イヴの投げた魔弾球は地面にぶつかると幾つもの鮮やかな魔法陣を作り出した。 そこから発動する低級魔術により、BLACK SHINEの動きが少しだけ遅れる。 その隙にイヴとレインは同時に走り出していた。彼が右を、彼女が左を。 マロンはそんな彼等を見守り、ロアは彼女の守りとして部屋の外の薄暗い廊下に双剣を構えながらその場で立っていた。 *NO,5...BLACK SHINE* 「ちょっと、レイン!そっち行った!!」 「はいはーい」 左手で剣を振るう彼女が、レインの方を見ながら叫んだ。 その声にレインから陽気な返事が帰ってくる。だが体はちゃんと動いていた。彼の槍が敵の攻撃を上手く防ぎ、受け流す。そして敵が怯んだ隙に お得意の蹴りが飛んで、大抵の奴等はそれで気絶していた。 にしても何人居るのだろう。恐らく下っ端だと思うが――幾らなんでもこの人数は多くないだろうか? 「ったく…何人居るのよっ!!」 レインと同じ様に肘で敵の体を度突きながら、イヴが叫んだ。 そんな彼女にレインが苦笑する。彼は苦笑しながら向こうの攻撃を右にかわした。 「イヴっちー!そっちに魔術詠唱してる奴が居る!!」 すかさずレインが声を上げる。その言葉に周りを見回した。…確かに居る。距離はレインよりイヴの方が近い。 彼女は走りながらストック用である魔弾球を敵に投げつけた。低級魔術だから足止めにしかならないが、詠唱を妨げるのはこれで十分だ。 不意に視界の端に、敵が部屋を出て行くのが見えた。部屋を出た先の廊下には――マロンとロアが居る筈だ。 案の定部屋を出て行った敵から呻き声が聞こえてきた。 部屋の入口には双剣を握ったロアが立っている。マロンは多分廊下でまだ佇んでいるのだろう。無理して戦闘に参加して欲しいとは思わないので 敢えて何も言わなかった。 「イヴっちー!よそ見してると危ないよー!!」 「ああもう、煩い!分かってるわよ、そんな事」 レインの言葉に怒りを露にしたイヴが叫んだ。彼女は叫んだまま剣を振るい、敵の攻撃を上手く受け止める。 そこから右に一旦逃げて、回し蹴りを食らわせてやった。 ――浅いが確かに手ごたえは合った。 敵が怯んだ隙にもう一度攻撃を加える。 目の前で何度もBLACK SHINEは倒れていくのだが、何せ人数が半端無い。3人だけじゃ勝ち目がない気もしてきた。 「ねえ、これってやっぱり撤退した方が良いんじゃないの?」 イヴが回りの敵を魔弾球で追い払いながらレインに問い掛ける。 「かもねー」 なんとも暢気な声が帰ってきた。 あれだけ暢気な声を発してはいるものの、体はきびきび動いている。周りの敵を槍で薙ぎ払い上手く距離を取りながら蹴りや拳を食らわせていた。 ロアの方も何とか上手くやっているようだ。時々やってくる敵の攻撃を片方の剣で受け止め、もう片方の剣で反撃する。 実力的には明らかにこっちが上なのだが――疲れが見えてくるのも時間の問題だ。 このまま持久戦に持ち込まれたら、それこそ危ないかもしれない。 やっぱり此処は一時退却をした方が…。改めてそう思った瞬間。 「きゃあっ!」 ――廊下からマロンの声が聞こえた。 「マロン…!?」 イヴの声に反応したロアが、すかさずマロンの方を覗く。 ――その瞬間、何故か彼は床に倒れてしまった。今、何が…?! レインの動く手が止まっている。 敵の動きでさえ止まっていた。…勿論、イヴも動くことを忘れている。 「こんにちは。貴方達は物好きで足を踏み入れた人それとも、私達を捕まえようとしたunionかしら?」 目の前に居るのは――BLACK SHINEに所属しているであろう女の姿だった。 しかも気配でなんとなく分かる。…下っ端なんかとは比べ物にならないくらい、コイツは強い。多分幹部だ。 現れた女は妖魔の笑みを浮かべていた。悪寒が走る。…これが、本当のBLACK SHINEの脅威。 恐らくロアもこの女にやられたに違いない。下手に動けば身の破滅を招く事は分かっていた。 「…マロンに何したの」 その場から動けずに居るイヴが彼女を睨みながら問いかける。 「ちょっと気絶してもらっただけよ」 彼女はそう言って、廊下で誰かを手招きした。 女の手招きを見て廊下から部屋に入ってきたのは赤髪の男で、彼の手にはしっかりとマロンが支えられている。 どうやら本当に気絶しているようだった。…外傷が無いだけ幸いと言えるだろう。だがこれから何をされるか分からないので油断は出来ない。 「私達がやろうとしてる事、邪魔されるとちょっと困るのよね」 女は笑いながら此方に近付いてくる。…やがてイヴの前に立ってにこりと笑った。 「だから貴方もちょっと眠っててくれない?」 そう言われた瞬間。――首に激痛を感じた。多分、首を叩かれた。 たった一撃だったが眩暈がする。結局、ロアと同じようにその場に倒れこんだ――。 「…どうするんだ?ノエル」 気絶したイヴ達を見ながら、彼女――ノエルが薄く笑う。 「そうね…此処に居られても困るし、ヴィエノロの牢屋にでも入れといてよ、リト」 彼女はそう言って、その場から姿を消した―――。 BACK MAIN NEXT |