翌日。
一晩宿で過ごしたイヴ達は早朝からレインの案内によりクライステリア・第一神殿にやって来た。
クライスは‘憎悪’。テリアは‘神’。
そんな縁起のない名前によって普段は誰も近付くことのない神殿だと案内してくれた本人であるレインが言ったのだが――。

神殿の前には、確かに人が居た。
しかも男や成人した女性では無く、見た目からすれば16,7歳の少女。
緩く結んだ髪を靡かせながら、彼女は神殿を見上げていた―――。


*NO,4...クライステリア・第一神殿*


「何しに来たの?」
此方に気付いた少女が笑顔を浮かべながら此方に近付いてきた。
返答に困る。…というより、それはこっちの台詞じゃあ?
少女は軽いステップで此方まで歩いてくると微笑んだまま言葉を続けた。

「中には行かないほうが良いよ。危険だから」
「…危険?」
イヴが問い返すと、少女は大きく頷く。
彼女は無邪気な笑みを浮かべたまま、そのまま神殿の敷地を出て行ってしまった。
少女の小さな後ろ姿が見えなくなってからマロンがぽつりと呟く。
「今の子…‘SAINT ARTS’の一員だったんでしょうか…?」
「…いや、違うと思う」
マロンの言葉をロアが否定する。枯れは一呼吸置いてから言葉を続けた。
「unionにはそれぞれシンボルマークがあるだろ?今の奴。それらしいシンボルは付けてなかったぜ」
「…ああ、成る程」
イヴが納得の顔を見せた。
――unionにはそれぞれのチームの主張として‘シンボルマーク’が有るのだと今更ながら思い出した。
無論cross*unionやSAINT ARTSにもシンボルマークは存在する。
しかし先程の少女はシンボルマーク自体持っていなかった。
マロンの様に何か事情があってunion自体所属していないのかもしれない。

「…で?どうするんだ?中入るのか??」
神殿の入口を見つめるレインが問い掛けてきた。
イヴが少し悩んだ顔を見せる。…だが答えはすぐに出た。


「行こう」

危険なのは承知済みで此処に来ているのだ。それに今SAINT ARTSの手がかりになっているのはこの神殿しかない。
――不吉な予感を感じつつも、彼女達は神殿内に足を踏み入れた。


* * *


神殿内は松明が灯っているが、外と比べると随分暗かった。
イヴが床に散らばっていた木片から適当な長さの木を拾い、松明の火を木に移して奥へと進む。
「暗いね…」
イヴの隣を歩くマロンが呟いた。そんな彼女を見てイヴがまた頷く。
そこからはひたすら沈黙が続いた。
――やがて静けさに痺れを切らしたロアがレインを呼んで問い掛ける。
「お前はunionに入ってないのか?」
「あ、それあたしも気になってた」
イヴとマロンの2人も、それは気になっていた。
自分達に着いてきてくれるとあっさり承諾してくれた彼だが、彼自身はunionに所属していないのだろうか?
意図を読み取ったらしいレインが刹那顔を顰めた様に見えたが、瞬きをすると既に何時通りの顔を浮かべていた。彼は笑顔を浮かべながら言う。
「俺は自由が好きなんでね。unionには入ってねーぜ」
そう言って何故かピースする彼に、イヴが溜息を零した。――やはり先程の顰め面は見間違いだったのだろうか?
再び前を向きマロンの横を歩き出す。
…少しの間レインが顰め面だったのは、誰も気付かなかった。







―――そうして辿り着いた、クライステリア・第一神殿最深部。
一番奥の部屋だけ明かりが漏れている。…明らかに不自然だった。
「誰か居る…」
その灯りは間違いなくランプや電灯と言った‘機械系’の灯りだった。イヴが足音を立てずに部屋の前に近付き少しだけ中を覗いてみる。
そこには数人の影が合った。


黒の黒衣を纏った、Жのシンボルを刻みしunion――。

「…ありゃ、‘BLACK SHINE’だな」
イヴと同じように顔を覗かせるレインが、ぽつりと呟いた。
「…BLACK SHINE?」
どこかで聞いたことのあるunion名だ。けれど詳しくは思い出せない。
イヴが頭を悩ませているとその隣に居るマロンが驚いた顔を見せた。彼女はBLACK SHINEがどういうunionなのか知っている様だ。
…此処はレインに聞くよりマロンに聞いた方が正しい判断だろう。
「BLACK SHINEって何だっけ?」
イヴが振り向き、彼女の顔を見つめながら呟いた。
その言葉にロアが「はぁ?!」と向こうに聞こえないぎりぎりの音量で声を上げる。
「…や、それは覚えてないと駄目でしょ。イヴっち」
それにレインまでもが小馬鹿にした言い方を返してきた。
「ちょ、ちょっと度忘れしただけよ!!」
慌てて弁解すると、マロンが苦笑気味に笑う。彼女は部屋の明かりの中に居る影を気にしながら説明を始めた。
「BLACK SHINEは悪事を働く犯罪グループみたいなunionだよ。
…cross*unionでは‘裏union’なんて呼ばれてたんじゃなかったかな」
「…ああ、なんか合ったわね。そういうの」
マロンの言葉でイヴが漸く思い出したという顔を浮かべた。
――BLACK SHINE。
‘Ж’のシンボルをシンボルマークにするunion。あたし達の所属するunionからすれば‘裏union’なんて呼ばれる位凶悪な犯罪を起こしたり、誰か
を困らせたり、果ては町を壊滅にまでおいやったり――。
とにかくとんでもないunionである事だけは確かだった。
あんまり関わりたくは無かったのだが…まさかこんな所で関わることになろうなんて。

「…どうする?」
レインの問い掛けに、真っ先にロアが言葉を返す。
「撤退だろ。普通に」
「…そうですね。SAINT ARTSっぽい人も見当たりませんし……」
マロンがロアの言葉に肯定を返す。
「じゃ、一度撤退だな」
レインが笑って頷き、その場から踵を返した。
イヴも同じように踵を返そうとして―――気付く。


「…判断、遅かったみたいよ?」
「……へ?」
「は??」
ロアとマロンが間抜けな声を発した。
レインが苦笑気味にイヴの目線の先――明かりの灯る部屋を覗き込む。





明らかにこっちを見ていた。
…多分誰かの声で気付いたんだと思う。誰の所為だと問い詰める気は無かったが、見つかったからには闘う事を覚悟していた。
鞘から剣を抜いて、少しだけ部屋の中を覗き込む。
マロンは体が強張って動けない様だった。
そんな彼女にレインが軽く笑って言葉を投げる。
「ま、あれは俺とイヴっちが何とかしてくるわ。つー訳でロアはマロンちゃんの事宜しく」
「…ま、それが妥当っぽいな」
ロアが頷き、鞘から双剣を抜く。マロンは闘える状態じゃなさそうなのでロアを護衛に付けて置く事にした。
レインが堂々と部屋の前に立つのでイヴが溜息を吐きながらポケットに突っ込んだ魔弾球を取り出す。

「2人だけど、だいじょーぶ?」
「…あんたに心配されたらおしまいだわ。あたし」
「……そりゃ失礼」
レインの苦笑の声を聞いてから、イヴはBLACK SHINEの人間に向かい、思い切り魔弾球を投げつけた――。










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