しながら大きく頷く。3人の承諾を得てから、目の前にある階段を初めにイヴが昇った。 螺旋階段の様にくるくるとひね曲がった階段を上がると、目の前には廃墟が続いている。 「どうやら廃墟の街みたいだな」 「レイン、此処って何処だか分かる?」 土地に詳しいのはレインなので、彼に聞いてみた。 レインは頭を悩ませながら、声を上げる。 「…多分、ヴィエノロじゃねえか?大分前に廃墟になったクライステリア・第一神殿の近くにある元大型都市だ」 「ヴィエノロ……」 マロンがぽつりと呟く。聞いたことのない都市の名前だった。 恐らく何十年前に廃墟になったのだろう。家と思われる廃墟の壁には無数の苔や蔦がへばり付いている。 空を見上げると既に夕方だった。空に月が見える。夜になる前に此処を出たほうがいいだろう。暗くなると行動が難しくなる。 「急ごうぜ」 ロアの言葉にイヴ、マロン、レインが頷いた。 とにかく、せめてこの廃墟からでも出なくては――。 走り出そうとしたその時。 …人影が、見えた。 先頭に居たロアとイヴが思わず身構える。だが建物の影から出てきたのは――意外にも女の子だった。 ショートヘアーの赤髪を靡かせながら、薄紫の瞳が此方を見ている。 …彼女もまた、自分達の姿に驚いている様だった。 「…へえ、あたし以外に居たんだ。人」 沈黙の中、少女が口を開く。彼女の手にはランプとレポートの様な紙の束が握られていた。 …一瞬、赤髪を見た時クライステリア・第一神殿で見たマロンを抱えていた男の事を思い出した。薄暗くて顔は余り見えなかったが、確かアイツも 赤髪だった。 けれど向こうは男。対して目の前に居るのは少女で、しかも男に比べてずっと身長も低い。 同一人物とは考えにくいだろう。似ているが他人に違いない。先程の反応が、その証拠でもある。 「あんた達何してんの?廃墟好きのどっかのマニア?それとも――」 「諸事情によってBLACK SHINEに捕まってた集団よ」 「……諸事情って、何したのよ。あんた達」 彼女が顔を引きつらせている。眉間に皺が寄っていた。 「あのっ、此処ってヴィエノロで間違いないですか?」 そんな中マロンが彼女に問い掛ける。彼女は不思議そうに頷いた。 「何?あんた達地名も知らずに此処に来た訳?…さては迷子?」 「だから、諸事情だってば」 「…意味わかんないけど、まあそういう事にしといてあげるわ。じゃあね、あたし急いでんの」 彼女はそう言って、ひらひらと手を振り踵を返す。 「ちょっと待って」 そんな彼女をイヴが呼び止めた。…面倒そうに彼女が振り向く。 「何?まだ何かあんの?」 「出口に向かうんでしょ?だったら案内してくれない?」 「…やっぱり迷子なんじゃない。あんた達」 溜息を吐きながら彼女がぽつりと悪態を吐く。だが否定はしなかった。 「日が暮れる前には出たいんだから、ちょっと急ぐわよ?それでも良いなら勝手にして」 彼女はそう言ってさっさと歩き始める。その姿を慌てて追いかけた。 「名前、聞いてなかったな」 ロアの言葉に彼女がレポートの様な紙束に目を通しながら面倒そうに呟く。 「リネよ。リネ・アーテルム」 「そう、あたしはイヴ」 「マロンです」 「俺はロア・マッドラス」 「レイン・グローバルだ。宜しく」 ひとまず自己の紹介を終え、再び5人は歩き出した――。 BACK MAIN NEXT |