BLACK SHINE本部で最後に見た光景は、あたし達から全てのネメシスの石を奪ったレインがそれをノエルに手渡した事。
そして、彼の‘本当の願い’…。
その後何が合ったのかは全員が気絶してたから分からない。
けれど次に瞼を開いた時――BLACK SHINE本部では無い…何処か別の部屋に居た。


*NO,96...消失*


「…おはよう。起きたの?」
体を起こすと既に目を開いていたリネが声を掛けてくる。
――どうやらあたしが一番最後に目を覚ましたみたいだ。部屋にセルシアとロアの姿は無く、アシュリーとマロンは既に壁に凭れ掛かるようにして
座っていた。唯2人共一切元気が無い。そしてリネ自身も瞼が下に下がり気味だ。…あんな事が合ったんだから当たり前だが。
不意に彼女の手首を見ると丁重に包帯が巻かれて治療されていた。…誰かが治療してくれたのだろう。でも、誰が?
「……此処、何処?」
真っ先に疑問に思った事を問い掛けた。俯きがちのリネがぽつりと呟く。
「此処は――」


「――cross*union本部」

不意に後ろから聞こえた声に、リネと2人で慌てて振り返る。
扉の前に立っているのは同じく傷を負った場所に包帯を巻くロアとセルシアだった。それは良いとしても――…。

「…どういう事よ、それ」
「言った通り。…俺達、助けられたんだよ。‘cross*union’に」
瞳を伏せたセルシアが元気の無い声で言った。…確かによく部屋を監察してみればcross*union本部に似ているが、向こうは何であたし達を助け
たんだ?捕まっていたのを脱走したんだから寧ろ捜索されてる身だと思うんだけれど。
近くの開いているベッドに腰を下ろしたロアが頭を押さえながら呟く。
「さっき、セルシアと一緒にリーダーに会いに行った」
「……」
…会いに、行ったんだ。じゃあ此処がcross*union本部ってのは確定か……。
「大丈夫だったの?」
話を聞いていたアシュリーがロアとセルシアに問い掛けた。セルシアも傍に寄ってきてリネの傍に腰を下ろし、少しだけ頷く。
「今は害を加える気は無いみたい。寧ろ――俺達を預かる様に言われたみたいなんだ」
「……誰に」
そんな事言う奴。1人しか居ないと思うけれど一応聞いてみる。
口を閉ざしてしまったセルシアとロアに代わってマロンが震える声を呟いた。



「レイン…?」



「……ああ、そうだよ」

ロアが肯定の返事を返し、セルシアが俯きながらも少しだけ頷く。
――今は此処に居ないかつての仲間…。
レインがどうやらあたし達に情けを掛けてくれたみたいだ。多分気絶した直ぐ後に彼があたし達を此処で預かる様に言ってくれたんだろう。
「意味わかんない!!あたし達を裏切って、攻撃までして来た癖に!!なのに…――なんで、…よぉ…っ……」
膝を抱え込んでリネが泣き出してしまう。リネの背中を少しだけ摩りながらセルシアもまた泣いていた。
…レインはセルシアを、ううん。あたし達の事をきっと心の底から恨んでいる。あの色の無い憎悪の瞳がまだ瞼の裏を離れない。
殺されたって可笑しくない状況だった。それなのにレインはあたし達を殺す事無く寧ろ解放した――…。それってつまり……。


「…あんた、やっぱり最後まであたし達の‘仲間’だったんじゃない……」


――沈黙。
リネとセルシアが寄り添うようにして泣いている事以外、この部屋は無音だ。きっと2人が一番辛いに違いない。
レインをああいう道に立たせてしまったのは、理由は如何であれセルシアとリネの‘過ち’故だから……。

「…‘唯、幸せになりたかった’」
「……?」
「……レインが最後に言った言葉」
多分聞いていたのはあたしだけじゃないだろうか。他の皆は術の直撃で殆ど瀕死か気絶状態だったし。
あたしも大分意識が薄れていたからそれ以外の言葉は一切覚えてないけれど、とにかくレインは最後にそう言った。それだけは本当に鮮明に覚え
てる。後ろ姿だったからよく分からなかったけど。――レイン、多分泣いてたから……。

