BKACK SHINE本部のベランダで茜色に染まった空を眺めていると、不意に人の気配を感じて振り返った。
――気付くと、男が横暴に座り込んで居る。
「…レインか」
空から目を離し、横に座る藍色の男――レイン・グローバルに声を掛けた。
声を掛けたと同時にレインが不機嫌そうな面を此方に向ける。
「あのさぁ、リト」
声色からしても明らかに不機嫌そうな声だった。
何か怒っている様だ。恐らくノエル辺りに何か機嫌を損ねる様な事でも言われたのだろう。そう思っていたのだが――違った。





「お前、10年前の事は何も覚えてないんだよな?」
唐突な質問だ。
少々疑問に思いながら肯定の返事を返す。
「そうだ、それが何だ?」
記憶に無いモノはないのだから、どうこう言われたってこっちが困る。
そう思っていると男――レインが此方を見上げた。
…レインがBLACK SHINEに入ったのは俺とセルシア・ティグトが犯した過ちから。というのはリーダーから聞いた事が在る。
じゃあ何で俺を此処に入れたのかとリーダーに聞けば、必ず「内緒」と言われてかわされてしまった。
生憎俺には10年前の記憶が無い。
リーダーにそう‘造られた’のだから、当たり前と言えば当たり前だが。


「…お前が目に入るだけで目障りだ」

「それはどうも」

悪態を吐くレインの言葉を軽くかわした。
それ以上会話は無く、俺も再び空に目線を戻すと、再びレインが俺を呼ぶ。
案外コイツは暇だから俺に愚痴を聞かせに来ただけなのか?そう思ったが――どうやらそうでも無い様だった。

「…リネの事も覚えてねえんだよな?」
――リネ。
その名を聞いて一瞬だけ頭痛が駆け巡った。直ぐに痛みは引いていったが、あの痛みは何だったのだろう。
頭痛が引いた後に、男の質疑に静かに答える。
「…知らないな」
どこか懐かしい名前では合ったが、それがどうしてかは思い出せなかった。
…リネ・アーテルム。
BLACK SHINEの活動の邪魔をする奴の一人で、情報に長けたunion‘SAINT ARTS’の一員。
よくセルシア・ティグトと一緒に居る所を見かけるが、それだけだ。俺はそれ意外何も知らない。
強いて言えば彼女もまた俺の過去を知る人間であるという事だけだ。
そう、それだけでしかない。

「それがどうかしたのか?」
レインの方を見ながら問い掛けると、男は眉間に皺を寄せていた。
胡坐を掻いていた体を起こし、俺の前に立つと睨む様にじっと彼を見つめる。
…言いたい事が在るなら早く言え。溜息を吐こうとした瞬間に、レインが声を投げてきた。


「何でお前…何だよ」

ぽつりと呟かれたその言葉に、何となく男が苛立っている理由に感づく。
きっとこの男はリネ・アーテルムの事を――――。


「何で何も覚えてないお前が、あいつに愛される??」


――好きなんだ。


案の定そうだったらしく、レインが胸ぐらを掴み掛かってきた。ブラウンの瞳には何処か憎悪の様な物が見える。…いや、実際そうなのだろう。
彼女が追い求めているのは自分の兄だ。その兄が俺の様だが、俺には関係ない。俺に過去は存在しないのだから。
存在しないモノを突きつけられたって、正直困る。


「あいつはお前を10年経った今でも思い続けて――っ…!まだ…お前が帰って来るって信じてやがる!!
なのに何でお前は何一つ覚えてない!?あいつは――リネは…っ!!」

「レイン」

「お前の事だけを――!!!」


「良い加減にしろ!!」


胸ぐらを掴んで居た手を無理矢理振りほどいた。そして今度は此方がレインの胸ぐらを掴み、顔面を懇親の力で殴る。
鉄拳を食らったレインがよろけて後ろに引き下がった。そんな男に冷酷に声を投げる。



「お前の任務は悪魔でもネメシスの石とイヴ・ローランドの監視だ。奴等にそれ以上の深入りは必要無い。
――リネ・アーテルムも、今は生かしてるがその内抹殺命令が下される筈だ」

まるで機械の様に淡々と当たり前の言葉を告げる。
今俺が言っている事は間違いなく正しいんだ。BLACK SHINEの規律だ。だけど―――。

「これ以上あいつ等に……リネ・アーテルムに余計な感情を抱くな。
リーダーに服従しろ。俺達はあの方に生かされてるんだ。――それを忘れるな」



どうしてこんなに胸が痛いんだろう。



レインを横を通り抜け、テラスを離れた。
扉を閉めると、レインの悔しがる声と床を叩く音が聞こえる。…一瞬立ち止まったが直ぐに自室に向かって歩き出した。
廊下を歩き出しても、まだ耳にレインの声が残っている気がして気分が悪い。早く自室に戻ろう。

「…リネ・アーテルム、か」

確かにあいつは自分の過去について何か知っている様だった。だがそれが何だ?
俺達BLACK SHINEには過去も現在も関係無い。
リーダーに服従するのが絶対的な正義なのだ。正義を裏切った悪に待つのは苦痛なる死のみである。それ以上も、それ以下も無い。

…ひしひしと押し寄せる胸の痛みを隠しながら、ひたすら心の中で理屈を言い聞かせ続けた。







俺はあの子を、どうしたいんだろう。

俺が追い求めている答えでは無いと知っていても、それでも手を伸ばす彼女を。
愛したいんだろうか、殺したいんだろうか。それとも――――。


…これ以上は考えてはいけない気がする。頭から何度も振り払おうとしたが、どうしてもそれが出来なかった。
まるで蜘蛛の巣に片羽を抉られた蝶だ。どんなにもがいても、この呪縛と彼女からは、逃れられない。


(この感情の意味を、俺は知らない)

いや――。知ってはいけないんだ。
これは毒蜘蛛が巣に塗りつけた、甘い甘い毒の罠。










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*言い訳*
Last wish*unionの中でCP濃いモノを書いたのははじめてな気がする。
この小説の改変前小説をあげたフレアが、セルリネよりレイリネ派だから仕方ない(何がだよwwww

肝心のるなさんはセルリネレイリネどっちも大好きです!^p^←←←