「あっちの道じゃないのか?」
「え?こっちの道じゃあ…」

…そう言って、森を歩き始めて早数時間。
隣町まで行くだけなのに、何でこんなに小さな森を何時間もうろうろしているんだろうか。
――答えは簡単だ。誰も地図を正確に読めないのである。
そんな訳で道に迷って早数時間。暗く鳴り始めた空を見上げながらイヴは深い溜息を吐いた。


*NO,2...風来坊*


いくらcross*unionという大きなunionに所属していると言ったって、街の外に出掛ける者は大抵パターン化していたし、そのパターンにイヴもロアも
含まれて居なかった。
ロアの場合は報告書をまとめたり他のメンバーを仕切ったりするのが主な仕事で、イヴの場合はほとんどが雑用だ。
街の外に全く出た事が無い訳じゃないが、此処何年かは出てない事は確かだ。
生まれつき身体の弱いマロンが地図の読み方なんて知る訳も無く、かといって2人も地図を見たのが久しぶり過ぎて何が何を指しているのかさえ
判って居ない。
「…土地とかに詳しい奴。誰か捕まえとくべきだったな……」
ロアがそう言って後悔の声を上げた。
確かにcross*union内に暇そうな奴は結構居たし、その中から1人か2人ぐらい捕まえて道案内をしてもらえばよかった。せめて地図の読み方だけ
でも聞くべきだったかもしれない。
そう思うと余計に気が重くなる。イヴが本日何度目か分からない溜息を吐いた。

「あのさ、イヴ。…お前、手伝うって気はねえの?」
周りをぶらぶらしていると、地図を持ったロアが苦笑で此方に声を投げてきた。
その隣でマロンが地図と道を何度か照らし合わせている。
「無い」
即答すると、ロアの表情が苦笑から引きつった笑みに変わった。
そんな事言われたって初めから手伝う気なんて無いんだから仕方ないじゃない。と、心の中で呟く。あえて声には出さなかった。
けれどこのまま手伝わないのもちょっと無神経かと思うので、仕方なくマロンの傍に寄って見る。

「道、分かった?」
イヴの問いかけにマロンは肩を下ろしながら首を横に振った。
それとほぼ同時だろうか。
下を向いていたら突然黒い影が現れた。




「…何やってんの?」

「……へ?」

イヴの口から思わず間抜けな声が飛び出した。
凛とした…聞き覚えのない声。
マロンとイヴがほぼ同時に顔を上げる。目線の先に居たのは藍の髪色をした男だった。格好からして――恐らく旅人。

「あの…私達、実は道に迷っちゃって……」
マロンが苦笑しながら声を上げる。その言葉に男もまた苦笑した。
「おいおい…こんな小さい森で迷うって、どうなのソレ」
「仕方ないじゃない。外に出たの久しぶりなんだから」
ちょっと苛立った顔のイヴが会話に口を挟む。
漸く納得の顔を見せた男に、ロアが尚話しかけた。

「道、分かるんだろ?良ければ教えてくれよ」
「別に構わねえけど…どっち目指してるんだ?cross*union本部か?」
「その本部から来たんだけど。あたし達」
「…そりゃ、失礼」
イヴの皮肉を、男は少しだけ苦笑して受け流した。
彼は踵を返すと、やってきた方向を指差す。
「あっちが隣町の方向だ。…ま、あんた達また迷いそうだから、俺も着いてくわ」
「はぁっ?!」
イヴが即断固拒否の声を上げた。顔からしてあからさまに嫌がっているのが分かる。
だがイヴ以外のロア、マロンが喜んでOKと言う。…多数決をしても絶対負けるから、これ以上の不満は仕方なく飲み込んだ。

「嬢ちゃんは不満だったか?」
「‘嬢ちゃん’じゃない。イヴよ。イヴ・ローランド」
イヴが顔色一つ変えずに言うと、男が分かったといわんばかりに頷く。
「私、マロン・リステリーって言います」
「俺はロア・マッドラス。――あんたは?」
2人の自己紹介に重ね、男もまた自身の紹介をする。
「俺はレイン。レイン・グローバルだ。宜しく」
男――レインは軽薄に笑いながら、先頭を歩き始めた。










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