「…幸せに成りたかったのは、セルシアもリトも一緒だろ……」
頭を押さえたままロアがぽつりと呟く。弁上して顔を伏せていたマロンが声を荒げた。
「レインとセルシアは何処で道が分かれちゃったの…?」
――始めはきっと、2人共同じ道を歩いていた筈だ。
セルシアの願いはリトとリネの2人と唯一緒に過ごして居たかった。レインの願いは多分――ノエルと一緒に居る事、じゃないだろうか。
あたしの推測だから何とも言えないけど多分レインが言ってた‘昔の彼女’ってのは…ノエル……?
9年前のあの事件で、2人には何らかの溝が出来て――やがて2人の思いさえも擦れ違ってしまった。
レインが彼女の話をする時に少し繭を潜めていたのは、そういう事だったんじゃ無いんだろうか…。
だからきっとセルシアもレインもスタートラインは一緒だった。
‘大切な人と一緒に過ごしたい’。それだけだった筈なのに……。

「俺達があんな事しなければ良かったんだ…!!ネメシスの石さえ盗む事無ければ…きっと……レイン達も、傷つく事なんて…無かった……」
リネに寄り添ったまま叫んだセルシアが肩を震わせる。
…確かにネメシスの石を2人が盗まなければ誰の運命も狂わなかったのかもしれない。
けれど、リトもセルシアもそうする事しか出来ないくらいに追い詰められてたんじゃない…。
…仕方ない、という言葉じゃ許されないのかもしれないけど、でもセルシアとリトの事を責める気にはなれない。

自然と涙が零れる。――最後にレインが呟いた言葉…。それは今思えば涙声の掛かった声だった。
幸せになりたかった2人の思いは何処かで何かがずれて――何時しか‘憎しみ’と‘償い’に代わってしまっていた……。
レインは‘セルシアのエゴが悪い’って言ったけれど、きっと彼も心では分かってたんだ。
セルシアもリトも、もうああする事しか出来なかったって事…。

「……」
床に足を付け、ゆっくりと腰を上げる。まだ体の至る所が痛いけれど…多分もう寝てる暇なんて無い。
「イヴ…?」
「…このままじゃ納得行かないもの。あたしは行くわ。――レインに逢いに」
彼の‘本当に望んだ事’。…今なら少しだけ分かった気がするから……。
そしてレインに逢えたなら、あたし達は今度こそ彼の‘心の闇’を救いたい。
それはあたし達を最後まで助けてくれたレインへの――せめてもの償い。

「俺も行くよ。――納得いかないのは俺だって一緒だ」
立ち上がったロアが傍に寄って来る。…少しだけ微笑んで頷いた。
釣られてマロンも立ち上がり、傍に寄ってくる。
「私も行きたい。…レインと、ちゃんと話し合いたい……」
「……また戦うかもしれないわよ?」
多分逢ってもまた戦いになるだろう。レインにとってあたし達はもう‘敵’だから。
そうなった時やっぱり心配なのはマロンだ。無理に戦ってくれとは言わないけれど正直庇いながら戦える自信が無い。
「…大丈夫」
少しだけ微笑んでマロンが返す。彼女が大丈夫と言ってるんだから大丈夫だろう…。同じように微笑み返して頷いた。
さて、あたし達3人は行くけれど――リネ達はどうするんだろう。
暫く3人の様子を伺う。…静寂の中で、壁に寄りかかって俯いたままのアシュリーがぽつりと呟いた。

「私は…行けない……。…かつての仲間に刃を向けること……BLACK SHINEリーダーの話を聞いたときに、決意していた筈なのに…。
……あんなにも怖い事だったなんて、思わなかったから……」
…それはきっと皆一緒だと思う。
かつての仲間と‘敵’として戦う事…。体験するまで思いもしなかった。それがあんなにも恐ろしい事だなんて。
「行きたくない…。……怖いよ…。…戦いたくない……」
涙声でリネが呟く。…きっとそれが正解だ。リネだってあんな事の為に術を習得した訳じゃ無いんだから……。
「…俺も残るよ。2人が心配だし……俺もレインに刃は向けれないと思うから…」
リネの頭を撫でながらセルシアが涙を浮かべながら笑う。…セルシアとしてはきっと一番怖いんだろうな。引き止める権利も無いので頷いた。

「心配しないで。レインなら必ず連れ戻して来るから」
確信は無い。和解出来る自信も無いけれど――胸の中ではまだレインの事を信じてるから…。
だから1%でも信じたい。レインがもう一度此処に帰ってきてくれる事を。そしたら今度は――今度は、絶対に……。

