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          ――産声が聞こえた瞬間、席を立ち上がった。 
          
          少しして部屋から出て来たレインに、真っ先に飛び付く。 
          
          「リネは!?」 
          
          「…大丈夫、無事だ」 
          
          手術用の白衣とゴム手袋を付けたレインがそう言って、笑った。 
          
          「女の子だ。良かったな」 
          
          レインはそう言って再び部屋に入って行った。手招きされ、レインの後に続いて部屋に入る。 
          
          ――部屋にはベッドに寝たまま疲れた笑顔を浮かべるリネと…。 
          
          一つのカゴに近づいたレインが、そこからまだ生まれたばかりの赤子を慎重に抱き上げた。 
          
          「抱いてみろよ。お前等の子だろ」 
          
          手渡され、慎重に赤子を受け取る。 
          
          腕の中で元気に鳴き続ける赤子は、とても愛おしかった。 
          
          「セルシア…」 
          
          リネが手を伸ばす。疲れているから抱くのは多分まだ無理だろう。傍に寄って身を屈めた。 
          
          「可愛いよ、ほら」 
          
          腕の中の子を見せると、リネの顔が綻んだ。伸ばした指を、そっと、赤子の頬に擦り付ける。 
          
          「良かっ…た…」 
          
          産後の彼女はとても疲れて居るのだろう。レインにも説得され、一度子供をカゴに戻し、部屋を出た。 
          
          ――リネが18歳の誕生日。初夜を迎えてそれから2年。彼女が妊娠していると知ったのは冬の終わり頃だった。 
          
          俺達はそこから所謂‘できちゃった結婚’と言う奴をし、そして今に至る。 
          
          リネの陣痛が始まる1週間前からレインは此処に留まってくれた。 
          
          出産予定日を考えてなるべく早く来てくれたんだと思う。後でレインにもお礼をしないと。 
          
          気持ちが落ち着かず、部屋の前をうろうろとしているとやがて部屋からレインだけが出てきた。 
          
          「…2人は?」 
          
          2人。と言うと家族が増えた事を実感させられる。 
          
          「寝ちまった。赤ちゃんの方もな」 
          
          「そっか」 
          
          起こすのは可哀想だから部屋には入れないが、もし何か有ったら心配だ。今日は部屋の前で寝よう。 
          
          とにかくレインにお礼をしようと頭を下げた。 
          
          「ありがとう」 
          
          「…頑張ったのは俺じゃなくてリネだ」 
          
          「でも、レインが居てくれたから無事に生まれたんだ。…本当にありがとう」 
          
          何度も頭を下げるとレインが苦笑した。 
          
          とりあえずキッチンで2人分の熱いココアを注ぎ、部屋の前にレインと腰を下ろす。 
          
          「…あのさ、セルシア」 
          
          ココアを一口飲んだレインが、何故か声のトーンを下げた。…何か良くない話何だろうか。 
          
          「…何?」 
          
          それでも聞かないと。問い掛けるとレインが一呼吸置いて、言葉を続ける。 
          
          「リネの背中には、俺がやった不完全なものとは言え術式解呪烙印が有る」 
          
          「…それが、どうかしたの?」 
          
          リネの背中には確かに今も術式解呪烙印があるが、彼女のそれは数年前にもう力を無くしてしまった。 
          
          …元々レインからも‘制限付き’と言われていたのだから、俺もリネも何時か力が無くなる事は分かってたし、寧ろ彼女の力の終わりが早く来て良 
          かったと思う。流石に守られっぱなしは嫌だ。 
          現在リネは烙印の後遺症から詠唱を加えても術を使う事が出来ないし、当然戦う事も出来ない。 
          
          だから何処かに出かける時とか、SAINT ARTS本部に行く時とかは俺が守ってた。勿論、これからもそのつもりだ。 
          
          …その烙印の話をされ、心から嫌な予感がした。 
          
          ――何故今になって6年前の烙印の話をするのだろう。 
          
          「……有ったんだよ。生まれた赤ちゃんにも。リネと同じ烙印が」 
          
          ――思わず、目が丸くなった。 
          
          「それってどういう…?!」 
          
          溜息を吐いた彼が、俺と目を合わせることなく呟く。 
          
          「分からねえ…。少なくともヘレンからはそんな話聞いたことも無かった。 
          
          ――いや、ヘレンも感づかなかったんだろうな。烙印を持った奴が生んだ子供にも烙印が備わる事」 
          
          …この技術を作り上げたのは今は亡きBLACK SHINEリーダーヘレンだが、確かに彼女も知らなかった確率が高い。 
          
          普通そんな事まで考えないだろう。あの烙印はとんでもない所で極力な遺伝子を持っていたのだろうな。 
          
          …仮にヘレンがこの事を知っていたとしても、烙印を打ったレインには遅かれ早かれ説明する筈だ。やはりヘレンも知らなかったのだと思う…。 
          
          「悪い。リネやお前に何て言えば良いか」 
          
          「…6年前。あの烙印を打って欲しいと言ったのはリネだから、きっとリネも後悔はしてないと思う。 
          
          だけど自分の子供もあの力を持ってるって知ったら…やっぱりリネもへこんじゃうかも」 
          
          「…」 
          
          「でもレインの所為じゃないよ」 
          
          微笑むと、レインも少しだけ笑った。 
          
          ――生まれた子供には烙印が備わる。 
          
          正直驚きや戸惑いが隠せないが、レインが言うにそれ以外は普通の乳児と変わりがなく健康体らしい。 
          
          …リネへの説明は俺がしよう。 
          
          とにかくレインも疲れてるだろうから、俺の部屋のベッドを進めて、俺はリネの部屋の前に残った。 
          
          子供も烙印を引き継いでしまったと言う事は、この先もずっと俺達の子孫は烙印を請け負ってくという事なのだろうか。 
          
          ……リネが烙印を受けた事、後悔しなければ良いんだけど。 
          
          小さく溜め息を吐く。 
          
          同時に、思った。 
          
          じゃあレインが将来付き合った女性はどうなんだろう。 
          
          …確率的にマロンだと思うけど、やっぱり2人の子供も烙印を受け継いでしまうのだろうか。 
          
          それも、リネや俺達の子供より強力で完全体に近い烙印を。 
          
          ――レインが落ち込んでたもう1つの理由は多分これだ。 
          
          いたたまれない気持ちになり、目を閉じた。 
          
          (どうか、レインの子供には烙印が授かりませんように) 
          まあ結局この後レインの子供にも烙印が備わることになりますね(( *言い訳* DDの主キャラであるリヨとショナが烙印を持ってる理由について、1度説明しておきたいなあと思ってこうなった(( 別にエロの為に書いた訳ではない。それだけは信じてくれ←←  |