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          「……ねえ、セルシア。――どうしてあんたが行方不明の筈の黒のネメシスを持ってるの??」 
          
          ――その言葉の答えなんて分かってる。リーダーからもう何度も聞かされた。 
          
          此処まで追い詰められて、尚も答えないコイツに本気で苛立った。一度何か言っておくべきか…。 
          
          口を開こうとした時、漸くセルシアが乾いた笑顔を浮かべて呟く。 
          
          「…そう。10年前のあの日―――、ネメシスの石を盗んだのは俺達だよ」 
          
          そんな事は知ってる。知ってるからお前にムカついてるんだよ。皆に聞こえない程度でセルシアに舌打をした。 
          
          ――Merciless Tear―― 
          
          セルシアが語ったのは、10年前に起きたネメシスの石強奪事件の裏側の出来事だった。 
          
          リトの事を話す気は無いらしい。話題に触れはしたものの、その1年後のあの事件についてはまだ語る気が無いようだ。 
          
          ま、今言ってもリネが錯乱するだけだろうしな。それも面白いと思うけれど。 
          
          そして9年前の事件を隠したままの10年前の事件は語られ、全てを話したセルシアが涙を零す。 
          
          …リネを救う為、ね。 
          
          理由は始めて知ったけど、そんなエゴが理由で何千人もの人間殺して良いと思ってんのかよコイツ。噛み締めた唇の中で歯軋りをした。 
          
          許せない。コイツだけは死んでも許さない。 
          
          俺とノエルがどんな気持ちでこの9年間過ごして来たと思ってやがる。 
          
          誰の所為で俺達がこんな所に居るんだと思ってる。 
          
          全部お前の所為だよセルシア。 
          
          お前だけは誰よりも残酷に殺してやる。微塵の情緒も其処には要らない。 
          
          俺は復讐者。9年前、グローバルグレイスを闇に葬ったお前に、9年前の生き残りからの報復だ。 
          
          苛立ちを浮かべる中で、他5人は無言のままだ。リネに関しては涙を浮かべている。 
          
          おいおい。お前等全員セルシアの事許す気かよ。コイツはとんでもない男だぞ? 
          
          グローバルグレイスの人間を殆ど殺して、それでも償いとか言ってへらへらと生きて居やがる。どうせならお前もリト・アーテルムと同じように死んで 
          しまえばよかったんだ。お前の罪は死んでも償いきれない重罰なんだよ。 
          ああ、今此処でそれを言えたらどれだけ楽しいだろう。 
          
          この場でセルシアが本当に隠している9年前のあの事件を、全てこいつ等に語る事が出来たなら――そしたら此処に居る全員、きっとセルシアの 
          事を憎み、軽蔑する。セルシアだってそれを恐れて何も言えないんだと思うしな。 
          今すぐコイツに土下座させたい。俺達の幸せを踏みにじっておいて、良く本当に生きていられるよな。首吊って自殺でもすれば良いのに。 
          
          殴りかかりたい衝動を必死に抑える。けれど思想は止まらない。 
          
          本気でこの場で全てを明かしてやりたい。俺がグローバルグレイス出身だという事も、コイツの所為で街が1つ滅ぶ事になった事も、リト・アーテル 
          ムが既に死んでいる事も―――。何もかも、笑声と皮肉を交えて全て暴露してやりたいよ。それが出来たらどれだけ楽だろうな。 
          けれど、残念ながら今はその時期じゃない。リーダーからの命令はまだだ。だからギリギリまでお前達と‘仲良し’を演じてやる。 
          
          精々俺達BLACK SHINEの手の内で踊って置くんだな。 
          
          リーダーから裏切れという命令が来たら、お前達と馴れ合うのもお終いだ。一気に地獄まで突き落としてやる。 
          
          そして、セルシアをこの手で殺してやる。 
          
          お前が9年前のあの事件の真犯人だとリーダーから全て聞いたから、俺はお前達6人の監視役を引き受けた。 
          
          監視の期間が終われば、お前が殺したいだけ殺せば良いと。あの人は俺に約束してくれたから。 
          
          体を動かす信念は復讐だけ。お前達と馴れ合うのは、復讐という全ての憎悪がお前を見るだけで蒼い炎を燃やすから。 
          
          …駄目だ。考えれば考える程、コイツを血祭りに上げたくなってくる。 
          
          「ちょっと出て来る」 
          
          これ以上コイツが泣いてるの見ると本気で殺しに掛かりそうだ。踵を返して部屋を出た。 
          
          人気の無い場所まで来て、一度。思い切り壁を殴る。 
          
          何が懺悔だ。何が弔いだ。何が償いだ。全部全部全部全部お前等の偽善でエゴじゃねえか!! 
          
          それで何人の人間が犠牲になったと思ってる。何人の命が無駄死にしたと思ってる。 
          
          誰の所為で俺とノエルがBLACK SHINEに引き込まれたと思ってる――!!! 
          
          「畜生!!」 
          
          もう一度壁を強く殴る。許さない。アイツだけは絶対に許さない。 
          
          お前だけは一番残酷な方法で殺す。 
          
          ――…良い事を思いついたよ。 
          
          お前の前でリネを殺してやる。精々救えない苦しみに泣き叫べ。 
          
          目の前でリネの腹を切り開いて、中に詰まってる物引きずり出してやる。引きずり出した内臓でもセルシアに食べさせてやろうか。 
          
          人間て不思議なモンでな。内臓引きずり出しても有る程度は生きてるらしいぜ? 
          
          持って来いじゃねえか。リネにもセルシアにも復讐出来る。 
          
          リネを殺したら今度は誰を目の前で殺してやろうか。 
          
          それともお前の腸を引き裂いてリネの体にでも詰めるか?? 
          
          はは。何やっても面白そうだ。お前の泣き叫ぶ顔想像するだけで笑みが零れて来るよ。 
          
          だから、今は我慢してやる。馴れ合いもお前を地獄に突き落とすための準備。 
          
          信頼していた奴からの裏切りは、結構キツいぞ? 
          
          おまけにその信頼してた奴にリネ共々拷問されて殺されるんだからな!!! 
          
          壁に手をついて、笑った。笑いが止まらない。想像するだけで爆笑物だ。 
          
          廊下に笑声だけが空しく響く。響く笑いに涙が零れる。 
          
          意味分かんねえ。何で泣いてるんだよ、俺。 
          
          笑声に涙が混じっても笑った。何時しか笑いが嗚咽になっても、壁に手をついて笑い続けた。 
          
          (そうさ。本当はもう気付いてる。 
          
          セルシアが本気で反省してる事も、アイツがこの9年間ずっと償ってきた事も) 
          
          やり場の無いこの怒りは何処へ向かえば良いんだろう。 
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