見捨てたり、しない。



「…気をつけて」
セルシアの呟きを聞きながら、マロン、ロアと一緒に部屋を出た。
とは言えどうやってBLACK SHINE本部までもう一度行こうか。アシュリーにジブリールを呼ぶだけ呼んで貰って…。
そう考えているとロアが肩を叩いてくる。
前を向くと――其処には見覚えのある顔が合った。

「具合はどうだい?」
「…お蔭様で平気です。リーダー」

目の前には以前と変わらない優しい笑顔を浮かべた――cross*unionリーダーが立っていた。

「行くのか?――BLACK SHINE本部に」
「レインと話さないといけない事が有りますから、行きます」
「……そうか。…それなら本部行きの転送装置が有る。着いて来なさい」
そう言って踵を返したリーダーが廊下の奥に向かって歩き出した。
…多分罠では無いだろう。マロン、ロアと少しだけ目を合わせてからリーダーを追いかけて歩き出す。


「レイン君は、多分君達を待ってると思う」
長い廊下を歩く中でリーダーがぽつりと呟いた。…待っている、それはどういう意味だろう。
「それはどういう…?」
マロンの問いに対して振り返る事無くリーダーが言葉を続ける。
「元々彼等がBLACK SHINEに入ったのには訳が有るんだ。
グローバルグレイスという自分の故郷を滅ぼされ、身寄りも何もかも失った彼とノエル君の前に現れたのが―――BLACK SHINEリーダー何だよ」
「……それって…」
「…2人は自分から希望してBLACK SHINEに入ったんじゃない。他に身寄りが無かったから、BLACK SHINEに身を預けるしかなかったんだ」

……9年前のあの事件。
帰る場所も何もかも失ったレインとノエルに救いの手を差し伸べたのはBLACK SHINEリーダーだった…。
そして2人もそれ以外に縋る場所が無く…半ば強制的にBLACK SHINEの仲間になった…。
……そんなの、あんまりにも悲し過ぎる…。俯いたら瞳から涙が零れてきた。

きっとレインが医者を目指すのをやめたのはそれが理由。
人を傷つける仕事に回ってしまった自分が、人を救う仕事になどなれる筈が無い。きっとそう思って自分を追い詰めて……。
…結局その夢を捨ててしまった。回復術というモノ自体を戒めとして使用制限する事で、思い描いていたであろう夢を術ごと捨ててしまったのだ。
「……レインもセルシアの事言えねえ位自己犠牲タイプだったって事か…」
眉間に皺を寄せながらロアがぽつりと呟く。…きっとそういう事なんだろうな…。レインもレインなりに罪を背負って懺悔しようとしていたんだ…。
…もしかしたらあたし達を助けたのも、仲間だった誼という事以上に…純粋に彼が人を殺す事を嫌っていたからなのかもしれない。
色々と考える内に廊下の一番奥の――扉の色が違う部屋に到達した。
カードキーを取り出したリーダーがカードキーで部屋のロックを開け、中に入る。
…部屋の中には巨大な魔方陣が描かれていた。魔方陣の中心は白く輝いている。
「陣の中心に立てば、BLACK SHINE本部まで行く事が出来る。
――どうかレイン君達を救ってくれないか。きっと彼等が本当に望んでいるのは…‘救い’の筈だから」
「……必ず」
頷き、軽く頭を下げてから3人で魔方陣の傍に寄った。
白く光っているポイントに立てば良いのだろうか。とにかく青白く光る光に触れてみる――。

途端に宙に浮いている様な感覚に襲われ、辺りが光に包まれ真っ白になる。
何が起きているのかよく分からない内に―――何時の間にかBLACK SHINE本部の大ホール。…レインと戦ったあの場所に立っていた。

…やって来てしまったんだ。もう一度、BLACK SHINE本部に。
ホールは人気が無く全くの無人だ。自分達の息遣いしか聞こえない。

「…とにかくレインに逢わないとな」
「……レインに逢うまで騒ぎを起こす訳には行かないわ。何処かで地図みたいなモノでも見つけて、レインを探すわよ」

今度こそ、彼を救う為に。――彼自身の戒めと弔いから。
奥に見える螺旋階段に向かって3人で歩き始めた。










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